ごめんね、足りなかったよね。

fireworks

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2章 殺してしまいたい

109話 帰宅

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Aurelian Side
 事件のことを警察に任せ、母と俺は帰宅した。ローレンティアが気がかりだったが、何の権限もない俺が関わってもいいことはなさそうだ。仕方なく病院を後にし、母の運転する車に揺られて眠ってしまった。
「リアン?」
「あ、ごめん。もう着いた?」
「つい30秒前に」
 母に肩をたたかれ、鼻提灯が弾けて目覚める。心地よくて、つい。そんなことを言ったら母に本気で殴られそうだった。急いでシートベルトを外し、足元に置かれていたぺちゃんこのバッグを持つ。あくびが出てしまう。日付が変わってすぐなのに、こんなに疲れている。早く眠ってあした(いや今日か)に備えないと。
 玄関に入ると、母に背中を押されて転ぶところだった。振り返り、ほんの少しだけ睨む。
「何」
「まったくもう! あーれほどひとりにするなと言ったのに! 何かあってからじゃ遅いよ!」
「わかったよ」
 ブーツを脱ぎ廊下を歩く。さっきからビシバシたたかれているのだが。当の母は、必死なあまり空回りしそう。電気がつくと、視界がクリアになって安心する。
「あんたの『わかった』はその場しのぎだね。まったくもう……」
「ごめんよ」
 母が先に手を洗いに洗面所へ行く。俺はコートを脱ぎ、防寒具を外し、定位置に置いた。奥のドアを開け、暖房を入れる。まだ風呂に入っていないから、寝るには少し時間がかかると思って。母とすれ違い、俺は手を洗ってうがいをした。
「じゃー」
 水が溢れ、ぐるぐると回って、流れていく。見ているだけじゃもったいない。何か言われる前に流れを止めた。
「ふぅ」
 ついでに顔を洗って、メイクを落とす。1日中この格好だったから、汗いっぱいで汚れている。メイク落としを泡立て、顔がもこもこに。最後に洗い流して、清潔なフェイスタオルで拭く。これだけでほとんど落ちる。息を吐き、タオルをラックにかけて電気を消した。少しのんびりしたら風呂に入るだろう。
 リビングに行くと、お湯を沸かすぽこぽこという音が聞こえた。母は既にルームウェアに着替え、ソファーに座って収納の本を読んでいる。リラックスモード。俺も自室で着換え、ジャケットやズボンをハンガーにかけた。リビングに戻ると、思いがけず母と目が合う。
「リアン」
「何?」
「今日はおつかれさま。がんばったね。よくあの子を見つけられたよ」
 てっきり、怒られるのだと思ってた。まぁ、母の表情は穏やかでそんなこと言いそうになかったけれど。
「そうだね。無事で良かった」
「それで、医者の話は聞いた?」
 ふたりがけのソファーに座り、頬杖をつく。ようやくいつもの場所にいられるから、また眠ってしまいそう。
「うん。今のところ異常はないって」
「そう。ま、目に見えて異変がない限りわからないわよね」
「そうだね」
「……」
 話すことがなくて黙る。背もたれに寄りかかって目を閉じた。久しぶりに母の喜怒哀楽を見たな。今までは怒ばかりで……。
「ここで寝ないの。布団で寝なさい。私は風呂に入るわ」
「……はあい」
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