46 / 54
2章 うんめいにみちびかれて
45話 私兵
しおりを挟む
45話 私兵
「目覚めましたか」
「……」
まさか、生きているとは思わなかった。何度も何度も手放そうとして、結局だれかに止められる。死にたい気持ちも消してくれればいいのに。……それすらも幸運なのだろうか。
「ここは俺の家だから安心してください。おーい。パール!」
「はーい。目覚めたのですね。こんばんは」
「……?」
知らない大人の夫婦。ここはふたりの家みたい。私はあそこで溺れた後、助けられ、今はベッドで眠っている。屋敷とは違った、固くて砂みたいなベッド。背中が引きちぎれるかと思ったら、ベッドが違うからか。
「はじめまして。私はパール・ブルートン。隣は夫のガスです」
「……」
少し奥の椅子に座っていた女性が自己紹介を始めた。聞いたことのない名前だ。肩までの長さの茶髪、水色と白色のワンピースを着た50代くらいの女性。優しそうな笑顔と、穏やかな声が印象的だった。
「俺は……」
「もう紹介したからいいよ」
パールはガスの肩を叩き、事情を説明する。
「ごめんなさい。この人耳が聞こえづらくて。私が話すから大丈夫ですよ。あなたは底無川で溺れて、私たちが助けました。あなたはどこのだれでしょうか……?」
パールの夫、ガスの特徴を聞いて彼を見る。暗いグリーンの髪に、顎髭、半袖から出た腕の傷跡。ルクとは違って、筋肉質でたくましい身体だ。お父様みたい。強そうな人に見えるから、耳が聞こえづらいなんて思わなかった。
「……」
「あの、俺の勘違いなのかもしれませんが、ヴィトリー様に似てますよね……」
見つめられてハッとする。探られているというより、単純な疑問のようだった。恐る恐る尋ねる姿は、見た目からは想像できないほどの繊細さを感じた。
「?」
「人違いだったら申し訳ないのですが……。ティベリウス・ヴィトリー様をご存知ですか? 20年以上前、俺はヴィトリー様の元にいた兵士で、一緒に戦場へ行ったことがあります」
「……」
ガス・ブルートン。彼の名前を聞いたことはなかったけど、ただの他人というわけではなさそう。
ティベリウス・ヴィトリー――私の父の名前。私兵を持つ軍人で、かつて、戦場で戦ったことがある。父と同年代ならば、40~50歳くらいだろうか。まさか、こんなところで父の部下と会うとは……人生、よくわからないものだ。
不本意だけど、助けてくれたお礼をしなければ。別に何が起きたっていい。もうこの命はないものだし。問題は、どうやって伝えるかだ。口は封じられ、必ずしも筆談ができるとは限らない。それなら、もしかしたら……。
「目覚めましたか」
「……」
まさか、生きているとは思わなかった。何度も何度も手放そうとして、結局だれかに止められる。死にたい気持ちも消してくれればいいのに。……それすらも幸運なのだろうか。
「ここは俺の家だから安心してください。おーい。パール!」
「はーい。目覚めたのですね。こんばんは」
「……?」
知らない大人の夫婦。ここはふたりの家みたい。私はあそこで溺れた後、助けられ、今はベッドで眠っている。屋敷とは違った、固くて砂みたいなベッド。背中が引きちぎれるかと思ったら、ベッドが違うからか。
「はじめまして。私はパール・ブルートン。隣は夫のガスです」
「……」
少し奥の椅子に座っていた女性が自己紹介を始めた。聞いたことのない名前だ。肩までの長さの茶髪、水色と白色のワンピースを着た50代くらいの女性。優しそうな笑顔と、穏やかな声が印象的だった。
「俺は……」
「もう紹介したからいいよ」
パールはガスの肩を叩き、事情を説明する。
「ごめんなさい。この人耳が聞こえづらくて。私が話すから大丈夫ですよ。あなたは底無川で溺れて、私たちが助けました。あなたはどこのだれでしょうか……?」
パールの夫、ガスの特徴を聞いて彼を見る。暗いグリーンの髪に、顎髭、半袖から出た腕の傷跡。ルクとは違って、筋肉質でたくましい身体だ。お父様みたい。強そうな人に見えるから、耳が聞こえづらいなんて思わなかった。
「……」
「あの、俺の勘違いなのかもしれませんが、ヴィトリー様に似てますよね……」
見つめられてハッとする。探られているというより、単純な疑問のようだった。恐る恐る尋ねる姿は、見た目からは想像できないほどの繊細さを感じた。
「?」
「人違いだったら申し訳ないのですが……。ティベリウス・ヴィトリー様をご存知ですか? 20年以上前、俺はヴィトリー様の元にいた兵士で、一緒に戦場へ行ったことがあります」
「……」
ガス・ブルートン。彼の名前を聞いたことはなかったけど、ただの他人というわけではなさそう。
ティベリウス・ヴィトリー――私の父の名前。私兵を持つ軍人で、かつて、戦場で戦ったことがある。父と同年代ならば、40~50歳くらいだろうか。まさか、こんなところで父の部下と会うとは……人生、よくわからないものだ。
不本意だけど、助けてくれたお礼をしなければ。別に何が起きたっていい。もうこの命はないものだし。問題は、どうやって伝えるかだ。口は封じられ、必ずしも筆談ができるとは限らない。それなら、もしかしたら……。
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
私たちの離婚幸福論
桔梗
恋愛
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。
しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。
彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。
信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。
だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。
それは救済か、あるいは——
真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。
双子の姉に聴覚を奪われました。
浅見
恋愛
『あなたが馬鹿なお人よしで本当によかった!』
双子の王女エリシアは、姉ディアナに騙されて聴覚を失い、塔に幽閉されてしまう。
さらに皇太子との婚約も破棄され、あらたな婚約者には姉が選ばれた――はずなのに。
三年後、エリシアを迎えに現れたのは、他ならぬ皇太子その人だった。
王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜
矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。
王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。
『…本当にすまない、ジュンリヤ』
『謝らないで、覚悟はできています』
敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。
――たった三年間の別れ…。
三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。
『王妃様、シャンナアンナと申します』
もう私の居場所はなくなっていた…。
※設定はゆるいです。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
わたしたちの庭
犬飼ハルノ
恋愛
『夜明けになるまで絶対に寝室の扉を開けないで』
未来の義母が告げたのは奇妙な夜の掟だった。
父に売られる形でブルーノ伯爵子息の婚約者になったフィリスの物語。
ヒロインのフィリスが自らの力と周囲の人々に支えられて幸せをつかむ話ですが、しばらくは暗く重い展開です。
タグを途中から追加します。
他サイトでも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる