25 / 107
1章 壊れた心
24話 やっと見つけた
しおりを挟む
さっきから、私の後ろにだれかがぴたりとついてきている。それも4、5人。私が歩く速度に合わせて、一定の距離を保っている。けれど、それがいつ破られるかわからない。なるべく人や車通りの多い道を通ろうと意識し、バクバクと動く息を抑えて。
「……」
地を這うような低い声。……同年代の男性だ。本当は聞きたくなかったけど、耳に入ってしまって複雑な気持ち。止まれば彼らの餌食になりそうで止まれない。どこを目指すわけでもなく、心を無にして、寒さを感じないようにして。
「……おい」
「だれだお前!」
「お前らこんなとこで何してる?」
「どけ!」
突然の乱闘。だれかが彼らに話しかけたみたい。彼らは私への興味を一時的になくし、だれかとの間にバチバチの火の粉を散らす。ボコ、バキ、と骨が折れるような音がして耳を塞いだ。でも、私は構わず歩き続けた。音や気配が遠ざかり、ふうと息を吐く。ようやく顔を上げられたけど……見慣れない景色が広がって、ここがどこか分からなくなってしまった。地図を開こうと、ポケットからスマホを出して電源を入れようとする。……も、震えた手では画面に触れられず滑り落ちてしまった。
「……あ」
慌てて雪の上のスマホを拾い、電源を入れる。だけど、パスワードが打てない。最初は手だけの震えが、顎や両足にも広がってまともに立っていられなくなった。どうしよう。もし、彼らが追いかけてきたら……。彼と同じように……。
「どうしたの」
「……!」
屈んだとき、私の背後に背の高い巨人が立っていた。見下ろされて背筋が冷たくなる。ゆっくりと瞬きをして、情けなく口を開いた。ひとりの男性だ。そして、さっき彼らに声をかけた人と同じ……。暗くてよくわからなかったけど、あの人で間違いなさそうだ。
「……あ。驚かせてごめんね。俺はオーレリアン・ヴェントルだけど……。変な輩が追っかけていたから、俺がボコボコにした。で、ローレンティアを探してたんだ」
「私を?」
「うん。夜中、両手に大量の荷物を抱えて、女の子ひとりで歩くなんて危ないでしょ」
「……そうなの?」
まさか、こんなところでオーレリアンと出会うなんて。彼はいつも通り。アイシャドウを塗ってアイライナーを引き、奇抜なピアスやネックレスを着けている。コート、マフラー、手袋で防寒バッチリ。
「帰ろうか。送っていくよ。近くまで」
不思議なことに、身体の震えは徐々におさまっていった。息がしやすくなって、胸に手を当てる。オーレリアンが右手を差し出し、うずくまっていた私は少し迷ったけど握った。
「持つよ」
彼の目が両手の袋をとらえた。
「……いいえ。大丈夫。助けてくれてありがとう」
「……」
地を這うような低い声。……同年代の男性だ。本当は聞きたくなかったけど、耳に入ってしまって複雑な気持ち。止まれば彼らの餌食になりそうで止まれない。どこを目指すわけでもなく、心を無にして、寒さを感じないようにして。
「……おい」
「だれだお前!」
「お前らこんなとこで何してる?」
「どけ!」
突然の乱闘。だれかが彼らに話しかけたみたい。彼らは私への興味を一時的になくし、だれかとの間にバチバチの火の粉を散らす。ボコ、バキ、と骨が折れるような音がして耳を塞いだ。でも、私は構わず歩き続けた。音や気配が遠ざかり、ふうと息を吐く。ようやく顔を上げられたけど……見慣れない景色が広がって、ここがどこか分からなくなってしまった。地図を開こうと、ポケットからスマホを出して電源を入れようとする。……も、震えた手では画面に触れられず滑り落ちてしまった。
「……あ」
慌てて雪の上のスマホを拾い、電源を入れる。だけど、パスワードが打てない。最初は手だけの震えが、顎や両足にも広がってまともに立っていられなくなった。どうしよう。もし、彼らが追いかけてきたら……。彼と同じように……。
「どうしたの」
「……!」
屈んだとき、私の背後に背の高い巨人が立っていた。見下ろされて背筋が冷たくなる。ゆっくりと瞬きをして、情けなく口を開いた。ひとりの男性だ。そして、さっき彼らに声をかけた人と同じ……。暗くてよくわからなかったけど、あの人で間違いなさそうだ。
「……あ。驚かせてごめんね。俺はオーレリアン・ヴェントルだけど……。変な輩が追っかけていたから、俺がボコボコにした。で、ローレンティアを探してたんだ」
「私を?」
「うん。夜中、両手に大量の荷物を抱えて、女の子ひとりで歩くなんて危ないでしょ」
「……そうなの?」
まさか、こんなところでオーレリアンと出会うなんて。彼はいつも通り。アイシャドウを塗ってアイライナーを引き、奇抜なピアスやネックレスを着けている。コート、マフラー、手袋で防寒バッチリ。
「帰ろうか。送っていくよ。近くまで」
不思議なことに、身体の震えは徐々におさまっていった。息がしやすくなって、胸に手を当てる。オーレリアンが右手を差し出し、うずくまっていた私は少し迷ったけど握った。
「持つよ」
彼の目が両手の袋をとらえた。
「……いいえ。大丈夫。助けてくれてありがとう」
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
この罰は永遠に
豆狸
恋愛
「オードリー、そなたはいつも私達を見ているが、一体なにが楽しいんだ?」
「クロード様の黄金色の髪が光を浴びて、キラキラ輝いているのを見るのが好きなのです」
「……ふうん」
その灰色の瞳には、いつもクロードが映っていた。
なろう様でも公開中です。
だから言ったでしょう?
わらびもち
恋愛
ロザリンドの夫は職場で若い女性から手製の菓子を貰っている。
その行為がどれだけ妻を傷つけるのか、そしてどれだけ危険なのかを理解しない夫。
ロザリンドはそんな夫に失望したーーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる