初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘

澤谷弥(さわたに わたる)

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夫41歳、妻22歳、娘6歳(5)

「まあ。正式には後日、陛下を通して連絡があるが……。そういうつもりでいて欲しい」
「承知しました。では、旦那様が不在の間に届いていた釣書は、不要になったということでよろしいですね?」
「そうだ」

 人が不在の間に何をやっているのかと怒鳴りたいところであったが、ぐっと耐えた。

「それから。エルシーには俺から話す」
「そうですね。エルシーお嬢様の母親となるべき方ですからね。ところで、幻の王女様は、おいくつくらいの方なのでしょう? 私の記憶するところでは、二十歳前後であると思っているのですが」

 幻の王女とは、パトリックも上手いことを言う。第二王女として生を受けたが、その存在を長年隠されてきた王女。となれば、幻と表現されてもおかしくはない。

「二十二歳だそうだ」
「ふむ。旦那様が四十一歳。王女様が二十二歳。まるで、親子ですね。そこにエルシーお嬢様が入れば、母娘とじじい……」

 痛いところを突かれた。

 イグナーツは、彼女との年齢差も気になっていた。

 そもそも結婚しないと思っていたイグナーツは、結婚せずにこの年までやってきていた。そしてこれからも結婚する気はなかった。

 それでも周囲は、イグナーツに結婚をさせたがる。
 パトリックが口にした釣書も、二十代の女性がいたとしてもわけありの女性で、ほかは年齢が釣り合うような女性であっても、やはりわけありの女性だ。

 そういった意味ではキシュアス王国の元第二王女もわけありだろう。

「俺のことはどうでもいい。むしろ、エルシーが心配だ。話をして、彼女が望んでいなければ、やはりこの結婚は断ろうと思う」

 断ることはできないと何度も言われたが、エルシーを盾に使えばそれが覆るような気がしていた。

「エルシーお嬢様は、こちらが心配するくらい物分かりのよい子です。ですから、旦那様が誠意をもってお話されれば、納得してくださるかと」
「納得するしないの話ではない。エルシーの気持ちを確認したいんだ。彼女が母親を望むか望まないか。それだけだ」

 パトリックは目を糸のように細くして、ほほっと微笑んでいた。イグナーツはそれをじろりと睨みつける。

「では、私は食事の準備を言いつけてまいります。お時間になりましたら、お呼びいたしますので」
「ああ、頼む」

 立ち上がり、腰を折って部屋を出ていくパトリックを見送った後、イグナーツは限界までソファに寄り掛かった。
 天を仰ぐ。

 キシュアス王国の前王は、国家資金を私利私欲のために使い込んでおり、国内は酷い有様だった。地方では税率をあげられ、作った農作物の粗方を税という名目で奪われてしまう。王都テシェバに住む者たちですら、物価が値上がり、今日のパンを焼く小麦すら買えない状況であった。

 その状況を打開しようとしたのが、王の弟であるラーデマケルス公爵である。
 彼は私兵団を使い、実兄を王の座から引きずり降ろそうとした。その協力依頼がきたときには驚いたと、ゼセール王も口にしていた。

 血の繋がった兄弟による争い。

 弟であるラーデマケルス公爵が、どのような気持ちで兵を挙げたのか、イグナーツは知らない。
 イグナーツにも年の離れた弟がいたが、五年前の内戦で命を失っている。もちろん、そのときにも軍を率いていたのはイグナーツである。あの内戦では、幾人もの尊い命が奪われた。

 胸の奥が痛む。

 勢いよく起き上がったイグナーツは、部屋を出て執務室へと向かい、さらにその隣の部屋へと移動する。ここはイグナーツの癒しの空間。あのエルシーであっても、絶対に立ち入らせない秘密の部屋なのだ。
 イグナーツは目当てのものを見つけると、それを静かに手にとった。

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