夏にだけ許された嘘

chelsea

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9話  その物語に、私はいなかった

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 最初は叶さんが『美緒』に出会った馴れ初め。わがままでも、そんな彼女に惹かれている叶さんの心情が事細かに描いてある。海沿いのカフェに行くと、海に落ちて行く夕陽が綺麗で『美緒』は叶さんの話には全く乗ってこなくなってしまう事。
 そして、そんな彼女に惹かれている叶さんの心情が描いてある。
 私は彼がどんな思いで『美緒』に向かい合ったのか‥‥この本を見て初めて知った。
 彼は口数は決して多い方ではないけど‥‥その心の奥には、『美緒』を思う情熱が炎の様に燃え盛っている。
「‥‥‥‥」
 ページをめくっていくと、『美緒』と叶さんが珍しく喧嘩をする場面になった。
 理由は些細な事だったけど、こじらせてしまい、春さきからずっと続く事になった。
 そこで叶さんは『美緒』に手紙をしたためる。
 その内容は‥‥私が見た紙、そのままの文章で‥‥。
 何とか渡した叶さんはひたすら待ち続けて、そしてやっと美緒が現れた。
「‥‥‥これって‥‥‥」
 潮風のにおい、窓際の席、苦いカフェラテにしかめた顔。
 彼が笑ったタイミングさえ、文章の中にそっくり書かれていた。
 その彼女は『美緒』ではなく、美緒‥‥私だった。
 彼女‥‥私と再び出会えた事に幸せを感じる文章で一杯だった。
 明らかに以前の『美緒』と、今の美緒は違う人物。
 それを知ってて彼は私を以前の『美緒』として接した。
 私は‥‥現れなかった『美緒』の代わりなのかもしれない。
 そう思ったとき、何とも言えない寂しさが体中を包んだ。

 彼の前のあの席は‥‥私の居場所じゃなかったと。
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