私の大好きな彼氏はみんなに優しい

hayama_25

文字の大きさ
96 / 181

第96話

しおりを挟む
「…文化祭に行きたくない」

 私は、遠慮がちにそう呟いた。

 言葉が口をつく瞬間、胸の中に押し込んでいた重たい感情が一気に広がるのを感じた。

「え?」

 遥希くんが驚いた顔で私を見つめた瞬間、胸がぎゅっと締め付けられた。

「あ…、」

 彼の目に映る戸惑いと心配そうな表情が、私に自分の発言の重さを突きつけてくる。

 やっぱり、こんなこと言わなければよかった。

 何を考えてたんだろう、私…。

 彼を困らせたくない、悲しませたくない、それなのに…。

 彼の優しさを知っているからこそ、その表情を見るのがつらかった。

 後悔が一気に押し寄せてきて、声を詰まらせそうになる。

 私は一瞬だけ目を伏せ、深呼吸をしてから、慌てて次の言葉を口にした。

「って言ったらどうする?」

 声が少し震えていたかもしれない。

 こんなことを聞いてどうなるのだろう。

 遥希くんの視線を感じながら、言い訳のようにこの言葉を続ける自分が情けなく感じた。

 でも、そうでもしないと、この状況の重さを軽くすることができなかった。

 彼がどう返事をするのか分からない時間が、とてつもなく長く感じられる。

 遥希くんの言葉を待ちながら、自分の中で渦巻く感情を整理しようと試みるけれど、どれもうまく言葉にできない。

 そもそも私の「文化祭に行きたくない」という言葉は、単なる逃げだったのかもしれない。

 自分の気持ちをうまく整理できないまま、ただ彼の優しさに頼りたくて口にしてしまったのだろう。

 それが彼にどう響いたのかを考えると、自分の軽率さを恨めしく思った。

 彼を巻き込んでしまったという罪悪感が、じわじわと広がっていく。

 それなのに、彼の反応がどう出るのかを想像して、少しの希望も抱いている自分もいた。

 もしかしたら、彼が優しい言葉をかけてくれるのではないかという期待が、心のどこかで浮かんでいた。

 私は…どこまでいっても自分勝手だ。

「え、あ、もしもの話?」

 遥希くんが少し戸惑いながら答える。

 その声に少し安心したような、けれど同時に彼を困惑させてしまったと感じる後ろめたさが心に広がった。

「そう、もしもの話」

 私は少し笑みを作りながら答えたが、その笑みにはどこか無理があった。

「んー。まずはどうして行きたくないのか、理由を聞く、かな。それで不安要素を取り除いてあげたい」

 遥希くんの真剣な声が、私の心を包み込んだ。

 その優しさに、胸が少しだけ軽くなったように感じた。

 深く気にしていないようで安心した、と同時に…

「そっか、」

 私は小さく呟いた。

 遥希くんの言葉に感謝しながらも、自分の気持ちの中にわだかまるものが残っていた。


 やっぱり"行かない"という選択肢なんて、ないんだよね。



 そんな風に思うと、ふと胸が重たくなる。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

会長にコーヒーを☕

シナモン
恋愛
やっと巡ってきた運。晴れて正社員となった私のお仕事は・・会長のお茶汲み? **タイトル変更 旧密室の恋**

好きな人の好きな人

ぽぽ
恋愛
"私には何年も思い続ける初恋相手がいる。" 初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。 恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。 そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

もう捕まらないから

どくりんご
恋愛
 お願い、許して  もう捕まらないから

契約通り婚約破棄いたしましょう。

satomi
恋愛
契約を重んじるナーヴ家の長女、エレンシア。王太子妃教育を受けていましたが、ある日突然に「ちゃんとした恋愛がしたい」といいだした王太子。王太子とは契約をきちんとしておきます。内容は、 『王太子アレクシス=ダイナブの恋愛を認める。ただし、下記の事案が認められた場合には直ちに婚約破棄とする。  ・恋愛相手がアレクシス王太子の子を身ごもった場合  ・エレンシア=ナーヴを王太子の恋愛相手が侮辱した場合  ・エレンシア=ナーヴが王太子の恋愛相手により心、若しくは体が傷つけられた場合  ・アレクシス王太子が恋愛相手をエレンシア=ナーヴよりも重用した場合    』 です。王太子殿下はよりにもよってエレンシアのモノをなんでも欲しがる義妹に目をつけられたようです。ご愁傷様。 相手が身内だろうとも契約は契約です。

記憶のない貴方

詩織
恋愛
結婚して5年。まだ子供はいないけど幸せで充実してる。 そんな毎日にあるきっかけで全てがかわる

冷たかった夫が別人のように豹変した

京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。 ざまぁ。ゆるゆる設定

美人な姉と『じゃない方』の私

LIN
恋愛
私には美人な姉がいる。優しくて自慢の姉だ。 そんな姉の事は大好きなのに、偶に嫌になってしまう時がある。 みんな姉を好きになる… どうして私は『じゃない方』って呼ばれるの…? 私なんか、姉には遠く及ばない…

処理中です...