13 / 15
父と娘
夜会の日から数日後、レオンはワトソン公爵の招待を受けて、彼の屋敷を訪ねていた。
おそらくはルキアの事だろうと考えている。
初めて訪れたが、流石に公爵家だ。
屋敷の造りからして伯爵家とは違う。
門から玄関までの距離も遠く、玄関前には噴水がある大きな池があり、その周りをぐるりと馬車が回り、玄関の前に降りれる様に出来ている。
雨の日は濡れずに馬車に乗ることができる。
近くには馬車が何台も止めて置ける馬車止めがあり、レオンの乗ってきた馬車もそこに置いた。
これ程の屋敷を維持していくのには、相当な金が必要になる。
確か公爵家はダイヤモンド鉱山をいくつか持っていたはず、資産も多いはずだ。
家の中に案内され、長い廊下を庭を眺めながら歩く。
手入れされた庭には薔薇の花が満開だ。
これ程の庭を手入れするには、庭師も一人や二人では無いだろう。
案内されるまま歩く廊下には、使用人が何人も頭を下げる。
使用人に払う賃金だけでも相当なものだ。
つい、費用を考えてしまう。
金のことを考えるのは、貴族としては失格なのかも知れないが、レオンはルキアに贅沢をさせたいとは思わないが、金に困る生活はさせたくない。
彼女が欲しいものは気にせず買ってやりたい。
その為に今の事業も始めた。
案内人が、重厚な扉の前に立ち、ノックをすると、中からドアが開いた。
「お待ちしておりました」
ドアを開けたのも使用人だ。
中央に執務机があり、その前に応接用の2人掛けのソファーが一つと1人掛けの椅子が二つ、真ん中にテーブルがある。
来客用のソファーの周りには人が充分通れるほどの空間がある。
広い執務室だ。
2人掛けのソファーの中央に腰を下ろす。
執務机の前に座っていた公爵が、立ち上がり、レオンの前に座った。
先ほどドアを開けた使用人が茶を入れる。
先に公爵が飲み、レオンも口をつけるのを待っていたかの様に、
公爵は人払いをして、部屋の中は二人だけになった。
沈黙が続く。
さて、どうするか?
レオンは考えていた。
公爵から話し出すのを待つか、レオンから話すか。
内容はきっとルキアの事だ。
間違いない。
手元のお茶をもう一口飲み喉を潤す。
「君が、前伯爵から聞いていると思って、わざわざきてもらったのだが、、、」
やはりルキアの事だった。
公爵はルキアの実母が実家に帰った後の事は全く知らなかった。
教会に身を寄せてルキアを産んだことも、ルキアがマーラシア伯爵家に預けられた経緯も、レオンの言葉を一言一句、聞き漏らさ無いように黙って聞いていたが、手元は震えていた。
「娘を返してもらえないだろうか?」
小さな声だった。
「嫌です」
レオンの返答の方が早かった。
何故、ルキアを手放さねばならない。
やっと手に入れて、まだ一年にもならない。
「彼女は、、私の事を知っているのだろうか?」
恐々と公爵はレオンに尋ねた。
「こちらに伺う前に、私が話しました。」
「何と、彼女は何と言っていたのだろうか?」
「特には、何も、」
事実だ。
ルキアは気にしていなかった。
正直なところ、一緒に行く。と言うかと思ってもいた。
レオンが出かける時に
見送りに玄関まで出てきて、彼の頬に軽くキスをした。
出かける時のいつもの風景だ。
特に変わった所は無かった。
ただ、ワトソン公爵が、ルキアの実の父親だと話しをした時、
「何となく、そうじゃ無いかと思った」
呟いた。
それだけだった。
実の母の事は、思いがけず他から聞いて知っていたと話した。
妬みで色々な事を言うものは居る。
誰の子がわからない子を教会で産んだ女がいた。女は産後直ぐに死んだが、
その時生まれた子はルキアだと言った。
夜会で耳元で囁かれた。
驚いて顔を見たが、今では誰だったか、覚えてはいない。
その女性は、レオンの隣にルキアが居る事が目障りで、私生児が立場を弁えろと言った。
それから夜会には行かない。
社交界デビューの頃、13歳くらいの時の話だ。
レオンはルキアから初めて聞いた。
何年も、
誰にも話さず心の内にしまっていたのだ。
大切に育ててくれた両親のためにも、
一生、誰にも言わないつもりだった。
そう言った。
腹立たしい。
ルキアが夜会に出なくなった理由は、
そんな事だった。
ワトソン公爵家に来る前に、色々な事を二人で話して決めていた。
公爵は結婚していない。
後継が必要ならば、レオンとルキアに二人目の子ができたら、大人になってから公爵家に養子に出す。
ルキアはレオンとは離れないし、
公爵家を継ぐつもりはない。
行き来しても良いが、
表向きは仲の良い貴族家同士として付き合いたい。
その辺りをルキアと話した。
父と呼ぶのは難しい。
自然に呼べれば良いが、
育ててくれた義父に申し訳ないような気がする。
公爵が、家格を嵩にレオンを脅すようなら、その時こそ、二人でトルコンに行こうと決めて、今日彼は公爵邸に向かった。
外が暗くなってきたがレオンはまだ帰らない。
公爵との話はどうなったのだろう。
自分の事だが、レオンに任せてしまって良かったのだろうか?
クヨクヨと悩む。
今日の午後医者が来た。
いつもの検診の日だった。
幼い頃からほぼ毎月の行事になっている。
口の中を見て、顎を触り、目を見て熱を測り、脈をとる。
いつもなら以上はないですね。と言うのに、
「おめでとうございす、ご懐妊ですね」
と言われた。
懐妊している?
驚いたて、動きが止まった。
嬉しくて、顔が緩んだ。
レオンに早く知らせたい。
が、公爵との話も気になる。
夕飯はレオンを待つと告げた。
夜、遅くなってレオンが帰ってきた。
玄関に迎えに出る。
少しお酒の匂いがした。
彼の様子から、話は上手く終わった様だ。
後で話すと耳元で言われた。
屋敷の皆は何も知らない。
夫婦の寝所でレオンは酒を飲みながら、
今日公爵と話した事をルキアに伝えた。
ルキアを娘として迎えたいと言った事は
直ぐに断った。
後継については、ルキアとの話の通り、二人の間の二人目の子を、男子、女子に関わらず成人してから養子に出すと話した。
家同士の付き合いから始める事を話すと、
早速、遊びに行かせて欲しいと言われた。
了解していつでも、と伝えたと、笑って話すレオンは嬉しそうだ。
二杯目の酒をグラスに注いだレオンに、ルキアは子ができた事を耳打ちした。
少しだけ、恥ずかしかった。
聞いた途端、驚いた顔でルキアを見たレオンは、グラスを置くと彼女を抱き上げ、笑いながらクルクルと回した。
「レオン、レオンったら、目がまわるから、やめて!!」
レオンのこんなに嬉しそうな顔は初めて見た。
「自分の血の繋がった子供が出来るんだぞ、嬉しくないはずがない。
産まれてくるのが待ち遠しい」
次の日から、レオンの過保護が始まった。
おそらくはルキアの事だろうと考えている。
初めて訪れたが、流石に公爵家だ。
屋敷の造りからして伯爵家とは違う。
門から玄関までの距離も遠く、玄関前には噴水がある大きな池があり、その周りをぐるりと馬車が回り、玄関の前に降りれる様に出来ている。
雨の日は濡れずに馬車に乗ることができる。
近くには馬車が何台も止めて置ける馬車止めがあり、レオンの乗ってきた馬車もそこに置いた。
これ程の屋敷を維持していくのには、相当な金が必要になる。
確か公爵家はダイヤモンド鉱山をいくつか持っていたはず、資産も多いはずだ。
家の中に案内され、長い廊下を庭を眺めながら歩く。
手入れされた庭には薔薇の花が満開だ。
これ程の庭を手入れするには、庭師も一人や二人では無いだろう。
案内されるまま歩く廊下には、使用人が何人も頭を下げる。
使用人に払う賃金だけでも相当なものだ。
つい、費用を考えてしまう。
金のことを考えるのは、貴族としては失格なのかも知れないが、レオンはルキアに贅沢をさせたいとは思わないが、金に困る生活はさせたくない。
彼女が欲しいものは気にせず買ってやりたい。
その為に今の事業も始めた。
案内人が、重厚な扉の前に立ち、ノックをすると、中からドアが開いた。
「お待ちしておりました」
ドアを開けたのも使用人だ。
中央に執務机があり、その前に応接用の2人掛けのソファーが一つと1人掛けの椅子が二つ、真ん中にテーブルがある。
来客用のソファーの周りには人が充分通れるほどの空間がある。
広い執務室だ。
2人掛けのソファーの中央に腰を下ろす。
執務机の前に座っていた公爵が、立ち上がり、レオンの前に座った。
先ほどドアを開けた使用人が茶を入れる。
先に公爵が飲み、レオンも口をつけるのを待っていたかの様に、
公爵は人払いをして、部屋の中は二人だけになった。
沈黙が続く。
さて、どうするか?
レオンは考えていた。
公爵から話し出すのを待つか、レオンから話すか。
内容はきっとルキアの事だ。
間違いない。
手元のお茶をもう一口飲み喉を潤す。
「君が、前伯爵から聞いていると思って、わざわざきてもらったのだが、、、」
やはりルキアの事だった。
公爵はルキアの実母が実家に帰った後の事は全く知らなかった。
教会に身を寄せてルキアを産んだことも、ルキアがマーラシア伯爵家に預けられた経緯も、レオンの言葉を一言一句、聞き漏らさ無いように黙って聞いていたが、手元は震えていた。
「娘を返してもらえないだろうか?」
小さな声だった。
「嫌です」
レオンの返答の方が早かった。
何故、ルキアを手放さねばならない。
やっと手に入れて、まだ一年にもならない。
「彼女は、、私の事を知っているのだろうか?」
恐々と公爵はレオンに尋ねた。
「こちらに伺う前に、私が話しました。」
「何と、彼女は何と言っていたのだろうか?」
「特には、何も、」
事実だ。
ルキアは気にしていなかった。
正直なところ、一緒に行く。と言うかと思ってもいた。
レオンが出かける時に
見送りに玄関まで出てきて、彼の頬に軽くキスをした。
出かける時のいつもの風景だ。
特に変わった所は無かった。
ただ、ワトソン公爵が、ルキアの実の父親だと話しをした時、
「何となく、そうじゃ無いかと思った」
呟いた。
それだけだった。
実の母の事は、思いがけず他から聞いて知っていたと話した。
妬みで色々な事を言うものは居る。
誰の子がわからない子を教会で産んだ女がいた。女は産後直ぐに死んだが、
その時生まれた子はルキアだと言った。
夜会で耳元で囁かれた。
驚いて顔を見たが、今では誰だったか、覚えてはいない。
その女性は、レオンの隣にルキアが居る事が目障りで、私生児が立場を弁えろと言った。
それから夜会には行かない。
社交界デビューの頃、13歳くらいの時の話だ。
レオンはルキアから初めて聞いた。
何年も、
誰にも話さず心の内にしまっていたのだ。
大切に育ててくれた両親のためにも、
一生、誰にも言わないつもりだった。
そう言った。
腹立たしい。
ルキアが夜会に出なくなった理由は、
そんな事だった。
ワトソン公爵家に来る前に、色々な事を二人で話して決めていた。
公爵は結婚していない。
後継が必要ならば、レオンとルキアに二人目の子ができたら、大人になってから公爵家に養子に出す。
ルキアはレオンとは離れないし、
公爵家を継ぐつもりはない。
行き来しても良いが、
表向きは仲の良い貴族家同士として付き合いたい。
その辺りをルキアと話した。
父と呼ぶのは難しい。
自然に呼べれば良いが、
育ててくれた義父に申し訳ないような気がする。
公爵が、家格を嵩にレオンを脅すようなら、その時こそ、二人でトルコンに行こうと決めて、今日彼は公爵邸に向かった。
外が暗くなってきたがレオンはまだ帰らない。
公爵との話はどうなったのだろう。
自分の事だが、レオンに任せてしまって良かったのだろうか?
クヨクヨと悩む。
今日の午後医者が来た。
いつもの検診の日だった。
幼い頃からほぼ毎月の行事になっている。
口の中を見て、顎を触り、目を見て熱を測り、脈をとる。
いつもなら以上はないですね。と言うのに、
「おめでとうございす、ご懐妊ですね」
と言われた。
懐妊している?
驚いたて、動きが止まった。
嬉しくて、顔が緩んだ。
レオンに早く知らせたい。
が、公爵との話も気になる。
夕飯はレオンを待つと告げた。
夜、遅くなってレオンが帰ってきた。
玄関に迎えに出る。
少しお酒の匂いがした。
彼の様子から、話は上手く終わった様だ。
後で話すと耳元で言われた。
屋敷の皆は何も知らない。
夫婦の寝所でレオンは酒を飲みながら、
今日公爵と話した事をルキアに伝えた。
ルキアを娘として迎えたいと言った事は
直ぐに断った。
後継については、ルキアとの話の通り、二人の間の二人目の子を、男子、女子に関わらず成人してから養子に出すと話した。
家同士の付き合いから始める事を話すと、
早速、遊びに行かせて欲しいと言われた。
了解していつでも、と伝えたと、笑って話すレオンは嬉しそうだ。
二杯目の酒をグラスに注いだレオンに、ルキアは子ができた事を耳打ちした。
少しだけ、恥ずかしかった。
聞いた途端、驚いた顔でルキアを見たレオンは、グラスを置くと彼女を抱き上げ、笑いながらクルクルと回した。
「レオン、レオンったら、目がまわるから、やめて!!」
レオンのこんなに嬉しそうな顔は初めて見た。
「自分の血の繋がった子供が出来るんだぞ、嬉しくないはずがない。
産まれてくるのが待ち遠しい」
次の日から、レオンの過保護が始まった。
あなたにおすすめの小説
真実の愛の裏側
藍田ひびき
恋愛
アレックス・ロートン侯爵令息の第一夫人シェリルが療養のため領地へ居を移した。それは療養とは名ばかりの放逐。
男爵家出身でありながら侯爵令息に見初められ、「真実の愛」と持て囃された彼女の身に何があったのか。その裏に隠された事情とは――?
※ 他サイトにも投稿しています。
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
必要とされなくても、私はここにいます
あう
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスのもとへ嫁ぐことになったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、理想の妻になろうとも、誰かの上に立とうともしなかった。
口出ししない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
ただ静かに、そこにいるだけ。
そんな彼女の在り方は、少しずつ屋敷の空気を変えていく。
張りつめていた人々の距離はやわらぎ、日々の営みは穏やかに整いはじめる。
何かを勝ち取る物語ではない。
誰かを打ち負かす物語でもない。
それでも確かに、彼女がいることで守られていくものがある。
これは、
声高に愛を叫ばなくても伝わる想いと、
何も奪わないからこそ育っていく信頼を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない
翠月 瑠々奈
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。
始めは夜会での振る舞いからだった。
それがさらに明らかになっていく。
機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。
おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。
そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?
将来の嫁ぎ先は確保済みです……が?!
翠月 瑠々奈
恋愛
ある日階段から落ちて、とある物語を思い出した。
侯爵令息と男爵令嬢の秘密の恋…みたいな。
そしてここが、その話を基にした世界に酷似していることに気づく。
私は主人公の婚約者。話の流れからすれば破棄されることになる。
この歳で婚約破棄なんてされたら、名に傷が付く。
それでは次の結婚は望めない。
その前に、同じ前世の記憶がある男性との婚姻話を水面下で進めましょうか。
こんな婚約者は貴女にあげる
如月圭
恋愛
アルカは十八才のローゼン伯爵家の長女として、この世に生を受ける。婚約者のステファン様は自分には興味がないらしい。妹のアメリアには、興味があるようだ。双子のはずなのにどうしてこんなに差があるのか、誰か教えて欲しい……。
初めての投稿なので温かい目で見てくださると幸いです。