いつも隣にいる

はなおくら

文字の大きさ
32 / 123

32

 幸いローイはまだ戻ってきていない。

 今のうちに布団に入り眠ってしまおう。

 そうしてわたしはドキドキする胸を抑えて目を閉じた。

 その日、ローイが部屋に戻ってくることはなく私は明け方ようやく眠りについたのだった。

 昼前、目が覚めるとローイが朝食を持ってお越しに来てくれた。

 屋敷の主人、ローイ自ら届けに来てくれるこんな贅沢はなかなか味わえないだろう。

 なんて心の中で思いながら昨夜の事を聞いてみた。

「昨日戻ってこなかったの?」

 にこりと微笑みながらも気まず気な顔をする婚約者をじっと見つめる。

「すまない、たまたまだよ。やり残した執務があってね。」

 そう言って朝食を食べようとベッド横にある机に2人で向かい合った。

 食事をするローイを見ながら夫婦になったら毎日こんなふうに過ごすのかと思うと甘酸っぱい気持ちになる。

 それは野菜のソースの味によく似ていて穏やかな幸せに満たされたのだった。

 ローイの屋敷にお世話になってだいぶ経ってしまった。

 このままでいいものかと、何かできることは無いかとローイに相談しに行こうと彼の元へ行こうとした時だった。

 通りかかった玄関ホールで何やら騒がしい音が聞こえてきた。

 そこには薄汚れた端切れをきた少年が涙を流しながら執事に懇願していた。

 執事は不憫に思ったのか、帰るよう言葉で説得している様だったが、少年は執事の足元に縋りついて離れない。

 私は階段を降りて事情を聞くことにした。

「リチア様っ…!…申し訳ありません、お騒がせしてしまいまして…。」

「気にしないで。」

 謝る執事にそう返してわたしは少年を見た。

 泣きすぎて目が腫れてしまいながらも強い意志を持った子だった。

「あなた名前は?」

「…ブルックです…。」

 泣きながらも素直に答えてくれる少年をわたしは立ち上がらせた。

「どうしてここへきたの?」

 ブルックにそう問いかけると、彼は必死な思い出話してくれた。

「この近くの村が干ばつで干上がってしまって水も出ないんだ…。このままだと母さんが、もたないんだ‼︎」

 母親のためにこの屋敷に入るのには勇気がいったことだろう。

 私はブルックと一緒に行く事に決めた。

「その村まで案内してくれる?」

「リチア様っ…!お待ちください…あなた様の身に何かあれば…っ!」

 止める執事に、大丈夫だと伝えて私支度をして少年と一緒に馬車に乗り込んだ。

「…お気をつけください。」

「大丈夫よ。ローイにはすぐ帰ると伝えて。」

「かしこまりました。」

 心配する執事にローイに伝言を頼んで、彼の両親のいる村まで急いだ。


あなたにおすすめの小説

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

私と幼馴染と十年間の婚約者

川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。 それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。 アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。 婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

死ぬまでに叶えたい十の願い

木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」 三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。 離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する—— 二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。

【完結】私を忘れた貴方と、貴方を忘れた私の顛末

コツメカワウソ
恋愛
ローウェン王国西方騎士団で治癒師として働くソフィアには、魔導騎士の恋人アルフォンスがいる。 平民のソフィアと子爵家三男のアルフォンスは身分差があり、周囲には交際を気に入らない人間もいるが、それでも二人は幸せな生活をしていた。 そんな中、先見の家門魔法により今年が23年ぶりの厄災の年であると告げられる。 厄災に備えて準備を進めるが、そんな中アルフォンスは魔獣の呪いを受けてソフィアの事を忘れ、魔力を奪われてしまう。 アルフォンスの魔力を取り戻すために禁術である魔力回路の治癒を行うが、その代償としてソフィア自身も恋人であるアルフォンスの記憶を奪われてしまった。 お互いを忘れながらも対外的には恋人同士として過ごす事になるが…。 番外編始めました。 世界観は緩めです。 ご都合主義な所があります。 誤字脱字は随時修正していきます。

離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています

腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。 「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」 そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった! 今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。 冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。 彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語