裏切りと愛

キラ

文字の大きさ
37 / 44

リリアーナの出産

女医のナリヤはセオリド公爵家に向かう馬車の中にいた。

公爵夫人が産気づいたと連絡があった。
城で出産の予定だったが、カレンが現れたことで、予定が変わった。

ナリヤが、公爵家に向かうことになったのだ。

リリアーナのお腹の子は、神官の見立てでは女の子だが、ハッキリしなかった。

カレンの子を見立てた時だったので、リリアーナの子はまだ月数が少なくて、見定められなかった。
おそらく、女の子だろうと言われていたのだ。

もし、男の子だったら、、、。

カレンの産んだ子は始末されるだろう。
後継が、幾ら第一子と決まっていても、一国の王女の産んだ子と、平民の産んだ子では比べようがない。


「「さぁ、どちらが生まれるのかしら?」」

馬車がついた。
カバンを手に、馬車を降りる。
今から此処がナリヤの戦場だ。

気を引き締めて、屋敷に入った。

リリアーナは陣痛の間隔が緩かった。
今日の事ではないと判断したナリヤは、彼女のベッドの近くに空いていたテーブルを運ぶと、そこに出産の為の道具を広げた。

白い、清潔な布の上に、一つずつ丁寧に並べる。

使用人には、絶え間なく湯を沸かす様に申し伝え、沸いたら此方へ運ぶ様に言った。

器具の消毒からだ。

半日が過ぎた頃から、リリアーナの陣痛の間隔が短くなる。
今夜、いや明日か?

ベッドに横たわるリリアーナの様子を見ながら、ナリヤは出産の時間を測っていた。

「「今夜は徹夜だな」」

出された軽食を食べながら窓の外を見ていた。


先日のルモンド公爵夫人の流産は気の毒だった。
泣き言一つ言わずに、薬で促した陣痛に耐えた彼女の姿を思い出す。

腹が重たい。
そんな伝言を伝えてきたのはこの位の時間だった。

数日前に診察した。
特に異常はなかった。
直ぐにルモンド公爵家を訪ねて、診察すると、子供の心音が聞こえない。

夫人のグレース様も、見るからにやつれていた。

「「何があった?精神的なものか?」」

理由は全くわからなかった。

腹の中で、子供が死んでいる。
告げなくてはならなかった。

「子供は、、助からないんですよね?」

気丈にも、グレース様は自分の口から、私が言わなければならない言葉を言った。

私はコクリと頷いた。

「これからどうすれば良いのですか?」

「子供の大きさから、薬での堕胎は出来ません。出産と同じ様に、陣痛を起こして出すことになります。
ご主人に同席してもらった方が心丈夫で、、、」



「一人で大丈夫です、直ぐに始めてください」

彼女はそう言った。
顔には決意が見られた。


「公爵に説明、、、」

「いえ、言わなくても大丈夫です」

彼女の様子から二人の間に何かがあったのだろうと察したが、身体の中から、死んだ子を出すことの方が最優先だ。

死んだ子は身体の中で朽ちて行く。
母体が危険に晒される。

直ぐに使いを出し、城から陣痛を起こす薬を持って来させた。

助手がつき、部屋の中は三人になる。

城から薬を持ってきた私の助手と、私、そしてグレース様の、長い夜が始まった。

分娩時の陣痛には個人差がある。
時間が長くかかる者、あっという間に産まれる短い者、一般的には一日から二日。
それは子供の生命力が関係するのだと言われていた。

堕胎するために使う陣痛促進の薬は、全く違うものだ。

腹の子に生命力はない。
子の命が既にないのだから。
母体の力だけで、子供を外に押し出さなければならない。

グレース様は、公爵家のお嬢様だったと聞いている。
耐えられるだろうか?

不安が先に立つ。

一応、ルモンド公爵にも覚悟をしておいてもらわなければならない。

グレース様が、助手から堕胎の説明を受けている間に、ルモンド公爵の元に向かった。

もしもの場合、グレース様の命も覚悟をしておいてくださいと告げた。

公爵はこの世の終わりの様な顔をした。

グレース様の様子とは全く違う。
彼女は今死んでも構わないという覚悟だった。

いや、子供と共に、死んでしまいたいと思ってさえいる様に思えた。

何があったのだろう。
医者の私が考える事ではないが、気になった。


グレース様は、一切泣き言を言わなかった。

「辛かったら、口にしても良いのですよ」

彼女の額の汗をふきながら、私が言った。

「そんな事、、、子供に申し訳ないわ、」

呟いた。

「申し訳ない?」

「だって、、わたしの心が弱くて、、私のせいで死なせてしまったのだから、、、」

「ご自分を責めないでください。子供が産まれてきても育たないくらい体力的に弱かったのですよ、」

言ったが、他に慰める言葉を思いつかなかった。

実際に、障害があったり、体に欠損があったりする子は、産月まだ腹の中にいても、産まれると直ぐに死んだり、何とか生きても、数ヶ月しか持たなかったりする。

グレース様には、きっとその様な子だったのだと思い、自分を責めないで欲しいと思った。

二日目の朝、息も絶え絶えにグレース様の子は出た。
彼女は抱かせて欲しいと言ったので、白い布に包んだ、黒く変色した塊を彼女の腕の中に抱かせた。

その時、初めて彼女は涙を流した。

「ごめんね」

一言子供に言うと、

「形は無かったと公爵様に伝えてください。
この子は此方で埋葬します。」

「、、、かしこまりました、、」

グレース様の決意に負けて、そう返事をするしかなかった。

流石に、元公爵令嬢だ。
圧がある。
決めたら相手に引かせない。

ナリヤは、何度か城で見かけたグレースを思い出した。
背は高く、見た目だけは気の強そうな女性だが、内心は優しく大人しい女性だ。

その彼女が、ナリヤの立場を理解しながら、子供の亡骸を公爵には見せないと言う。

近いうちに、2人が別れたと言う話しを聞く事になるのだろうと、心の中で思っていた。


「先生、ナリヤ先生、」

助手の呼びかけでハッとした。
此処はセオリド公爵邸。
リリアーナ夫人のお産の最中だった。

助手は彼女の陣痛が早くなった事を知らせにきた。

ナリヤはリリアーナのベッドの側に立った。
女性の年配の使用人を、三人呼ぶ様に廊下にいた使用人に伝える。

リリアーナの分娩が始まった。



あなたにおすすめの小説

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

片思いの貴方に何度も告白したけど断られ続けてきた

アリス
恋愛
幼馴染で学生の頃から、ずっと好きだった人。 高校生くらいから何十回も告白した。 全て「好きなの」 「ごめん、断る」 その繰り返しだった。 だけど彼は優しいから、時々、ご飯を食べに行ったり、デートはしてくれる。 紛らわしいと思う。 彼に好きな人がいるわけではない。 まだそれなら諦めがつく。 彼はカイル=クレシア23歳 イケメンでモテる。 私はアリア=ナターシャ20歳 普通で人には可愛い方だと言われた。 そんなある日 私が20歳になった時だった。 両親が見合い話を持ってきた。 最後の告白をしようと思った。 ダメなら見合いをすると言った。 その見合い相手に溺愛される。

彼は亡国の令嬢を愛せない

黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。 ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。 ※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。 ※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。

三度裏切られた私が、四度目で「離婚」を選ぶまで

狛犬
恋愛
三度、夫に裏切られた。 一度目は信じた。 二度目は耐えた。 三度目は――すべてを失った。 そして私は、屋上から身を投げた。 ……はずだった。 目を覚ますと、そこは過去。 すべてが壊れる前の、まだ何も起きていない時間。 ――四度目の人生。 これまでの三度、私は同じ選択を繰り返し、 同じように裏切られ、すべてを失ってきた。 だから今度は、もう決めている。 「もう、陸翔はいらない」 愛していた。 けれど、もう疲れた。 今度こそ―― 自分を守るために、家族を守るために、 私は、自分から手を放す。 これは、三度裏切られた女が、 四度目の人生で「選び直す」物語。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています