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36話 効果的だから
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36話 効果的だから
フィディリスにチケット代を払わせたままで、お返しを何もしていなかった。これでは、ただ一緒にいてヘラヘラ笑った口先だけのやつになってしまう。
駅に着いてから、自宅まで少しだけ時間がある。幸い、フィディリスと一緒にいられるから、話ができない、ということはない。
フィディリスはバスを降りて、普通に私の隣に並んだ。なんだかそれも、当たり前になりつつあって……少し……。
「あの」
「?」
フィディリスが振り向き、見つめられて口ごもる。指の付け根に爪を立て、力を入れた。
「何か……その、好きなものある?」
「好きなもの?」
「今日……チケット代払ってくれたから、お返しに。食べたいものとか、欲しいもの、ある?」
フィディリスは瞬きをしたあと、微笑んだ。
「……ううん。一緒にいてくれるだけ嬉しいから。欲しいものはないよ」
「……そうなの?」
「うん」
今日一緒にいたとて、フィディリスやその好みを完全に理解したわけではない。ただ、言葉の端々から……利己的な欲望や願望に近いものは、感じられなかった。欲がないということはないけど。こう……なんというか、大きい願望は……見えなかった。目的がない……とも言えるのかな。
「そういうとこ、好きだよ」
「……?」
突然のカミングアウト……いや、もう何度か聞いた……言葉が耳に入って顔を上げる。前々から思っていたけど、私のどこがどういいのだろう。……毎日生きている感じがしないし、むやみやたらに傷つけるし、泣き虫だし。心が子供のまま、身体だけ大きくなってしまったみたい。そんな人……人、いいところなんて……ない……。
「ルナ」
フィディリスが私の右手を握る。想いは……見えない……けど、きっと、何かを伝えようとしてくれている。まっすぐに私の目を見て。
「気づいていないだけで、ルナにも素敵なところがあるよ。少しずつ、自分を好きになってほしいな」
「自分を好きに……?」
何度も聞いたことがある都合のいい話。大人は決まってこう言う。「自分を愛すことができなければ、人から愛されることもない」。でも、自分に好きなところなんて見つけられなくて、それで迷っているのに、無理やり見つけるよう強要する。そもそも自分って何? 自己認識も大してできないのに、不確かなものを愛せと言うの? そんなひどい話、最低最悪。……聞くんじゃ、なかった。だから私は馬鹿なんだ。
「人間は本当に不確かな生き物でね。自分や他人も、だれのこともわからないと思うことがある。それは半分正解で半分間違いだ。結局のところ、自他ともに『知った』気になっている。要は自己満足だよ」
「意味わからない」
そんなもの見当たらなくて、右腕に爪を立てた。ぎゅ、と握りつぶすように力を入れる。
「大事なのは、『知ろうとする努力』だ。完璧に理解する必要はない。ただ、相手のことを想う気持ちと、自分のことを想う気持ち……。そのふたつがあったら、後者を選んでほしい」
「かこつけてるの?」
さっきから、フィディリスの話をさっぱり理解できない。私の脳の回転が悪いばかりに。
「うん。好きな人に、格好良く見せたいから」
「……どうして好きと言うの?」
声を振り絞って尋ねると、意外な言葉が返ってきた。フィディリスの足が一歩前に出る。スカイブルーの右目に街灯の光が反射した。
「それが一番効果的だからだよ」
フィディリスにチケット代を払わせたままで、お返しを何もしていなかった。これでは、ただ一緒にいてヘラヘラ笑った口先だけのやつになってしまう。
駅に着いてから、自宅まで少しだけ時間がある。幸い、フィディリスと一緒にいられるから、話ができない、ということはない。
フィディリスはバスを降りて、普通に私の隣に並んだ。なんだかそれも、当たり前になりつつあって……少し……。
「あの」
「?」
フィディリスが振り向き、見つめられて口ごもる。指の付け根に爪を立て、力を入れた。
「何か……その、好きなものある?」
「好きなもの?」
「今日……チケット代払ってくれたから、お返しに。食べたいものとか、欲しいもの、ある?」
フィディリスは瞬きをしたあと、微笑んだ。
「……ううん。一緒にいてくれるだけ嬉しいから。欲しいものはないよ」
「……そうなの?」
「うん」
今日一緒にいたとて、フィディリスやその好みを完全に理解したわけではない。ただ、言葉の端々から……利己的な欲望や願望に近いものは、感じられなかった。欲がないということはないけど。こう……なんというか、大きい願望は……見えなかった。目的がない……とも言えるのかな。
「そういうとこ、好きだよ」
「……?」
突然のカミングアウト……いや、もう何度か聞いた……言葉が耳に入って顔を上げる。前々から思っていたけど、私のどこがどういいのだろう。……毎日生きている感じがしないし、むやみやたらに傷つけるし、泣き虫だし。心が子供のまま、身体だけ大きくなってしまったみたい。そんな人……人、いいところなんて……ない……。
「ルナ」
フィディリスが私の右手を握る。想いは……見えない……けど、きっと、何かを伝えようとしてくれている。まっすぐに私の目を見て。
「気づいていないだけで、ルナにも素敵なところがあるよ。少しずつ、自分を好きになってほしいな」
「自分を好きに……?」
何度も聞いたことがある都合のいい話。大人は決まってこう言う。「自分を愛すことができなければ、人から愛されることもない」。でも、自分に好きなところなんて見つけられなくて、それで迷っているのに、無理やり見つけるよう強要する。そもそも自分って何? 自己認識も大してできないのに、不確かなものを愛せと言うの? そんなひどい話、最低最悪。……聞くんじゃ、なかった。だから私は馬鹿なんだ。
「人間は本当に不確かな生き物でね。自分や他人も、だれのこともわからないと思うことがある。それは半分正解で半分間違いだ。結局のところ、自他ともに『知った』気になっている。要は自己満足だよ」
「意味わからない」
そんなもの見当たらなくて、右腕に爪を立てた。ぎゅ、と握りつぶすように力を入れる。
「大事なのは、『知ろうとする努力』だ。完璧に理解する必要はない。ただ、相手のことを想う気持ちと、自分のことを想う気持ち……。そのふたつがあったら、後者を選んでほしい」
「かこつけてるの?」
さっきから、フィディリスの話をさっぱり理解できない。私の脳の回転が悪いばかりに。
「うん。好きな人に、格好良く見せたいから」
「……どうして好きと言うの?」
声を振り絞って尋ねると、意外な言葉が返ってきた。フィディリスの足が一歩前に出る。スカイブルーの右目に街灯の光が反射した。
「それが一番効果的だからだよ」
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