その魔法が解ける前に

hayama_25

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第78話

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「謝らないで。花澄が俺に質問してくれるのは初めてだから、驚いただけだよ」

 その言葉に、胸の奥がじんと温かくなった。

 その一言が、私の不安をそっと包み込んでくれた気がした。

 それは、私の言葉を否定するのではなく、受け止めてくれる姿勢だった。

「…周りには、恵まれてると思う。家族も友達も」

 壱馬さんの声は、静かで、どこか遠くを見ているようだった。

 そこには、“誰かに支えられてきた人”の優しさが滲んでいた。

「だから壱馬さんは素敵な人なんですね。いやきっと、壱馬さんが素敵だから周りに素敵な人が集まるんですね」

 言葉が自然とこぼれた。
 それは、心からの本音だった。

 壱馬さんの優しさは、誰かに与えられたものだけじゃなくて、彼自身が育ててきたものだと思う。

 だからこそ、彼の周りには、同じようにあたたかい人たちが集まる。

 そう思ったら、胸の奥がじんわりと温かくなった。

 でも、言った瞬間、少しだけ恥ずかしくなった。

 こんなことを面と向かって言うなんて、私らしくない気がして、頬が熱くなるのを感じた。

「今あんまり可愛いこと言わないでくれる?」

 壱馬さんの声が、少し低くなった。
 その言葉に、心臓が跳ねた。

 彼の声のトーンが、いつもより少しだけ甘くて、その響きに、胸がざわついた。

「え、?」

 思わず声が漏れた。
 何を言われたのか、すぐには理解できなかった。

 でも、その視線に体温が上がるのを感じた。

 彼の言葉の意味を考えるほどに、胸の奥がじんじんと熱くなっていく。

「襲いたくなる」

 その言葉に、息が止まりそうになった。

 冗談だと分かっていても、その響きがあまりにも直球で、胸の奥がじんと熱くなった。

「またそんなこと言って、」

 そう言って、私は布団を顔の前まであげた。
 顔を隠すことで、自分の動揺を隠そうとした。

 頬が熱くなっているのが分かって、壱馬さんに見られたくなかった。

 熱のせいだと、誤魔化すことはできるのだろうか。

「冗談。病人を襲ったりはしないよ」

 壱馬さんの声が、少しだけ優しくなった。

 ゆっくり布団を下ろす。

 顔を隠していた布団の縁が、少しずつ視界を開いていく。

 彼の表情が見えるのが怖くて、でも、見たい気持ちが勝っていた。

 彼の目が、どんなふうに私を見ているのか。
 それを知りたかった。

 その視線に、何が込められているのか。
 それを、ちゃんと受け止めたかった。

「ま、今は。だけど」

 その言葉に、また心臓が跳ねた。

 その言葉の余韻が、部屋の空気を少しだけ甘く染めた。

 今はという言葉が、“いつか”を予感させた。



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