私の大好きな彼氏はみんなに優しい

第58話

　授業が始まると、私はノートを開きながらも、心の中では今日の出来事が頭から離れない。

　先生の声が遠くに感じられ、集中するのが難しい。

　沙紀先輩の怪我、あの男の脅威、そして自分の無力さが胸を締め付ける。

　授業が進む中、私は何度も時計を見てしまう。

　時間が経つのが遅く感じられる。

　早く昼休みになって、柊先輩や沙紀先輩と話したい。

　そんなことを考えている4回目の授業。

　そして、やっとのことで授業が終わり、昼休みのチャイムが鳴る。

　私は急いでお弁当を持って教室を出た。

　沙紀先輩と柊先輩が待っている屋上に向かう途中、心臓がドキドキと早鐘を打つ。

　今日の出来事が頭から離れないけど、二人と一緒に過ごすことで少しでも安心したいと思う。

　廊下を歩いていると、突然後ろから声がかかった。

「心桜ちゃん、」

　振り返ると、遥希くんが立っていた。

　彼の顔には心配の色が浮かんでいる。

「遥希くん、どうしたの？」

　様子がおかしいような…

「話したいことがあって」

　大事な話みたいだ。

「ごめん、先輩のところに行かないと。後ででもいい？」

　大事な話だからこそ、ちゃんと聞いてあげたかった。

　急いでいない時に、ゆっくりと。

「先輩って、沙紀先輩？」

　どうしてそんなことを聞くんだろう。

「うん、柊先輩もいるけど…」

「そっか。分かった。ごめんね引き止めて」

　謝らないといけないのは、私の方。

　たくさん話聞いて貰ったのに、

　今日だけは。

　どうしても先輩のところに行かないと行けなかった。

「ううん、私の方こそごめんね。また後で」
「うん」

　そして、私は再び廊下を歩き始めた。

　屋上に続く階段を上ると、冷たい風が頬を撫でる。

　屋上のドアを開けると、沙紀先輩と柊先輩が待っていた。

　二人の顔を見ると、少しだけ安心する。

「心桜、こっちだよ」

　柊先輩が手を振って呼びかける。

「ごめん、待たせちゃって」

「大丈夫だよ」

　沙紀先輩が優しく微笑む。

　先輩の足に貼られている湿布が目に入った。

「先輩。あの…本当にごめんなさい」

　私は再び謝る。

　先輩に怪我をさせてしまったのは今回で二度目だ。
　謝っても謝りきれない。

「ほんとに気にしないでよ。私がしたくてしたことなんだし。それに、心桜ちゃんのせいじゃない」

「そうだよ。心桜は何も悪くない」

　柊先輩も同意する。

　その言葉を鵜呑みにした訳じゃないけど、少しだけ罪悪感が減った気がした。

「詳しいことは分からないけど、あの人が危険な人だってことは分かる」

　沙紀先輩には、カフェでの出来事はまだ話せていない。

「あの男の人は、きっとまた現れる」

　私は、不安を口にした。

　今度は、本気で私のことを襲ってくる。
　そんな気がする。

「俺がいるから大丈夫だよ。俺が心桜を守る」

　柊先輩が力強く言う。

　その言葉に少しだけ安心した。

　こんなに穏やかな気持ちでお弁当を食べられるのは、いつぶ…ちょっと待って、



「…おかしい」