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第531話 一番覇気のある亀になりたい
第531話 一番覇気のある亀になりたい
システム亀は机の上にうつ伏せになり、
さきほど狐の口から生還した衝撃からようやく立ち直ったところで、
彼女のほうから声をかけられた。
のろのろと首を伸ばし、
ツンとした視線を一つだけ向けると、
再び死んだふりを決め込む。
――人間め。
天道に関することなど、一言たりとも吐くつもりはない。
姜栩栩は、また黙り込んだ様子を見て、
わずかに眉を上げ、ことさらに真面目な口調で言った。
「……どうやら、小漂亮と遊ぶほうが好きみたいね」
そう言いながら、わざとらしく振り返り、
小狐を呼ぼうとする。
するとシステム亀は、
首を一気にびゅっと伸ばした。
【聞き出したいくせに、
その態度で答えてもらえると思ってるのか?!】
正面から口を開いた――それだけでも進歩だ。
姜栩栩は、珍しく耳を傾ける気になり、
淡々と尋ねる。
「……どんな態度ならいいの?」
【宿主を変えろ!】
またしても同じ主張。
姜栩栩は考える間もなく拒絶した。
「言ったでしょ。
あなたと私が紐づくことはない。
私だけじゃない、他の誰でも無理。考えるだけ無駄よ」
そう言いながら、
彼女は亀の甲羅をつまみ、くるりと後ろ向きにする。
――交渉決裂。
だがシステムは、
すぐに自力で向きを戻し、必死に這い寄る。
【人を変えないなら、
せめて体を変えさせろ!】
今の体は、
どう見ても受け入れがたい。
不格好。
遅い。
「……例えば?」
姜栩栩も、少し興味が湧いた。
過剰な要求でなければ、
話し合いの余地はある。
すると、システムは極めて真剣な電子音で言った。
【ワニガメの体にする!】
姜栩栩は、一瞬固まった。
てっきり、
「亀」という存在そのものから解放されたいのかと思っていた。
まさか、
亀の“品種変更”とは。
ワニガメ?
どんな亀だっけ。
スマホを手に取り、
軽く検索する。
……沈黙。
先史時代の怪獣のような外見。
最大甲長七十センチ超。
強力な咬合力。
人を襲うこともある。
――正気じゃない。
姜栩栩がそんな体を許すはずがない。
だが同時に、
なぜシステムが突然そんな体を望んだのか、疑問も湧く。
その答えは、
すぐ隣の何元英が教えてくれた。
「最近、姜滢がよく亀のドキュメンタリーを流しててね。
その中にワニガメが出てきた」
そう。
システムは、
一目でワニガメの外見に心を奪われた。
凶暴。
威圧感。
巨大。
――これこそ、亀の王者。
別に亀になりたいわけじゃない。
だが、どうしても亀であるなら、
最も覇気のあるワニガメになりたい。
甲羅が七十センチになったら、
あの忌々しい狐が、
玩具みたいにくわえられるか、試してやる。
姜栩栩は、
手のひらサイズの小亀を見下ろし、
これがシステムの夢なのか、
それとも亀自身の夢なのか、判断がつかなかった。
荒唐無稽とは思いつつ、
情報を引き出すため、
とりあえず了承することにする。
最悪、檻に入れればいい。
「分かった。約束する」
そう言った瞬間、
システム亀の頭が、得意げに揺れた。
――が、次の瞬間、ぴたりと止まる。
突然、机のある一点へと這い寄り、
完成間近の贔屓玉を指差して叫んだ。
【考えが変わった!
ワニガメはいらない!
この体にする!】
贔屓玉に宿る、
満ちあふれた霊気。
それ以上に、
そこから感じ取れる、異質な気配。
呼びかけられているような感覚。
ここに寄生すれば、
最盛期の力を取り戻せる――そんな確信。
だが、その焦りようは、
姜栩栩には怪しさしか感じさせなかった。
手が触れるより早く、
彼女は玉件をしまい込む。
システムは苛立ちを隠さず言い募る。
【玉に結びつけてくれ。
知りたいことは全部話す】
だが姜栩栩の表情は冷え、
一瞥して即答した。
「無理」
贔屓玉を彫った張本人として、
彼女はその異常さを理解している。
甲羅の紋様を刻むたび、
霊力の消耗が、明らかに異常だった。
――この玉は、普通じゃない。
システムの執着を見て、
確信はさらに強まる。
だからこそ、
渡すはずがなかった。
追い詰められたシステムは、
覚悟を決める。
【異界と、
転生した魂の話を知りたいんだろ?
教えてやる】
「それより――」
姜栩栩は、静かに問い返す。
「この玉から、何を感じたの?」
「そこまでして結びつきたい理由を、言って」
沈黙。
やがて、しぶしぶ口を開く。
【この気配……
昔、褚家のあの若い男から感じたものと似ている】
【あの時は、
彼に結びつこうとして止められた。
なら、代わりでもいいだろ】
姜栩栩の胸が、ひくりと跳ねた。
褚北鹤。
彼女が、
まだ聞く前に、
別の角度から差し出された手がかり。
――褚北鹤と、
未完成の贔屓玉。
なぜ、同じ気配が?
それは、
彼の身に宿る金光と、
何か関係があるのか。
答えは出ない。
システムは、
玉を渡さない限り、
それ以上語らなかった。
当然、渡すつもりはない。
代用品?
――信じるわけがない。
だが、新たな道筋は見えた。
贔屓玉が完成すれば、
褚北鹤の金光の正体にも、
何かしら触れられるかもしれない。
即断即決。
姜栩栩は、
机の上のシステム亀をつかみ、
何元英に預ける。
自分は部屋に結界を張り、
一気に仕上げに入るつもりだった。
……
翌朝、褚家。
朝食を終え、
出かけようとした褚北鹤は、
屋敷の門を出た瞬間、
頭上に馴染みのある火雷の気配を感じた。
黒い瞳が、鋭く沈む。
動こうとした、その刹那――
違和感。
はっとして振り返る。
晴天を裂き、
予兆もなく落ちた一条の火雷。
轟音とともに炸裂した場所は――
姜家の屋根。
しかも、その位置は、
寸分違わず、姜栩栩の部屋だった。
褚北鹤の瞳が、
一気に見開かれる。
次の瞬間、
彼の姿は、その場から消えていた。
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