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第115章 生財桩
第115章 生財桩
姜栩栩が前に出た瞬間、周和河の目がわずかに光り、視線の端でそっと警官たちの様子をうかがった。
そのまま足をずらして、カメラを担いでいた撮影スタッフのそばに移動し、目配せを送る。
最初、撮影スタッフは意味が分からず反応が遅れたが、周制片の目配せがあまりに必死すぎてようやく察し、周囲に人の注意が向いていない隙に、そっとカメラを再起動させた。
配信は止まったし、番組自体も打ち切りの危機にある。だが完全に終わるまでは、素材を撮っておく必要がある。
二人はそんなふうに密かにカメラを構え、レンズの先を姜栩栩へと向けた。
姜栩栩はただ目の前の老婆を見据える。杏のような瞳は冷たく沈み――
「あなたは、子供が途中で亡くなったから設計を変えて“墓屋”にしたと言った。けれど本当は違う。基礎を打つときにはすでに子供は死んでいた。この家は最初から、あの子の婴霊を閉じ込めるために造られた“陰宅”だった!」
その言葉に、老婆は露骨に怒気をあらわにした。
「小娘がデタラメを言うんじゃないよ! 何が分かる?! これは宋家の子だ! 勝手に子供の“墓”を掘り返して、あんたこそ天罰を受けるんだよ!!」
姜栩栩はその非難を正面から受けても、表情を一切崩さなかった。
「報いを受ける人間は確かにいる。でもそれは私じゃない。宋家全員――あなたも含めて、ね」
「お前っ……!」
「そんなに慌てて否定することはない。もし本当にあなたの言った通りなら、なぜわざわざ屋敷の近くに住んで、この家を見張っていたの?」
老婆がこの家を“見守るために”近くで暮らしていたと知り、一同の表情は一気に変わった。
とくに顧京墨は顔色を強張らせる。
あの日、自分を庭のバルコニーからじっと睨んでいた老婆の姿を確かに見ていた。
単なる人嫌いかと思っていたが、まさか本当に監視していたとは――。
「姜栩栩、これは一体どういうことだ?」
顧京墨はたまらず問いただした。
姜栩栩はもう老婆に言い争うこともせず、そのまま皆に向き直って言った。
「もし私の推測が正しければ――これは“生財桩”です」
周囲の人々も警官たちもぽかんとした顔になる。
“打生桩”ですら知識の範囲外なのに、“生財桩”とは何だ?
理解できない人が多い中、ただ一人、正統派道家の出である商陸だけがその言葉に顔色を変えた。
視線をコンクリートに閉じ込められた幼児の遺骨へと移すと、悟ると同時に激しい怒りをにじませた。
「……“生財桩”とは何ですか?」
周察察が小声で尋ねる。普段の大雑把さは影を潜め、怯えたように慎重な口調だった。
商陸は深く息を吸い込むようにして答えた。
「生財桩は、玄門の中でも“打生桩”に似た邪術だ。打生桩は主に四方の安寧や後代の加護を願うものだが、生財桩は純粋に財を貪るための術。子孫の財運を途切れさせないために用いられる」
彼はそこで言葉を切り、かすれた声で続けた。
「だが生財桩の“桩”となるのは――種を打つ者の親子の血肉でなければならない……」
その説明を聞いた一同は、息を呑む音を押し殺すこともできなかった。
生きた人間を供えるだけでも狂気の沙汰なのに、さらに自分の血を――。
一体どれほどの外道の一族が、そんな因業を子に背負わせるというのか。
最初こそ皆は信じ難い思いだった。だが先ほど老婆が「宋家の私生児だ」と口走ったことを思い出すと――背筋に冷気が走った。
より残酷で非道な真実が脳裏をよぎる。
そして質問をぶつける前に、姜栩栩が冷ややかに告げた。
「この子は最初から“生財桩”に使うために生まされた。宋老爷は自分の正妻の子を殺すのは惜しくて、外で女を囲って子供を産ませた。
そして子供がある程度育ったところで殺し、屋敷に埋め込み、怨念と屋敷の風水を利用して財を集めようとしたのよ」
タイの“クマントーン”にも似たものがある。
彼らは生まれる前の子を使って霊童を作り、供養する。生まれ損ねた子ほど怨気は強い。まるであの“小さなラディッシュ頭”のように。
そしてクマントーンには区別がある。親子の血で作られたものは、通常のものよりも遥かに力が強い――血縁の力だ。
ただしクマントーンは血を与えて養わねばならないが、生財桩は放っておいても財気を呼び込める。
「二十年前、巨額を投じてこんな“財を呼ぶ陰宅”を建てた。宋家はただの凡家じゃない。
きっと祖先も富豪で、だからこそ没落の痛みに耐えられず、風水師に相談してこんな悪辣な手を選んだ」
「最初は成功したはずだ。宋家はこの子のおかげで一時的に莫大な富を得た。だが――肝心の風水師は教えなかった。
生財桩は、桩となる婴霊の怨気が尽きると、同じ血脈にある子供たちの命を奪って補充する、と」
姜栩栩の冷たい言葉に、老婆の顔色が瞬時に蒼白になる。
「宋老爷の子供は……みな早夭したのでしょう?」
老婆の皺だらけの顔は、恐怖に引きつった。
姜栩栩はその面相と、婴霊との親縁の線を確かめ、悟ったように低く告げた。
「あなたの孫も……死んだのでしょう?」
その言葉に、老婆の瞳孔が一気に開き、震えが止まらなくなった。
――孫……
彼女の家は宋老爷と直系ではなかった。だが宋家で子が一人死ぬたびに、自分の孫も一人死ぬ。
嫁いだ先が宋老爷の弟だったからだ。同じ根の一族、命数を分け合わされていたのだ。
やがて宋老爷自身も異変に気づき、慌てて屋敷を売った。
だがそれでも呪いのような連鎖は止まらず、孫は皆死に絶えた。宋老爷は富を抱えながら、子を一人も持てなくなった。
宋老爷は一度、この屋敷を壊す決心をしたこともあった。
だが壁を壊すだけで、子孫を犠牲に得た財は大きく損なわれる。
子を失った彼には、残された富すら手放せなかった。結局、屋敷を元の姿に戻すしかなかった。
さらに、後の所有者が勝手に手を加えぬよう、契約書に「間取りや内装を変えてはならない」と明記。
加えて近くにもう一軒の別荘を買い与え、老婆に常に監視させていたのだった。
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