心の面影

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2章 うんめいにみちびかれて

52話 弔い

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52話 弔い
「それでは、失礼いたします」
 パールは頭を下げ、ガスと一緒に来た道を戻っていった。役目を果たしたからだろうか。私はひとりになった。目の前にお父様が眠っていたとしても、もう会えないのだから、ひとりだった。
「……」
 お墓というものを14年ぶりに見た。大きくて立派な石が目の前にあり、中心に「Tiberius Vitrie」と名前が彫られている。日付は20年前の夏で、お父様が生きていた時間とともに記されていた。姿は見えないし、肉体は朽ちたけれど、確かにここで眠っているのだろう。
 私は崩れ落ち、石畳の上に膝をつく。目頭が熱くなって、涙となって感情がこぼれ落ちた。
 お父様は軍人で、20年前、戦争に行ったきり帰ってこなかった。朽ちた姿も見られず、仮のお墓を建てて祈りを捧げた。でも、本当は、心のどこかで、きっと生きていると信じていた。それは叶わなかったけれど、今出会えた。生きていた証を目にして、何かが溢れた。
「……さま」
 涙が止まらない。ぽろぽろとこぼれて石畳に落ちる。
「お父様……」
 抑えていた声が言葉になった。
「私……」
 あまりに必死で、話せたことにも気づかない。
「やっと……会えた……」
 遠い昔、お父様に甘え抱きついたことを思い出し、彫られた名前に触れた。ただ彫られているだけと言われればそれまでだけど、「お父様の名前」という意味があると変わる。私にとって、お父様はただひとり。家族を養い、私を愛し育ててくれた唯一無二の父親だ。
「20年前……お別れ……できなくて……ごめん……なさい」
 お父様が帰る日を、お母様と一緒に待っていた。戦争が終わっても、一向に帰ってこない。連絡もない。お母様は帰りを諦め、お墓を建てた。仕方のないことだけど、嫌なものは嫌だった。
 祈りを捧げても、気分が晴れることはなかった。何かできたのではないのかと今になって思う。お父様が最後に足を踏み入れた場所で話を聞くとか、最前線へ出かけてみるとか。でも私はそれをしなかった。お父様を失い、姿も見られず、弔うことができないダメージが大きすぎた。いつしか自分のことばかり考えてしまい、思い出すのも辛くて、記憶の底に閉じ込めた。見たくなかった現実、思い出したかった過去。ようやく、私はお父様の死を受け入れ、前に進む一歩を踏み出せた。
 嗚咽が混じり、鼻や喉が詰まって息苦しい。それでも、この感情を吐き出すと決めた。涙を流し、想いを馳せ、現実を受け入れる。
「……お父様……!」
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