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リリアーナの出産
女医のナリヤはセオリド公爵家に向かう馬車の中にいた。
公爵夫人が産気づいたと連絡があった。
城で出産の予定だったが、カレンが現れたことで、予定が変わった。
ナリヤが、公爵家に向かうことになったのだ。
リリアーナのお腹の子は、神官の見立てでは女の子だが、ハッキリしなかった。
カレンの子を見立てた時だったので、リリアーナの子はまだ月数が少なくて、見定められなかった。
おそらく、女の子だろうと言われていたのだ。
もし、男の子だったら、、、。
カレンの産んだ子は始末されるだろう。
後継が、幾ら第一子と決まっていても、一国の王女の産んだ子と、平民の産んだ子では比べようがない。
「「さぁ、どちらが生まれるのかしら?」」
馬車がついた。
カバンを手に、馬車を降りる。
今から此処がナリヤの戦場だ。
気を引き締めて、屋敷に入った。
リリアーナは陣痛の間隔が緩かった。
今日の事ではないと判断したナリヤは、彼女のベッドの近くに空いていたテーブルを運ぶと、そこに出産の為の道具を広げた。
白い、清潔な布の上に、一つずつ丁寧に並べる。
使用人には、絶え間なく湯を沸かす様に申し伝え、沸いたら此方へ運ぶ様に言った。
器具の消毒からだ。
半日が過ぎた頃から、リリアーナの陣痛の間隔が短くなる。
今夜、いや明日か?
ベッドに横たわるリリアーナの様子を見ながら、ナリヤは出産の時間を測っていた。
「「今夜は徹夜だな」」
出された軽食を食べながら窓の外を見ていた。
先日のルモンド公爵夫人の流産は気の毒だった。
泣き言一つ言わずに、薬で促した陣痛に耐えた彼女の姿を思い出す。
腹が重たい。
そんな伝言を伝えてきたのはこの位の時間だった。
数日前に診察した。
特に異常はなかった。
直ぐにルモンド公爵家を訪ねて、診察すると、子供の心音が聞こえない。
夫人のグレース様も、見るからにやつれていた。
「「何があった?精神的なものか?」」
理由は全くわからなかった。
腹の中で、子供が死んでいる。
告げなくてはならなかった。
「子供は、、助からないんですよね?」
気丈にも、グレース様は自分の口から、私が言わなければならない言葉を言った。
私はコクリと頷いた。
「これからどうすれば良いのですか?」
「子供の大きさから、薬での堕胎は出来ません。出産と同じ様に、陣痛を起こして出すことになります。
ご主人に同席してもらった方が心丈夫で、、、」
「一人で大丈夫です、直ぐに始めてください」
彼女はそう言った。
顔には決意が見られた。
「公爵に説明、、、」
「いえ、言わなくても大丈夫です」
彼女の様子から二人の間に何かがあったのだろうと察したが、身体の中から、死んだ子を出すことの方が最優先だ。
死んだ子は身体の中で朽ちて行く。
母体が危険に晒される。
直ぐに使いを出し、城から陣痛を起こす薬を持って来させた。
助手がつき、部屋の中は三人になる。
城から薬を持ってきた私の助手と、私、そしてグレース様の、長い夜が始まった。
分娩時の陣痛には個人差がある。
時間が長くかかる者、あっという間に産まれる短い者、一般的には一日から二日。
それは子供の生命力が関係するのだと言われていた。
堕胎するために使う陣痛促進の薬は、全く違うものだ。
腹の子に生命力はない。
子の命が既にないのだから。
母体の力だけで、子供を外に押し出さなければならない。
グレース様は、公爵家のお嬢様だったと聞いている。
耐えられるだろうか?
不安が先に立つ。
一応、ルモンド公爵にも覚悟をしておいてもらわなければならない。
グレース様が、助手から堕胎の説明を受けている間に、ルモンド公爵の元に向かった。
もしもの場合、グレース様の命も覚悟をしておいてくださいと告げた。
公爵はこの世の終わりの様な顔をした。
グレース様の様子とは全く違う。
彼女は今死んでも構わないという覚悟だった。
いや、子供と共に、死んでしまいたいと思ってさえいる様に思えた。
何があったのだろう。
医者の私が考える事ではないが、気になった。
グレース様は、一切泣き言を言わなかった。
「辛かったら、口にしても良いのですよ」
彼女の額の汗をふきながら、私が言った。
「そんな事、、、子供に申し訳ないわ、」
呟いた。
「申し訳ない?」
「だって、、わたしの心が弱くて、、私のせいで死なせてしまったのだから、、、」
「ご自分を責めないでください。子供が産まれてきても育たないくらい体力的に弱かったのですよ、」
言ったが、他に慰める言葉を思いつかなかった。
実際に、障害があったり、体に欠損があったりする子は、産月まだ腹の中にいても、産まれると直ぐに死んだり、何とか生きても、数ヶ月しか持たなかったりする。
グレース様には、きっとその様な子だったのだと思い、自分を責めないで欲しいと思った。
二日目の朝、息も絶え絶えにグレース様の子は出た。
彼女は抱かせて欲しいと言ったので、白い布に包んだ、黒く変色した塊を彼女の腕の中に抱かせた。
その時、初めて彼女は涙を流した。
「ごめんね」
一言子供に言うと、
「形は無かったと公爵様に伝えてください。
この子は此方で埋葬します。」
「、、、かしこまりました、、」
グレース様の決意に負けて、そう返事をするしかなかった。
流石に、元公爵令嬢だ。
圧がある。
決めたら相手に引かせない。
ナリヤは、何度か城で見かけたグレースを思い出した。
背は高く、見た目だけは気の強そうな女性だが、内心は優しく大人しい女性だ。
その彼女が、ナリヤの立場を理解しながら、子供の亡骸を公爵には見せないと言う。
近いうちに、2人が別れたと言う話しを聞く事になるのだろうと、心の中で思っていた。
「先生、ナリヤ先生、」
助手の呼びかけでハッとした。
此処はセオリド公爵邸。
リリアーナ夫人のお産の最中だった。
助手は彼女の陣痛が早くなった事を知らせにきた。
ナリヤはリリアーナのベッドの側に立った。
女性の年配の使用人を、三人呼ぶ様に廊下にいた使用人に伝える。
リリアーナの分娩が始まった。
公爵夫人が産気づいたと連絡があった。
城で出産の予定だったが、カレンが現れたことで、予定が変わった。
ナリヤが、公爵家に向かうことになったのだ。
リリアーナのお腹の子は、神官の見立てでは女の子だが、ハッキリしなかった。
カレンの子を見立てた時だったので、リリアーナの子はまだ月数が少なくて、見定められなかった。
おそらく、女の子だろうと言われていたのだ。
もし、男の子だったら、、、。
カレンの産んだ子は始末されるだろう。
後継が、幾ら第一子と決まっていても、一国の王女の産んだ子と、平民の産んだ子では比べようがない。
「「さぁ、どちらが生まれるのかしら?」」
馬車がついた。
カバンを手に、馬車を降りる。
今から此処がナリヤの戦場だ。
気を引き締めて、屋敷に入った。
リリアーナは陣痛の間隔が緩かった。
今日の事ではないと判断したナリヤは、彼女のベッドの近くに空いていたテーブルを運ぶと、そこに出産の為の道具を広げた。
白い、清潔な布の上に、一つずつ丁寧に並べる。
使用人には、絶え間なく湯を沸かす様に申し伝え、沸いたら此方へ運ぶ様に言った。
器具の消毒からだ。
半日が過ぎた頃から、リリアーナの陣痛の間隔が短くなる。
今夜、いや明日か?
ベッドに横たわるリリアーナの様子を見ながら、ナリヤは出産の時間を測っていた。
「「今夜は徹夜だな」」
出された軽食を食べながら窓の外を見ていた。
先日のルモンド公爵夫人の流産は気の毒だった。
泣き言一つ言わずに、薬で促した陣痛に耐えた彼女の姿を思い出す。
腹が重たい。
そんな伝言を伝えてきたのはこの位の時間だった。
数日前に診察した。
特に異常はなかった。
直ぐにルモンド公爵家を訪ねて、診察すると、子供の心音が聞こえない。
夫人のグレース様も、見るからにやつれていた。
「「何があった?精神的なものか?」」
理由は全くわからなかった。
腹の中で、子供が死んでいる。
告げなくてはならなかった。
「子供は、、助からないんですよね?」
気丈にも、グレース様は自分の口から、私が言わなければならない言葉を言った。
私はコクリと頷いた。
「これからどうすれば良いのですか?」
「子供の大きさから、薬での堕胎は出来ません。出産と同じ様に、陣痛を起こして出すことになります。
ご主人に同席してもらった方が心丈夫で、、、」
「一人で大丈夫です、直ぐに始めてください」
彼女はそう言った。
顔には決意が見られた。
「公爵に説明、、、」
「いえ、言わなくても大丈夫です」
彼女の様子から二人の間に何かがあったのだろうと察したが、身体の中から、死んだ子を出すことの方が最優先だ。
死んだ子は身体の中で朽ちて行く。
母体が危険に晒される。
直ぐに使いを出し、城から陣痛を起こす薬を持って来させた。
助手がつき、部屋の中は三人になる。
城から薬を持ってきた私の助手と、私、そしてグレース様の、長い夜が始まった。
分娩時の陣痛には個人差がある。
時間が長くかかる者、あっという間に産まれる短い者、一般的には一日から二日。
それは子供の生命力が関係するのだと言われていた。
堕胎するために使う陣痛促進の薬は、全く違うものだ。
腹の子に生命力はない。
子の命が既にないのだから。
母体の力だけで、子供を外に押し出さなければならない。
グレース様は、公爵家のお嬢様だったと聞いている。
耐えられるだろうか?
不安が先に立つ。
一応、ルモンド公爵にも覚悟をしておいてもらわなければならない。
グレース様が、助手から堕胎の説明を受けている間に、ルモンド公爵の元に向かった。
もしもの場合、グレース様の命も覚悟をしておいてくださいと告げた。
公爵はこの世の終わりの様な顔をした。
グレース様の様子とは全く違う。
彼女は今死んでも構わないという覚悟だった。
いや、子供と共に、死んでしまいたいと思ってさえいる様に思えた。
何があったのだろう。
医者の私が考える事ではないが、気になった。
グレース様は、一切泣き言を言わなかった。
「辛かったら、口にしても良いのですよ」
彼女の額の汗をふきながら、私が言った。
「そんな事、、、子供に申し訳ないわ、」
呟いた。
「申し訳ない?」
「だって、、わたしの心が弱くて、、私のせいで死なせてしまったのだから、、、」
「ご自分を責めないでください。子供が産まれてきても育たないくらい体力的に弱かったのですよ、」
言ったが、他に慰める言葉を思いつかなかった。
実際に、障害があったり、体に欠損があったりする子は、産月まだ腹の中にいても、産まれると直ぐに死んだり、何とか生きても、数ヶ月しか持たなかったりする。
グレース様には、きっとその様な子だったのだと思い、自分を責めないで欲しいと思った。
二日目の朝、息も絶え絶えにグレース様の子は出た。
彼女は抱かせて欲しいと言ったので、白い布に包んだ、黒く変色した塊を彼女の腕の中に抱かせた。
その時、初めて彼女は涙を流した。
「ごめんね」
一言子供に言うと、
「形は無かったと公爵様に伝えてください。
この子は此方で埋葬します。」
「、、、かしこまりました、、」
グレース様の決意に負けて、そう返事をするしかなかった。
流石に、元公爵令嬢だ。
圧がある。
決めたら相手に引かせない。
ナリヤは、何度か城で見かけたグレースを思い出した。
背は高く、見た目だけは気の強そうな女性だが、内心は優しく大人しい女性だ。
その彼女が、ナリヤの立場を理解しながら、子供の亡骸を公爵には見せないと言う。
近いうちに、2人が別れたと言う話しを聞く事になるのだろうと、心の中で思っていた。
「先生、ナリヤ先生、」
助手の呼びかけでハッとした。
此処はセオリド公爵邸。
リリアーナ夫人のお産の最中だった。
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