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第421章 真言符は効かない?
第421章 真言符は効かない?
目の前に立つ周亚亚は、白いロングドレスに身を包み、全身にリボンをあしらっていた。背中には繊細なエルフの羽根。
顔にはしっかりとしたメイクが施され、色彩豊かなアイシャドウと小さなクリスタルが散りばめられている。その華やかさが、衣装の純白と強いコントラストを生み、同時に顔に残る傷跡を巧みに隠していた。
スタイリストはさらに、彼女の顔に白いヴェールを重ね、その外側には水晶のビーズが垂れる装飾を施している。一見すると、清楚でありながら神秘的。
この装いだけを見れば、かつて顔に大きな火傷を負ったとは、とても想像できない。
――おそらく、姜澄が彼女をここへ連れてきた理由は、まさにこれなのだろう。
姜溯が言っていた「用心深いほどの気遣い」は、決して誇張ではなかった。
少なくとも周亚亚自身にとって、この完成された姿は、人生で初めて見る“最も美しい自分”だったはずだ。
その証拠に、全身鏡に映る自分を見た瞬間、彼女は言葉を失っていた。
いつもどこか陰りを帯びていたその瞳でさえ、今は澄んで見える。
姜澄を挟んで向かい合う二人。
黒と白、はっきりと分かれた二つの存在。
視線が交差したのを察した姜澄は、姜栩栩に無視されたことに一瞬不満を覚えたが、すぐに何かを思い出したように一歩身を引き、紹介する。
「ちょうどいい。紹介するよ。周亚亚、俺の友だちだ」
少し間を置いて、付け加えた。
「それと、亚亚は君のファンでもある」
姜栩栩はわずかに眉を上げた。
――十八階の男の霊が言っていた、あの話か。
自分の写真を壁紙にしている“ファン”。
「こんにちは。姜栩栩です」
そう言って手を差し出すと、周亚亚は緊張した様子で一歩前に出て、その手を取った。
ほんの一瞬の接触。
だが、その刹那、姜栩栩は掌に忍ばせていた真言符を、自然な動作で彼女の手に移していた。
手を離すと同時に、姜栩栩は尋ねる。
「本当に、私のファン?」
周亚亚は一瞬、驚いたように目を瞬かせたが、内心の言葉がそのまま口をついた。
「……はい」
低く、かすれた声。
言い終えた瞬間、彼女自身、どこかおかしいという違和感を覚えた。
姜澄もまた首をかしげ、声を落として不満そうに言う。
「さっき俺が言っただろ。わざわざ本人に確認する必要ある?」
家の中ならまだしも、外でここまで露骨に自分の言葉を信用しないのは、正直面白くない。
そのやり取りの隙に、周亚亚はすっと視線を落とし、ヴェール越しに小さく何かを呟いた。
そして顔を上げると、真っ直ぐ姜栩栩を見つめ、低く確かな声で言った。
「番組に出た頃から、ずっとあなたを見ていました。……あなたが、好きです」
姜栩栩は、その言葉を聞いて眉をひそめた。
声は決して聞きやすいものではない。
だが、言葉の中に偽りは感じられなかった。
――それなのに。
真言符が、効いていない。
ついさっきまでは、確かに作用していたはずだ。
ということは、彼女は自分の仕掛けに気づき、即座に無効化した?
それも、言霊の能力の一部なのか。
「……その声は、最初から?」
姜栩栩が知りたかったのは、声が変わった原因が、言霊と関係しているのかどうかだった。
淡々とした問いだったが、横にいた姜澄は眉を寄せた。
周亚亚が答えようと口を開いた、その瞬間――
突然、激しく咳き込み始めた。
胸をえぐるような咳。
あまりの激しさに、周囲の視線が一斉に集まる。
姜澄は顔色を変え、すぐに声をかけた。
「大丈夫か? 喉が辛いなら、無理して話さなくていい」
そして、姜栩栩を睨む。
「彼女の喉は、子どもの頃に火事から逃げたときに焼けたんだ。声が気に入らないなら聞かなきゃいいだろ。わざわざ傷をえぐるようなこと言うなよ。誰にそんな話し方を教わった?」
声は抑えていたが、すでに周囲の注目を集めていたため、その言葉を聞いた者も少なくなかった。
中には、日常を配信するのが好きな若い二世もいて、ちょうどカメラが姜栩栩の小さな魔女姿を映していた。
配信コメントが一気に流れる。
【この魔女かわいすぎ】
【よく見たら、うちの推しに似てる】
【似てるどころか本人だろ!?】
【衣装最高。でも今怒鳴ってる人誰?】
配信者は小声で説明する。
「この魔女が姜栩栩。話してるのは二堂哥で、隣のエルフが彼の連れみたい」
【堂哥でも人前で怒鳴るのはどうなの】
【でも傷えぐったなら仕方なくない?】
【テレビの印象と違うな】
黎清姿と姜瀚も眉をひそめた。
今の質問は、どう見ても普通だった。
視線が集まる中、姜瀚が一歩前に出て、庇おうとした――
その前に、姜栩栩が口を開いた。
「耳が悪いなら、治してあげようか? 今ここで」
手を上げたわけでもないのに、その一言で姜澄の背筋が凍りついた。
頭が一気に冷える。
「……外だからな。今日は……これ以上は言わない」
勢いは、明らかに失われていた。
配信コメント。
【これ脅し?】
【この感じ、間違いなく本人】
【堂哥にも容赦ないな】
【いや私ならもっと言う】
姜瀚が場を収めるように言った。
「ただの心配だよ。澄哥が敏感すぎる」
姜澄は内心で舌打ちした。
味方はどこへ行った。
だが、周囲の視線を感じ、これ以上は得策でないと判断し、周亚亚を連れてその場を離れようとした――
その瞬間。
一歩踏み出した彼の腕を、周亚亚が静かに止めた。
咳はようやく収まり、彼女は顔を上げる。
かすれた声で、しかしはっきりと言った。
「……あなたは、栩栩に謝るべきです」
⸻
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