愛しい貴方へ

はなおくら

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「神様…忘れてしまうことは嫌です。そんな無責任な事するのは嫌です…。」

 細々と発するスサリアを見下ろしながらルーンは考えていた。

 そして考えた時一つの提案を出した。

「仕方がない…そなたにその記憶を帰そう。しかし今ではない、そなたがやり直すにふさわしいタイミングでそれを贈ろう。…どうする?やり直すか?」

 ルーンの提案に納得したスサリアは迷わず首を縦に振った。

「お願いします。生まれ変わって今度こそこの子を守ります。…王になんてならなくていい…生きて幸せでいてくれるなら…。」

 スサリアの一言で、ルーンは少し微笑み、左手を天にかざした。
 すると、その光がスサリアの体を包み込む。

 何か記憶が抜け落ちて行くような感覚に陥りながら長い眠りについたような気がした。

 意識を失った。

 そして今現在。

 光の中生まれ変わりの神ルーンが、手を広げて言った。

「そなたが望む未来に幸あれ……。」

 次に目が覚めた時には、テーブルに手を置き椅子に腰掛けて座っていた。
 実際はルーンが、王との茶会に記憶を返還したのだ。

「王妃?」

 心配気に声をかける王の姿に苦笑いを浮かべてしまう。

「いえ…なんでもありません…。」

 記憶が蘇ると、タケトルの事が憎くてしょうがない。
 なんとか感情を押し殺し早々に茶会をお開きにして、自室へと急いだ。

 王タケトルは、先を急ぐスサリアを後ろから不思議に見つめていた。

 スサリアは走り、自室に戻った。
 ドアを開ける前一度深呼吸をして、戸を開けた。

 部屋の中を見た時、自然と涙が落ちた。

 あれ程、会いたくてたまらなかった二人がいる。
 息子ケトルを庇って命を落とした侍女タタラの姿とそしてベッドの中ですやすやと眠りについた我が子だ。

「…タタラ…。」

 スサリアが声をかけると、うとうとしていた彼女が、顔を上げた。

「王妃様。おかえりなさいませ…どうかなさいましたか?」

 タタラは泣くスサリアの顔を凝視していた。

「なんでもないのよ…タタラ、貴方に言いたくて言えなかった事があるの…。」

「はい…?」

 スサリアの改まった様子にタタラは少し困惑気味だった。

「ありがとう、私を支えてくれて息子を守ってくれて…。」

 スサリアはタタラの体を抱きしめた、その瞬間抑えていた者が溢れ出し涙が流れる。

「王妃様⁉︎」

 慌てたタタラが、スサリアを椅子に座らせた。
 そして暖かいお茶と毛布を用意した。

「王妃様、お礼を言うのは私の方です。王子をなんの疑いもなく預けて下さった。」

 2人は、王子ケルトの寝顔を眺めて微笑みあった。
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