梅雨の様なこんな雨の日に

はなおくら

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 ツーリーと初めて会ったのは、綺麗に晴れた空ではなかった。

 土砂降りの雨の中、わたしは気まずい気持ちのまま当時の両親と姉と馬車の中にいた。

 無関心の父を横目に、あからさま不満を隠さない母を感じながらいたたまれない気持ちになっていた。

 そんな中、父の友人だったツーリーの父宰相のお屋敷に着いた。

 父もツーリーの父とは中が良く、微笑みを浮かべて会話していた。

 ふと横を見れば、焦茶の頭の少年が不満を隠そうともせずこちらを睨みつけていた。

 ここでもかと、少年の目を無視して案内された部屋に向かった。

 そこで私たちの婚約が話された。

 そしてその少年、ツーリーと2人っきりにされた時だった。

 お茶を飲む私を見て、彼は立ち上がると言った。

「これも父の指示だから聞くが、僕はお前を家族として認めないからな!」

「…わかりました。」

 自分の運命は決まったと幼い私は思った。

 どこに行っても厄介者扱いなのだと、それなら目の前の相手を気にせずにいようと思っていた。

 ツーリーはそう言い終わると、席について何も言わずにこちらを睨むだけだった。

 そんな中でも相変わらず雨が土砂降りでその音が逆に心地よく感じていた。

 その時屋敷の使用人から報告がきた。

 この雨では帰りも危険だと言うことから、今日は宰相の屋敷に泊まる事になった。

 使用人が言い終わるや否や、ツーリーは立ち上がった。

「そう言う事なら失礼する。これからは相応の態度は取ってもらうわかったな。」

 わたしを人睨みすると返事を待たずに部屋を出ていった。

 案内された部屋に入ると中には母と姉がいた。

 嫌な予感がしつつも、わたしは母に問いかけた。

「お母様、今日はみんなで同じ部屋を使うのですか?」

 母に疎まれる事は分かりつつも、やはり期待は捨てきれず母の優しい言葉を期待した。

 しかし現実はそうではなかった。

「宰相様が気を回して私達三人を同じ部屋にしてくださったけれど…ねぇ…。」

 そう言って姉に目配せしてから私を睨みつけた。

「出来損ないとは一緒の部屋なんてごめんだわ!あんたは人目につかない様、外で過ごしなさい。」

 そう言われるや否や、きていたドレスを剥ぎ取られて薄い洋服のまま部屋を追い出された。

「時間になったら戻ってきなさい!」

 そう言うや否や勢いよくドアを閉められた。

 しばらくドアの前に立っていると中から楽しげな声が聞こえてくる。

 わたしはまた流れてくる涙を、もう出ない様に強く擦って、人気を避けて歩いていた。

 さすがは宰相の家は広くて道に迷ってしまう。
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