瞳の継承

キラ

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イグナツトの突撃

突然イグナツトが訪ねてきた。

レオンは留守だ。
ルキアに用があるという。
使用人と、護衛を連れて、イグナツトが待つ応接室へ向かう。

その間に使用人を一人、
レオンを迎えに走らせた。

最近のハモンド侯爵家の評判は良くない。
ルキアが茶会嫌いとはいえ、情報源はある。
ターニャの浪費で食いつぶされていると聞いていた。

「お待たせいたしました」

部屋に入ると、護衛が二人ルキアの後ろに立つ。
侍女はルキアの隣に座り、使用人はお茶を入れるために、ドアの近くにいる。

「あ、ルキア、、、最近噂を耳にしたんだが、、、」

お茶が入るのが待ちきれないのか、イグナツトが話し始めた。

「噂ですか?、」

どうやらイグナツトはルキアがワトソン公爵の娘だという話しを何処かで耳にした様だ。

公爵を紹介して欲しいという。
言われても、ルキアと公爵はまだ数回しか会った事がない。

どちらかというと、
レオンの方が公爵と仲が良い。
二人で事業も始めた様だ。


それとなくイグナツトを眺める。
服の縁が汚れている。
洗濯が甘い様だ。

袖にはカフスもない。
着ている服の生地は新しく見えるが、良い品ではない。
噂は当たっていた様だ。

イグナツトは金に困り、あちこちで借金をしていると聞いた。
レオンは絶対に金を貸さない。
特にイグナツトには貸さないだろう。

ルキアも現金は持っていない。
買い物はレオンと一緒に行くし、支払いは彼が全て済ませる。


ワトソン公爵を紹介しろという事は、借金の申し込みなのか?
事業のスポンサーか?
イグナツトの考えがある程度読めた。

詳しく話しを聞くと、ルキアが足を突っ込むことになる。
レオンは怒るだろう。
此処は、話を長引かせてレオンが帰るのを待つ。

「ワトソン公爵を紹介してくれるだけで良いんだ。」

縋る様にルキアに頼む姿は哀れに思える。

「ごめんなさい、紹介できるほど公爵様を存じ上げないのです」

公爵を知らないので紹介できないと、やんわり断る。

「そんな事は無いだろ!!君の父親じゃ無いか」

イグナツトは声を荒げた。

ルキアは妊娠六ヶ月。
安定期に入ったとはいえ、情緒が不安定だ。

ピクリ!!肩が揺れる。

「私の父は今領地におりますわ。変なウワサを真に受けないで下さい」

知らぬ存ぜぬで通す事に決めた。

「まぁ、落ち着いて下さい。あ、お茶温かいのは如何ですか?」

侍女がグッドタイミングで、口を挟む。

お茶で時間を稼ぐ。
そろそろレオンが帰ってくる。はずだ。
そこまで、何事もなく話を引っ張るか、帰ってもらう様に仕向けるか。

イグナツトの様子を見ながら考えた。

他の客が来ると良いのだけれど、
生憎今日は来客の予定がない。
ルキアの頭の中はフル回転だ。

水の中を泳ぐ水鳥は、
表面は優雅に泳いでいる様に見えるが、水の中では足を必死に動かして、水を掻いていると聞いた事がある。

いまのルキアはそれと同じだ。

貴族の夫人らしく、顔と仕草は優雅だか、心の中は嵐が吹いている。

「「レオン、早く帰ってきてよ」」

祈るだけだ。

天の助けか、使用人が来客を告げに応接間に入ってきた。
ルキアに耳打ちする。

「えっ?」

ワトソン公爵がきた?
どうしようか、悩む。

差し当たり、他の部屋で待っていてもらうことにしようとしたが、彼はズカズカとイグナツトと、ルキアのいる部屋に入ってきた。

「夫人、実は、、、」

公爵は今日、レオンと約束をしていたそうだ。
都合が悪くなり、時刻が夕方になりそうなので、屋敷で夕飯でも食べながらどうかと誘われたので、先にこちらに伺ったのだと話した。

「あ、先客でしたか?、」

初めてイグナツトに気づいた様に言った。
嘘だ、絶対に彼がいる事は知っていた。

ワトソン公爵は、ルキアの隣にドカンと腰を下ろした。
侍女は空気を読んで公爵の為に席を開けていた。

イグナツトにとって、ワトソン公爵は飛んで火に入る夏の虫。
直ぐに公爵に媚を売り始めた。

「事業の提携ですか?私と?
計画書は、今お持ちですか?」

さも興味がある様に、公爵はイグナツトの話に相槌を打ち、口を合わせた。

こうなればルキアは必要ない。
蚊帳の外だ。

「あゝ夫人、体調のこともあるでしょう、部屋に戻って休まれてはどうかな?」

公爵が、ルキアの体を気遣って、部屋で休む様にいう。

「お言葉に甘えさせて頂きますわ」

ルキアは部屋を出た。
ドアを閉めて振り返る。

相手はワトソン公爵。
イグナツトが幾ら頭を使っても、かないそうにない。

レオンでさえも、一目置いているのだ。
イグナツトが破滅しない様に祈るしかない。


玄関まで歩くと、今帰ったのかレオンが足早にこちらに向かってくる。

「お帰りなさい」

「あゝ、ハモンド侯爵が来ていると聞いたが、もう帰ったのか?」

心配だったのか、不安気にルキアに聞いた。

「今日、お約束があったとかで、ワトソン公爵様がいらっしゃって、いまお相手をしてくださっています。」

「公爵が???」

「え?レオンと約束があるとかおっしゃっていましたが、、、?」

「、、、ん、わかった」

ルキアにはさっぱりわからなかったが、レオンにはわかった様だ。

彼はルキアの額にキスをすると、二人の待つ応接室に向かった。

しばらくして、イグナツトは帰った。
ワトソン公爵との話が上手くいったのか、上機嫌だったと使用人から聞いた。


夕食はワトソン公爵も一緒だった。
少しお腹の大きくなったルキアの隣で、楽しそうに食事を済ませると、レオンと共に執務室に入った。

レオンが二人の部屋に戻ってきたのはそれからしばらく後だった。













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