裏切りと愛

キラ

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ライバル

スチュアートは、イグレットが嫌いだ。

グレースの婚約者だと聞いた。
この国の第二王子殿下だ。

第三王子殿下との婚約破棄の件は、
公爵家に養子に入る際に、義父となるモナード公爵から聞いた。

スチュアートがグレースに会う前の事だ。


グレース自身は随分前の事なのでもう気にしていないと思うが、という公爵の前置きの後、
クリスナード殿下の浮気が原因で、
グレースから婚約破棄をしたという事で処理され、慰謝料も受け取ったが、
その日以来グレースは、人を信じることができなくなり、引き籠ったまま二年近く屋敷から出ることができなかった、と公爵は話した。

そんな精神の脆い公爵令嬢がいるのかと思って興味が湧いた。

公爵令嬢といえば、怖いもの知らずの我儘娘と相場は決まっている。

家は金持ちで、使用人達からは傅かれ、周囲は王族以外全てが頭を下げる存在だ。
何処に落ち込む要素がある?

スチュアートはそう思っていた。

初めて会ったグレースは、
公爵が話した様な、脆い女性には見えなかったし、引き篭もるほど弱くはない様に思えた。
よく笑うし、何よりも素直で擦れていない。

特に話しの最中、何かのきっかけで赤面した時など、仕草が可愛くて、愛らしくて、無性に抱きしめて誰にも見せない様にしたいくらいの気持ちになる。

最初スチュアートは、グレースの結婚相手としての養子だと思い、ラッキーだと思った。

グレースの身長は高いが、性格は悪く無い。
素直だし、愛らしい。
養子の話は悪い条件では無い、そう思った。

三ヶ月後までには、社交界に出ることができる様にと、貴族の礼義を詰め込まれた。

どうして期限が切られているのか、理由が分からなかった。

「春に結婚式があるからね。」

と言われた。

自分とグレースの結婚式だと思い込み、
頑張らなければ、とマナー教育にも身が入った。

グレースの結婚相手が、自分ではないと気づいたのは、屋敷に彼女への贈り物が届いた時だった。

大きな箱が数点、彼女宛に届いた。
見るからに高級そうな箱ばかりだ。

侍女が楽しそうにグレースの部屋に運ぶ。

何かと尋ねたら、グレースの婚約者からのプレゼントだという。

「婚約者?」

呟いた私に、

「お嬢様のお相手は、第二王子のイグレット殿下ですよ」

と小さな声で言った。

第二王子殿下、、、見たことはない。
会ったこともない。

スチュアートは公爵家に養子に来る前は子爵家の三男だ。
王家の面々と顔を合わせることなどない。

その日から、会ったこともないイグレット殿下が嫌いになった。


初めて彼と顔を合わせたのは、
グレースと庭の木の下で、お茶の練習をしていた時だ。

グレースは、何度か私の練習に付き合ってくれていた。
場所は様々だ。
サロンだったり、温室だったり、
その日は庭だった。
一般的には、温室か庭が多いと話した。

先ぶれもなくやってきた殿下は、
私とグレースの姿を見て、ハッとした様に一度立ち止まった。

一瞬だが、殿下に勝ったと思った。
今グレースが見ているのは私だ。
スチュアートだ。
婚約者のイグレット殿下では無い。

優越感を持った。

殿下は立ち止まったと思ったら、
真っ直ぐにグレースの元に来て、
あろうことか、
俯いたかと思うと、グレースに口付けをした。

私は毛が逆立つかと思うほど驚き、
目を見開いた。

殿下は明らかに私を挑発した。
振り返った殿下と私の目が合った。

グレースを自分の胸に抱き込み、彼女の頭に自分の唇を寄せる。

正直私は固まっていた。
殿下は何度も横目で私を見た。

グレースは自分のものだと目が語っていた。


グレースはまだ赤みが残る顔で、
殿下にお茶を勧める。

あの可愛い顔を殿下に、
殿下だけに見せていると思うと、歯がゆい。
何故婚約者が私では無いのか。

殿下に嫉妬した。
奪えるものなら、奪いたいと思った。

グレースが私の事をどう思っているのか?
公爵家の養子にならなくても、彼女一人養っていける自信がある。

彼女が望むならば、、、、。
考えない時はなかった。


大学を卒業する少し前、王国に新しい公爵家が出来たと、陛下から発表があった。

「ルモンド公爵家」

イグレット殿下が当主だと聞いた。
グレースと結婚後の為に与えられた家名だと、彼女から聞いた。

グレースは私との生活は望んでいない。
その時感じた。

義弟として彼女を見守ろう。
そう決めた。

もしかしたら、結婚後の生活が上手くいかずに戻ってくるかもしれない。

結婚する前から、別れて帰ってくる事を願う義弟など、他には居ないだろうが、
世間ではよく聞く話だ。

いつでも帰ってこられる様に、家を守って、グレースの部屋をそのままにしておく。

そんな私の気持ちに気づいたイグレット殿下が、

「グレースは返さないよ!、私が死ぬまで側に置いておくから」

言われた。
完敗だ。




ある日グレースに手紙が来た。

「しばらく会えない、心配するな」

ノアからの手紙だ。
簡単な文章だったが、特に気にはしなかった。


先日、結婚後に暮らす邸も見に行ったし、式場の確認もした。
ドレスもそろそろ届く頃だし招待状も出した。
特に問題はない。

大学の卒業式の日も近い。
今は卒業論文提出のため、友人は皆忙しくしていた。

昼食時、食堂でランチを食べていると、久しぶりに友人のララが声をかけてきた。

彼女は文官試験を受けて、春からは外交官として城に勤める。
大学に来ない日は城で外交官の見習いをしていた。

「あ、グレース、、、大変だったね」

「?」

「ククレット国の王女様の件よ。今になってイグレット殿下と婚約だなんて、、、グレース、はどうするのよ!!全く貴女の事考えると、私腹が立って!」

「あー」

話の意味はよく理解できなかったが、私に関することの様だ。
曖昧に、知っている様な、聞いている様な返事をすると、ララは話を続けた。

どうやら私は結婚式をふた月後に控えて、婚約を解消される、らしい。

ノアはククレット王国の王女、リリアーナ様を娶ることになった様だ。

二人は恋仲だったが、ノアとリリアーナ王女の年齢差は10歳。


知り会ったのは、我が国の王太子殿下の結婚式の後のパーティ。
当時のリリアーナ様は7歳、ノアは17歳。



まだ幼かったリリアーナ様に求婚することも出来ず、ノアは泣く泣く諦めトウモール伯爵家のトランペッタ様と婚約した。


事情があってトランペッタ様と婚約を解消したノアは、諦めて私と結婚する事にしたが、リリアーナ王女は諦めきれなかった。

この度ノアが結婚する事を聞いたリリアーナ様が、家を捨ててノアの元に押しかけて来た。らしい。

ノアも王女を受け入れ、今城の中は大騒ぎになっている、という。

「「そうか、今になって、、、」」

グレースは小さく溜息をついた






















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