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ハーレにて
「お嬢様、今夜の船便に乗りますよ」
朝、目覚めるとサフラに言われた。
この一週間、ハーレの町の観光をして過ごした。
小さな町だ、殆ど知らない場所はなくなった。
岬の麓の白い屋根の喫茶店。
パンケーキが美味しい店だ。
港の近くの大衆食堂。
漁師飯が有名で、グレースは魚の煮付けが気に入った。
毎日でも食べたいと思ったが、四日目で違うものが食べたくなった。
流石に毎日昼食が同じ物は飽きるものだと気づいた。
丘に登る途中にあるお洒落なパン屋。
若い女性が経営している。
あんバターパンがお気に入りで、おやつに食べる。
太ったかもしれない。
町中の喫茶店巡りもした。
一日に何軒回れるか、侍女のサフラと護衛のトムソンを連れて巡った。
お腹がタポタポになった。
お茶ばかり何杯も飲める物ではない。
最後には注文する物を思いつかなくなっていた。
笑い話だ。
知らない道は無くなり、細い路地でもこの先に何があるのかわかるようになり、
ハーレの住民になった様な気持ちになっていた。
そのハーレとも今日でお別れだ。
名残惜しい気持ちがする。
「夜の便ですから、夕飯は済ませておきますか?それとも船の中で食べる様に買っておきますか?」
「一応、買っておきましょう。食べなかったら、明日の朝食にすればいいわ」
そう言って、買い物に出かけた。
船旅は四日。
食べ物は、船内でも売っているが、船の中は高いと聞く。
サフラが一等の客室の切符を買っていたので、食事は持ち込んでも大丈夫だ。
多めに買っておこう。
まずは丘の途中にあるパン屋に向かった。
他の人が同じ部屋ならば、私達だけで食事をするのは気が引けるが、
持っている切符は個室なので、少々の食べ物は持ち込んでも大丈夫だ。
日持ちする食べ物を買いながら、町歩きをする。
王都を出て、早いもので二週間になる。
つい、王都のある方角を見てしまう。
「「ノアは、どうしているだろう。」」
彼の顔を思い出す。
今頃はリリアーナ王女との、婚約が発表された頃だろうか、、、。
先日、私を訪ねてきたリリアーナを思い出す。
14歳と聞いた。
グレースよりも6歳年下だと言うのに、胸はふっくらと大きく、腰は、、、驚くほど細い。
身長も、男性から見たら丁度良い高さなのだろう。
どちらかと言うと小柄な女性だ。
丸い顔に、ぱっちりとした目、さくらんぼのような、ぷっくりした唇。
14歳、、え14歳で、ノアと愛を確かめ合ったって、、、?
ノアが14歳の子と?
それでも、禁を犯してでもノアは、、、リリアーナ様と、、、、。
辛い、考えると落ち込みそうだ。
知らず知らずにため息が出た。
「お嬢様、おじようさま?」
サフラの声でハッとする。
「何?、ごめん聞いていなかったわ」
「大丈夫ですか?船の出航が延期になるそうです。さきほどのお店の客が話していました。港に行って詳しい話を聞いてみましょう」
船が遅れると言う。
誰かが話していた様だ。
サフラと共に港まで急ぐ。
海が荒れていて、今日の午前に入ってくる予定の船がまだ着かない。
ハーレの近くの島陰で、安全のために風避け中だという。
その船が入港次第、折り返しマークスに向かう予定で、切符は有効だと説明があった。
入港が遅れると、荷物を下ろしたり、積み込んだりの時間もあるので、どうしても出航が遅れる。
「宿の延長を頼んでみます。」
護衛のトムソンが急いで宿に引き返し、
三日ほど延泊する様に手続きをした。
港町ではよくある事の様だ。
「自然は、人が思うようにはならないからね」
宿の年老いた主人は、和かにそう言った。
言われてみれば、確かにそうだ。
相手は自然だ。
天気を自由に操れる者はいない。
ハーレの住人達は、自然とうまく付き合っている。
時化も、風も、良いお天気さえも、天の定めと受け取っていた。
イグレットがハーレに着いたのは、陽が落ちたその日の夜の事だ。
町の灯りは街灯だけ。
船の出航時間はとうに過ぎていた。
港の事務所に飛び込み確認する。
グレースが乗る予定の、
船の出航時間は一時間前だ。
暗い港に船の姿は見えない。
既に港を離れている。
今頃は岬を周り、外海に出た頃だ。
膝から崩れ落ちた。
自分の手の中からグレースが滑り落ちる。
取り戻せない。
王族が国を出るのは、婚姻か、国の許可を得た留学。或いは外交で、自由に国外に向かう事は出来ない。
イグレットがグレースを追いかけることができるのは、ハーレの港までだ。
項垂れているイグレットに、
事務所に座る男が声をかけた。
「船の時間は表の通りですが、今夜の船はまだ出ていませんよ。嵐でマークスからの船が来ていませんからね、切符要りますか?今の状態なら、出航は二日ほど先に、、」
言い終わる前に、
「ありがとう!!」
先程まで、死んだような顔をしていたイグレットは、立ち上がると急いで事務所を出て行った。
ハーレの全ての宿を手分けして探す。
グレースは必ず居るはずだ。
深夜近く、イグレットの護衛達はハーレの町に散った。
勿論イグレットも。
一軒一軒宿を探す。
ハーレは港町。
宿の数も、民宿から高級ホテルまで数が多い。
グレースは公爵令嬢。
大部屋しかない安宿には泊まらないだろう。
一軒ずつ調べて回るしか無かった。
丘の上から港に向かうほど、宿のラングが下がる。
何処でも港町は大体同じだ。
窓からの景観が、値段と宿のランクに反映する。
イグレットは先ず、丘の上にある高級ホテルに向かった。
グレースはいなかった。
自分の為に部屋を取ると、
グレースを探して次の宿に向かった。
二軒目、三軒目、グレースはいない。
不安に駆られながら、夜の町を探して歩く。
既に、町中にある宿は殆ど調べた。
時間は深夜を回った。
後は港の近くの安宿が残るだけだ。
ハーレの町にはいないのか?
それとも、既にマークスに渡ったのか?
焦燥感が半端なく襲ってくる。
「殿下、岬の先に老夫婦が営んでいる宿があるそうです。部屋数は少ないそうですが、行ってみますか?」
護衛の一人が、もう一軒宿があることを聞いてきた。
岬の先、、、、町からは少し離れる。
グレースが、安宿に泊まるとは考えられない。
藁にも縋る気持ちでそこに向かった。
細い道を歩く。
足元には等間隔に灯りがある。
宿迄の道筋の灯りだろう。
門柱には篝火が焚かれて、
海の上からも見えるように、薪の量から赤々と一晩中燃やしている様だ。
船の為だとわかる。
玄関の灯りは深夜だというのに灯っていた。
他人に優しい宿のようだ。
ドアを開けた。
ロビーには数人の客が酒を飲む姿が見られた。
イグレットはその中に知る顔を見つけた。
朝、目覚めるとサフラに言われた。
この一週間、ハーレの町の観光をして過ごした。
小さな町だ、殆ど知らない場所はなくなった。
岬の麓の白い屋根の喫茶店。
パンケーキが美味しい店だ。
港の近くの大衆食堂。
漁師飯が有名で、グレースは魚の煮付けが気に入った。
毎日でも食べたいと思ったが、四日目で違うものが食べたくなった。
流石に毎日昼食が同じ物は飽きるものだと気づいた。
丘に登る途中にあるお洒落なパン屋。
若い女性が経営している。
あんバターパンがお気に入りで、おやつに食べる。
太ったかもしれない。
町中の喫茶店巡りもした。
一日に何軒回れるか、侍女のサフラと護衛のトムソンを連れて巡った。
お腹がタポタポになった。
お茶ばかり何杯も飲める物ではない。
最後には注文する物を思いつかなくなっていた。
笑い話だ。
知らない道は無くなり、細い路地でもこの先に何があるのかわかるようになり、
ハーレの住民になった様な気持ちになっていた。
そのハーレとも今日でお別れだ。
名残惜しい気持ちがする。
「夜の便ですから、夕飯は済ませておきますか?それとも船の中で食べる様に買っておきますか?」
「一応、買っておきましょう。食べなかったら、明日の朝食にすればいいわ」
そう言って、買い物に出かけた。
船旅は四日。
食べ物は、船内でも売っているが、船の中は高いと聞く。
サフラが一等の客室の切符を買っていたので、食事は持ち込んでも大丈夫だ。
多めに買っておこう。
まずは丘の途中にあるパン屋に向かった。
他の人が同じ部屋ならば、私達だけで食事をするのは気が引けるが、
持っている切符は個室なので、少々の食べ物は持ち込んでも大丈夫だ。
日持ちする食べ物を買いながら、町歩きをする。
王都を出て、早いもので二週間になる。
つい、王都のある方角を見てしまう。
「「ノアは、どうしているだろう。」」
彼の顔を思い出す。
今頃はリリアーナ王女との、婚約が発表された頃だろうか、、、。
先日、私を訪ねてきたリリアーナを思い出す。
14歳と聞いた。
グレースよりも6歳年下だと言うのに、胸はふっくらと大きく、腰は、、、驚くほど細い。
身長も、男性から見たら丁度良い高さなのだろう。
どちらかと言うと小柄な女性だ。
丸い顔に、ぱっちりとした目、さくらんぼのような、ぷっくりした唇。
14歳、、え14歳で、ノアと愛を確かめ合ったって、、、?
ノアが14歳の子と?
それでも、禁を犯してでもノアは、、、リリアーナ様と、、、、。
辛い、考えると落ち込みそうだ。
知らず知らずにため息が出た。
「お嬢様、おじようさま?」
サフラの声でハッとする。
「何?、ごめん聞いていなかったわ」
「大丈夫ですか?船の出航が延期になるそうです。さきほどのお店の客が話していました。港に行って詳しい話を聞いてみましょう」
船が遅れると言う。
誰かが話していた様だ。
サフラと共に港まで急ぐ。
海が荒れていて、今日の午前に入ってくる予定の船がまだ着かない。
ハーレの近くの島陰で、安全のために風避け中だという。
その船が入港次第、折り返しマークスに向かう予定で、切符は有効だと説明があった。
入港が遅れると、荷物を下ろしたり、積み込んだりの時間もあるので、どうしても出航が遅れる。
「宿の延長を頼んでみます。」
護衛のトムソンが急いで宿に引き返し、
三日ほど延泊する様に手続きをした。
港町ではよくある事の様だ。
「自然は、人が思うようにはならないからね」
宿の年老いた主人は、和かにそう言った。
言われてみれば、確かにそうだ。
相手は自然だ。
天気を自由に操れる者はいない。
ハーレの住人達は、自然とうまく付き合っている。
時化も、風も、良いお天気さえも、天の定めと受け取っていた。
イグレットがハーレに着いたのは、陽が落ちたその日の夜の事だ。
町の灯りは街灯だけ。
船の出航時間はとうに過ぎていた。
港の事務所に飛び込み確認する。
グレースが乗る予定の、
船の出航時間は一時間前だ。
暗い港に船の姿は見えない。
既に港を離れている。
今頃は岬を周り、外海に出た頃だ。
膝から崩れ落ちた。
自分の手の中からグレースが滑り落ちる。
取り戻せない。
王族が国を出るのは、婚姻か、国の許可を得た留学。或いは外交で、自由に国外に向かう事は出来ない。
イグレットがグレースを追いかけることができるのは、ハーレの港までだ。
項垂れているイグレットに、
事務所に座る男が声をかけた。
「船の時間は表の通りですが、今夜の船はまだ出ていませんよ。嵐でマークスからの船が来ていませんからね、切符要りますか?今の状態なら、出航は二日ほど先に、、」
言い終わる前に、
「ありがとう!!」
先程まで、死んだような顔をしていたイグレットは、立ち上がると急いで事務所を出て行った。
ハーレの全ての宿を手分けして探す。
グレースは必ず居るはずだ。
深夜近く、イグレットの護衛達はハーレの町に散った。
勿論イグレットも。
一軒一軒宿を探す。
ハーレは港町。
宿の数も、民宿から高級ホテルまで数が多い。
グレースは公爵令嬢。
大部屋しかない安宿には泊まらないだろう。
一軒ずつ調べて回るしか無かった。
丘の上から港に向かうほど、宿のラングが下がる。
何処でも港町は大体同じだ。
窓からの景観が、値段と宿のランクに反映する。
イグレットは先ず、丘の上にある高級ホテルに向かった。
グレースはいなかった。
自分の為に部屋を取ると、
グレースを探して次の宿に向かった。
二軒目、三軒目、グレースはいない。
不安に駆られながら、夜の町を探して歩く。
既に、町中にある宿は殆ど調べた。
時間は深夜を回った。
後は港の近くの安宿が残るだけだ。
ハーレの町にはいないのか?
それとも、既にマークスに渡ったのか?
焦燥感が半端なく襲ってくる。
「殿下、岬の先に老夫婦が営んでいる宿があるそうです。部屋数は少ないそうですが、行ってみますか?」
護衛の一人が、もう一軒宿があることを聞いてきた。
岬の先、、、、町からは少し離れる。
グレースが、安宿に泊まるとは考えられない。
藁にも縋る気持ちでそこに向かった。
細い道を歩く。
足元には等間隔に灯りがある。
宿迄の道筋の灯りだろう。
門柱には篝火が焚かれて、
海の上からも見えるように、薪の量から赤々と一晩中燃やしている様だ。
船の為だとわかる。
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