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27話 レジャーとハプニング
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唐突ですが、13歳になりました。セシリーみたいに男の子が殺到する事もなく平穏に過ぎようとしています。ただ、いつもと違うのは……。
「お茶が入りました、フィリップ様」
「ああ、ありがとう」
ジェラルド司祭の所にお客さんが滞在しているという事。オルディス卿の元屋敷に入居しようとして家財道具が届かなくて困って居るところを助けたのが二日前で……。いまだに荷物は届かず、一行は司祭館に滞在していた。
「フィリップ様もエメラインお嬢様もどこかに出かけられては?」
二人ともここに来てからずっと部屋にひっこんだままだ。荷物を待っていたっていうのもあるんだろうけど。
「って言っても、田舎だから何にもないですけど。空気とごはんは美味しいですよ」
「外出ねぇ……」
「散歩くらいしないと体に悪いです。……そうだ、釣りなんてどうでしょう」
「釣りか……おーいエメライン、釣りに行こう」
と、フィリップ様がエメラインお嬢様に声をかけると、窓の外をぼんやりと見ていたエメラインお嬢様が振り向いてこちらを見た。
「……私はいい。お兄様だけ行ってらして」
「そうか?」
エメラインお嬢様はそれだけ言うとまた窓の方に向き直った。私とフィリップ様は思わず顔を見合わせた。そりゃ、エメラインお嬢様はいかにも儚げなんだけど特に体に悪いところはないんだからさぁ。
「あー、その……アンナマリー、釣り道具を貸してくれるか」
「よろしいんですか?」
「ああ、俺はちょっと外に出たい」
「そうですか、それでは準備して参ります」
私は、一旦下に降りると倉庫から釣り道具を引っ張り出して来た。
「フィリップ様、こちらです」
「ああ」
「若様、どちらへお出かけで?」
戸口で私がフィリップ様に釣り道具を渡していると従者のホークがやってきた。
「ちょっと気分転換に釣りに行ってくる」
「では私も……」
「いや、いい。その代わり、アンナマリーちょっと付き合ってくれ」
「へっ、私ですか?」
「川までの道が分からないし」
そっか。突然のご指名に驚いたんだけど、そりゃそうよね……。私は奥様に了解を取ると、フィリップ様を村のはずれの川まで案内することになった。
「ここの先の……ほら、見えて来ました」
「うーん、気持ちいいな」
川面を吹く秋風に髪を揺らしながらフィリップ様は大きく伸びをした。すると男らしいシルエットがくっきりと浮かび上がる。ちょっとドギマギしながら私は目をそらした。
「さすがにあんな部屋に籠もっていると、体がなまる。乗馬でもできれば良いんだが」
「乗馬がお好きなんですか?」
「ああ、乗馬にボクシングに剣術に……体を動かすのは好きだな」
そう言うとフィリップ様は上着を脱ぎ捨て、靴と靴下を脱いで裸足になって芝生を踏みしめた。ズボンをたくし上げる。そうして、竿を振って仕掛けと針を川に放り込むと岩場に座り込んだ。
「……アンナマリー、エメラインの事をどう思う」
「どう、ですか? そうですね……すごく大人しい方だなぁと」
「俺は軍に学校にと不在がちでね。久々に家に戻ったらあの始末だ……正直、これで良かったのかも迷ってる」
そう言ってフィリップ様は空を仰いだ。深い青色の瞳には憂いの色が浮かんでいる。
「大丈夫、です。きっと。だってこんなに優しいお兄様がいらっしゃるんですもの」
「そうか、アンナマリーは優しい子だね」
「はは……そうですかぁ?」
「うん、一昨日も親切に司祭館まで案内してくれたしね」
それは人として当然だと思うし、私そんなに良い子じゃないよ。
「そうだ、こっちにおいでアンナマリー」
「なんですか?」
「いいから隣へ。はいあーん」
私が隣に行くとフィリップ様は口をあけた。へ? 私にもあーんしろってこと!?
「フィリップ様……もがっ」
「どうだ、チョコレートだ。美味しいだろ」
「おい、しい……です……」
言ってる端から耳が熱を持っていく。私の顔は今真っ赤に違いない。なんとかそれだけ言うと私は顔をそらした。指が、指が唇かすったぁ……! チョコレートなんて久々なのに味なんて全然わかんない。
「どうした? 飴を買ってたから甘い物は好きだと思ったんだが」
「好きですけど……!」
それよりなにより恥ずかしすぎる! 私はフィリップ様から少しでも距離を取ろうと後ずさった。
「あ、アンナマリー!」
「へ?」
「――危ない!!」
フィリップ様がそう叫ぶと同時に岩場にけづまづいて体のバランスが大きく崩れた。やばい、川に落ちる――。
その瞬間、フィリップ様の手が私の腕を掴んだ。ほっ、良かった。……って思ったんだけど。
「あ」
「あ?」
バシャーン、と水柱が立つ。残念ながらフリップ様もろとも川に落ちてしまった。ああ、ごめんなさい。私が重いから。
「フィリップ様!!」
「あたた……大丈夫かい、アンナマリー」
川は大して深くない。溺れることなく私たちは起き上がった。
「大丈夫です。何かあっても自分で回復しますから!」
「そりゃそっか……と……」
こちらを向いたフィリップ様が一瞬ぎょっとした顔をして顔を背けた。
「どうしたんですか?」
「アンナマリー、川を上がったら俺の上着があるからそれを羽織るといい」
「いえ、フィリップ様が風邪をひいてしまいます」
「違うんだ……その……透けてる……から」
最後は蚊の鳴くような声になったフィリップ様を見て、私は自分を見下ろした。げ! 水であるかないか微妙な私の胸が!!
「きゃあああ! 申し訳ございません!!」
私は慌てて川から上がるとフィリップ様の上着を羽織った。うわー! チョコレート以上に恥ずかしい……。
「はははは!」
「な、何笑ってるんですか! もう帰りますよ! ホントに風邪ひいちゃいますから」
「そしたらアンナマリーが治してくれるんだろ?」
「……治しません。フィリップ様はベッドでお休みしていただきます」
「冷たいな」
怒って先を行く私を追いかけてきたフィリップ様は幾分スッキリとした顔つきになっていた。それにしても……全身びしょ濡れで帰って、旦那様と奥様になんて言おう……。
「お茶が入りました、フィリップ様」
「ああ、ありがとう」
ジェラルド司祭の所にお客さんが滞在しているという事。オルディス卿の元屋敷に入居しようとして家財道具が届かなくて困って居るところを助けたのが二日前で……。いまだに荷物は届かず、一行は司祭館に滞在していた。
「フィリップ様もエメラインお嬢様もどこかに出かけられては?」
二人ともここに来てからずっと部屋にひっこんだままだ。荷物を待っていたっていうのもあるんだろうけど。
「って言っても、田舎だから何にもないですけど。空気とごはんは美味しいですよ」
「外出ねぇ……」
「散歩くらいしないと体に悪いです。……そうだ、釣りなんてどうでしょう」
「釣りか……おーいエメライン、釣りに行こう」
と、フィリップ様がエメラインお嬢様に声をかけると、窓の外をぼんやりと見ていたエメラインお嬢様が振り向いてこちらを見た。
「……私はいい。お兄様だけ行ってらして」
「そうか?」
エメラインお嬢様はそれだけ言うとまた窓の方に向き直った。私とフィリップ様は思わず顔を見合わせた。そりゃ、エメラインお嬢様はいかにも儚げなんだけど特に体に悪いところはないんだからさぁ。
「あー、その……アンナマリー、釣り道具を貸してくれるか」
「よろしいんですか?」
「ああ、俺はちょっと外に出たい」
「そうですか、それでは準備して参ります」
私は、一旦下に降りると倉庫から釣り道具を引っ張り出して来た。
「フィリップ様、こちらです」
「ああ」
「若様、どちらへお出かけで?」
戸口で私がフィリップ様に釣り道具を渡していると従者のホークがやってきた。
「ちょっと気分転換に釣りに行ってくる」
「では私も……」
「いや、いい。その代わり、アンナマリーちょっと付き合ってくれ」
「へっ、私ですか?」
「川までの道が分からないし」
そっか。突然のご指名に驚いたんだけど、そりゃそうよね……。私は奥様に了解を取ると、フィリップ様を村のはずれの川まで案内することになった。
「ここの先の……ほら、見えて来ました」
「うーん、気持ちいいな」
川面を吹く秋風に髪を揺らしながらフィリップ様は大きく伸びをした。すると男らしいシルエットがくっきりと浮かび上がる。ちょっとドギマギしながら私は目をそらした。
「さすがにあんな部屋に籠もっていると、体がなまる。乗馬でもできれば良いんだが」
「乗馬がお好きなんですか?」
「ああ、乗馬にボクシングに剣術に……体を動かすのは好きだな」
そう言うとフィリップ様は上着を脱ぎ捨て、靴と靴下を脱いで裸足になって芝生を踏みしめた。ズボンをたくし上げる。そうして、竿を振って仕掛けと針を川に放り込むと岩場に座り込んだ。
「……アンナマリー、エメラインの事をどう思う」
「どう、ですか? そうですね……すごく大人しい方だなぁと」
「俺は軍に学校にと不在がちでね。久々に家に戻ったらあの始末だ……正直、これで良かったのかも迷ってる」
そう言ってフィリップ様は空を仰いだ。深い青色の瞳には憂いの色が浮かんでいる。
「大丈夫、です。きっと。だってこんなに優しいお兄様がいらっしゃるんですもの」
「そうか、アンナマリーは優しい子だね」
「はは……そうですかぁ?」
「うん、一昨日も親切に司祭館まで案内してくれたしね」
それは人として当然だと思うし、私そんなに良い子じゃないよ。
「そうだ、こっちにおいでアンナマリー」
「なんですか?」
「いいから隣へ。はいあーん」
私が隣に行くとフィリップ様は口をあけた。へ? 私にもあーんしろってこと!?
「フィリップ様……もがっ」
「どうだ、チョコレートだ。美味しいだろ」
「おい、しい……です……」
言ってる端から耳が熱を持っていく。私の顔は今真っ赤に違いない。なんとかそれだけ言うと私は顔をそらした。指が、指が唇かすったぁ……! チョコレートなんて久々なのに味なんて全然わかんない。
「どうした? 飴を買ってたから甘い物は好きだと思ったんだが」
「好きですけど……!」
それよりなにより恥ずかしすぎる! 私はフィリップ様から少しでも距離を取ろうと後ずさった。
「あ、アンナマリー!」
「へ?」
「――危ない!!」
フィリップ様がそう叫ぶと同時に岩場にけづまづいて体のバランスが大きく崩れた。やばい、川に落ちる――。
その瞬間、フィリップ様の手が私の腕を掴んだ。ほっ、良かった。……って思ったんだけど。
「あ」
「あ?」
バシャーン、と水柱が立つ。残念ながらフリップ様もろとも川に落ちてしまった。ああ、ごめんなさい。私が重いから。
「フィリップ様!!」
「あたた……大丈夫かい、アンナマリー」
川は大して深くない。溺れることなく私たちは起き上がった。
「大丈夫です。何かあっても自分で回復しますから!」
「そりゃそっか……と……」
こちらを向いたフィリップ様が一瞬ぎょっとした顔をして顔を背けた。
「どうしたんですか?」
「アンナマリー、川を上がったら俺の上着があるからそれを羽織るといい」
「いえ、フィリップ様が風邪をひいてしまいます」
「違うんだ……その……透けてる……から」
最後は蚊の鳴くような声になったフィリップ様を見て、私は自分を見下ろした。げ! 水であるかないか微妙な私の胸が!!
「きゃあああ! 申し訳ございません!!」
私は慌てて川から上がるとフィリップ様の上着を羽織った。うわー! チョコレート以上に恥ずかしい……。
「はははは!」
「な、何笑ってるんですか! もう帰りますよ! ホントに風邪ひいちゃいますから」
「そしたらアンナマリーが治してくれるんだろ?」
「……治しません。フィリップ様はベッドでお休みしていただきます」
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