私の大好きな彼氏はみんなに優しい

hayama_25

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第56話

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 学校の門をくぐると、私は少しほっとした。
 安全な場所にきたという安心感が広がる。

「とりあえず、保健室に行こっか」

 柊先輩が沙紀先輩を支えながら言う。

「うん、ありがとう」

 私たちは校舎の中に入り、保健室へと向かう。

 廊下を歩くたびに、心臓の鼓動が少しずつ落ち着いてくる。

 柊先輩が保健室のドアを開けると

「あら、どうしたの?」

 先生が心配そうに尋ねた。

「足を捻ってしまったみたいで…」

 私は沙紀先輩の状態を説明する。

「そこ座って。足触るから痛かったら言ってね」

 先生は優しく言いながら、沙紀先輩の足を診察する。

「はい、…っ、」

 沙紀先輩は少し痛そうに顔をしかめる。

「ちょっと腫れてるね。湿布貼って様子見ようか。一週間ぐらいで治まってくると思うよ」

 先生の言葉に、私は胸が締め付けられる。

 …1週間、

 私を庇ったせいで、先輩が怪我をした。

「はい、ありがとうございます」

 __私のせいだ。

 心の中で罪悪感が広がる。

「沙紀先輩、本当にごめんなさい」

 謝ることしか出来ない自分が情けない。

「謝らないでよ。心桜ちゃんのせいじゃないでしょ?先に行ってって言ってくれたのに、それを聞かなかったのは私なんだから」

 沙紀先輩は優しく微笑んでくれるけど、

 そんなのは理由にならない。

「それは、私のことが心配で戻って来てくれただけで、やっぱり悪いのは…」

 悪いのは私だ。

 前回といい、また怪我をさせてしまうなんて。

「悪いのは、心桜ちゃんじゃなくてあの男の人でしょ?」

「それは…、いえ、やっぱり私のせいで怪我をしたのには変わりありません」

 怪我をさせたのはあの人でも、私の代わりに怪我をした。

 それは紛れもない事実だ。

「この話はもう終わりにしよ」

 沙紀先輩はきっぱりと言う。

「でも、」

 本当にそれでいいんだろうか。

「それに、私はごめんよりもありがとうの方が嬉しいんだけどな」

 …そうだ。

 私、謝ってばっかりでまだ一度もお礼を伝えていなかった。

「先輩…助けてくれてありがとうございました」

「ふふ。どういたしまして」

 先輩は嬉しそうに微笑んだ。

「沙紀、俺からもお礼を言うよ。ありがとう。心桜を助けてくれて」

「…別に、柊のためじゃないんだからね、」

「うん。でも、ありがとう」

 柊先輩は優しく微笑む。

「先輩の足が治るまで、私のこと扱き使ってください。いや、治ってからでも沙紀先輩が言うことなら何でも聞きます」

 本心だった。

「大袈裟だなぁ。大丈夫だよ。大怪我した訳じゃあるまいし」

 沙紀先輩は笑いながら答える。

「いえ、命の恩人なのでこのぐらい当然です。それに、私の気が収まらないので」

 私は強く言い返した。

「ほんとに気にしないでよ。私が助けたくて助けただけなんだし」

「心桜大丈夫。俺が心桜の代わりに責任持って世話するから」

 柊先輩が力強く言う。

「別に柊に面倒見てもらわなくたって平気です~」

 沙紀先輩は少し照れながら答えた。

「そんなこと言って、俺の支えなかったら歩けないくせに」

 柊先輩は冗談めかして言う。

「…それは、そうだけど」

 沙紀先輩は少し恥ずかしそうに答える。


 きっと、前だったら二人が笑いあっているのを見ただけでも、勝手に傷ついて落ち込んでた。


 でも今は、微笑ましいと思える自分がいる。


 それはきっと、二人の関係を心から信じられるようになったからだと思う。



 そんな風に思える自分も好きになれた。
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