幼妻は生真面目夫から愛されたい!

澤谷弥(さわたに わたる)

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生真面目夫の場合(9)

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「あ、ここです。カトリーナ様が『お菓子の家』だから、すぐにわかるとおっしゃっていたので」
「そ、そうか……」

 クラークがこの店に入るのには、かなり抵抗がある。だが、あのジャンでさえここに入ったことがあるというのであれば、負けてはいられない。

 オリビアが顔を輝かせて、扉を開ける。扉の前に立った瞬間から、甘い香りに包まれたような気がした。

 チリン――。

 鈴が鳴る。

「いらっしゃいませ」
「あの。モーレン公爵夫人の紹介で……」
「モーレン公爵夫人の紹介ですね」

 オリビアがカトリーナの名前を出すと、妖精のようなふわふわした店員の顔がぱっと輝いた。

「お話は伺っております。どうぞ、こちらに」
 オリビアは妖精に連れていかれる。となれば、クラークはどうすべきなのか。
「ご一緒に選びますか? モーレン公爵もカステル侯爵も、いつもご一緒に選ばれております」
 ジャンの名前を出されてしまえば、なぜかクラークも対抗心を燃やしてしまう。

「では、俺も一緒に……」

 消え入るような声で言ったにも関わらず、妖精のような店員の耳にはしっかりと届いていたようだ。

 案内された店の中は、華やかな色の下着が展示されている場所と、落ち着いたデザインの下着が展示されている場所に分かれていた。

(あ、あれは……。オリビアに似合うかもしれない)

 菫色のフリルのついた下着に、つい目を奪われてしまった。

(って、俺は何を考えている。なぜモーレン公爵までもここに来るんだ?)

 人のせいにしてしまいたくなるほど、クラークは混乱していた。
 とにかく、前を見ても後ろを見ても、右も左も上も、女性向けの下着が展示してある。

「奥様。こちらなどいかがでしょう?」

 店員が手にしている下着は白。フリルがふんだんに使われている可愛らしい下着である。

(し、白だと……? 破壊力が……。これは、俺を試しているのか? おい、ジャン。お前はどうしているんだ)

 尋ねても返事など戻ってくるわけはない。

「あの。もう少し大人っぽいものはありませんか?」

 どうやらオリビアは白の下着はお気に召さなかった様子。

(いや。今のがいいだろう? 白だぞ、白。白は正義だ)

 クラークは自分でも気づいていない。彼の好みが白の下着であることに。

「では、こちらはいかがでしょう?」

 次は黒だった。こちらは、総レースの下着である。

(ちょっと待て。白の次は黒って……。この店員は天才か?)

「奥様は、可愛らしい顔立ちをしておりますから、こういった淡い色の方がお似合いかもしれませんが、ここは意表をつくのも必要だと思うのです」
 ニッコリと笑っている店員は、今の言葉を誰に向けて言ったのだろうか。
「あとは、こちらとか」

 黒の次は赤。先ほどよりも布地面積が小さくなっている。

 薦められた下着を見て、オリビアはうーん、と唸っている。その様子もクラークから見たら可愛らしい。だが、できればこれらの下着を身に着けた姿を見てみたい。

「旦那様は、どれがいいと思いますか?」

 オリビアが尋ねた。

「全部だ。全部くれ。それから、あれもだ」

 クラークが指で示した先には、菫色のフリルの下着があった。
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