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1話 花が散る前に
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色とりどりの花が包まれた花束をもらった。ふわりと香る甘い匂いに誘われて、目を開けた。赤、白、ピンク、黄色。太陽の光に照らされて、淡いきらめきを放った。尖った棘に、玉のような水滴が落ちる。風が吹いて、柔らかな香りを運ぶ。あまりの眩しさに、吸い込まれてしまう。ただの花が、こんなに美しいと思わなかった。
「あげる」
薔薇の花束を差し出して、微笑む女の子がひとり。10にも満たない、まだ世界を知らない、無邪気な子供。花柄のワンピースが風に揺れ、花びらが舞い落ちる。薔薇と同じピンク色の長い髪をなびかせ、もちのような頬はほんのり赤い。女の子の周りの草花は共鳴し、それぞれの色を輝かせた。
俺はひとり木陰で休み、終わりのない世界を憂いでいた。姿を隠す面を外し、時間の流れの中で佇む。同じような毎日に、粒が落ちて、波紋が広がった。やがて、オレンジ色の光が辺りを包み込み、月を明るく照らす。
「……どうして?」
女の子は横の髪を耳にかけて、俺の右の手のひらを広げた。太陽が山に隠れる前だったからか、気の所為なのか、彼女の手は暖かかった。
「お花はね、人を笑顔にしてくれるの!」
「人を……笑顔に?」
女の子は花束を渡すと、背中で組んで笑顔を咲かせた。あの眩しい光にも、花のきらめきにも、負けない笑顔だった。
「うん。ほら、あなたも笑っているでしょう? お花にはね、素敵な力があるの」
女の子の言うことがなんとなくわかる気がする。なんとなくだから、理由なんてないけれど。心地よくて、気持ちが落ち着くような。触れているのかいないのかわからない、花びらのような暖かさと優しさが。
「ありがとう」
花束を胸に抱くと、女の子は満足して背を向けた。振り返ったとき、ちょうど、彼女の頭と太陽が重なった。逆光のせいか、暗くて表情はよく見えない。
「また会いましょう、黒の騎士さん」
そして、彼女は風のように消えていった。
「あ……待って……」
不気味な夜が近づくにつれ、胸が締め付けられた。
彼女からもらった、薔薇の花束。その色と輝きが失われると、素敵な笑顔さえもなくなってしまう気がしたから。
「あげる」
薔薇の花束を差し出して、微笑む女の子がひとり。10にも満たない、まだ世界を知らない、無邪気な子供。花柄のワンピースが風に揺れ、花びらが舞い落ちる。薔薇と同じピンク色の長い髪をなびかせ、もちのような頬はほんのり赤い。女の子の周りの草花は共鳴し、それぞれの色を輝かせた。
俺はひとり木陰で休み、終わりのない世界を憂いでいた。姿を隠す面を外し、時間の流れの中で佇む。同じような毎日に、粒が落ちて、波紋が広がった。やがて、オレンジ色の光が辺りを包み込み、月を明るく照らす。
「……どうして?」
女の子は横の髪を耳にかけて、俺の右の手のひらを広げた。太陽が山に隠れる前だったからか、気の所為なのか、彼女の手は暖かかった。
「お花はね、人を笑顔にしてくれるの!」
「人を……笑顔に?」
女の子は花束を渡すと、背中で組んで笑顔を咲かせた。あの眩しい光にも、花のきらめきにも、負けない笑顔だった。
「うん。ほら、あなたも笑っているでしょう? お花にはね、素敵な力があるの」
女の子の言うことがなんとなくわかる気がする。なんとなくだから、理由なんてないけれど。心地よくて、気持ちが落ち着くような。触れているのかいないのかわからない、花びらのような暖かさと優しさが。
「ありがとう」
花束を胸に抱くと、女の子は満足して背を向けた。振り返ったとき、ちょうど、彼女の頭と太陽が重なった。逆光のせいか、暗くて表情はよく見えない。
「また会いましょう、黒の騎士さん」
そして、彼女は風のように消えていった。
「あ……待って……」
不気味な夜が近づくにつれ、胸が締め付けられた。
彼女からもらった、薔薇の花束。その色と輝きが失われると、素敵な笑顔さえもなくなってしまう気がしたから。
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