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幼妻の場合(15)
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◇◇◇◇
「わかっているとは思うが、離縁の話は無しだ。むしろ、結婚式をやり直したいくらいだ。くそっ」
オリビアは今、クラークによって軽々と抱き上げられている。ソファからベッドまでの移動ですら、彼はそうしたいと言い出した。
頭がくらくらとするのは、先ほど一気に飲んでしまったワインのせいだろうか。身体も熱い。
「はい」
だが、オリビアは胸がいっぱいだった。
結婚して二年。やっとお互いの気持ちが通じ合った。
クラークはアトロとの約束を守るためにずっと彼女を守ろうとしていた。だから、オリビアの誘いになびくことがなかったのだ。
けしてオリビアに魅力がなかったわけではないと、クラークはこっそりと耳元で囁いてくれた。それだけでも充分である。
だからオリビアは子供扱いされていたわけではない。全ては、アトロとの約束を守るためだったのだ。
クラークは真面目な男なのだ。アトロとの約束を律儀に守ろうとしていた。そこが彼のいいところでもあり、悪いところでもある。そして、そんな彼に憧れを抱きつつ、いつのまにか憧れが愛に変わっていた。
オリビアは優しくベッドの上におろされた。
「寒くはないか? 震えているようだが……」
「寒くはありません。どちらかというと暑いです。ですが、恥ずかしくて」
「そんな格好までして、今更恥ずかしがるな」
彼の顔は愉悦に満ちている。そこに年相応の色気を感じ、オリビアの背筋はぞくりと震えあがる。
「明かりを……。消していただけませんか?」
オリビアを見下ろしていたクラークの顔が曇る。
「俺は、君の全てをこの目に焼き付けたい。今までの分も、全て。だが、君が嫌がるようなことはしたくない」
クラークは入り口の近くまで歩き、パチンと明かりを消す。その代わり、ベッドの脇にある間接照明をつけた。
「これくらいは、許してもらいたい」
「そのくらいなら」
オリビアも妥協する。真っ暗闇で彼に抱かれるのは、さすがに怖かった。
できれば、クラークの顔を見たい。裸体を見たい。
彼がオリビアを「見たい」と口にしたが、オリビアも彼の身体には興味津々である。
ぎしりとベッドが軋んだ。クラークが膝をついて彼女を見下ろすと、優しく頬に触れる。
「オリビア……。口づけしてもいいか?」
「はい」
彼女が返事をすると、彼は悦びに満ちた笑みを浮かべてから、その唇を奪った。
「ふっ……、ん」
唇を啄まれているだけなのに、かっと全身に熱が走り、力が抜けていく。彼の指は、柔らかく彼女の頬を撫で上げた。
だが、その口づけも次第に深いものへと変わっていく。角度を変え、何度もクラークがその唇を貪る。
「オリビア、口を開けて……」
ワインの酔いと、彼からもたらされる快楽によって、オリビアは素直にその言葉に従った。
彼女が少しだけ口を開けると、すぐさま彼の舌がオリビアの舌を絡めとった。
結婚式のときは、頬に触れるだけの口づけ。
それ以来、彼に唇を寄せられたことはなかった。
だが今、唇が触れるだけの口づけを飛び越して、濃厚で蕩けるような熱い口づけを交わしている。
「鼻で息をしろ」
ふっとクラークは笑う。初めての濃厚な口づけによって、オリビアは呼吸の仕方を忘れそうになっていた。それをクラークは言葉にしたのだ。
「だが、俺はここにも口づけたい」
「ひゃっ」
クラークは、彼女の耳朶にも舌を這わせる。
すぐ側から、くちゅくちゅと彼が舐め上げる音が聞こえてきて、ざわわとした感覚が背中に走る。
「わかっているとは思うが、離縁の話は無しだ。むしろ、結婚式をやり直したいくらいだ。くそっ」
オリビアは今、クラークによって軽々と抱き上げられている。ソファからベッドまでの移動ですら、彼はそうしたいと言い出した。
頭がくらくらとするのは、先ほど一気に飲んでしまったワインのせいだろうか。身体も熱い。
「はい」
だが、オリビアは胸がいっぱいだった。
結婚して二年。やっとお互いの気持ちが通じ合った。
クラークはアトロとの約束を守るためにずっと彼女を守ろうとしていた。だから、オリビアの誘いになびくことがなかったのだ。
けしてオリビアに魅力がなかったわけではないと、クラークはこっそりと耳元で囁いてくれた。それだけでも充分である。
だからオリビアは子供扱いされていたわけではない。全ては、アトロとの約束を守るためだったのだ。
クラークは真面目な男なのだ。アトロとの約束を律儀に守ろうとしていた。そこが彼のいいところでもあり、悪いところでもある。そして、そんな彼に憧れを抱きつつ、いつのまにか憧れが愛に変わっていた。
オリビアは優しくベッドの上におろされた。
「寒くはないか? 震えているようだが……」
「寒くはありません。どちらかというと暑いです。ですが、恥ずかしくて」
「そんな格好までして、今更恥ずかしがるな」
彼の顔は愉悦に満ちている。そこに年相応の色気を感じ、オリビアの背筋はぞくりと震えあがる。
「明かりを……。消していただけませんか?」
オリビアを見下ろしていたクラークの顔が曇る。
「俺は、君の全てをこの目に焼き付けたい。今までの分も、全て。だが、君が嫌がるようなことはしたくない」
クラークは入り口の近くまで歩き、パチンと明かりを消す。その代わり、ベッドの脇にある間接照明をつけた。
「これくらいは、許してもらいたい」
「そのくらいなら」
オリビアも妥協する。真っ暗闇で彼に抱かれるのは、さすがに怖かった。
できれば、クラークの顔を見たい。裸体を見たい。
彼がオリビアを「見たい」と口にしたが、オリビアも彼の身体には興味津々である。
ぎしりとベッドが軋んだ。クラークが膝をついて彼女を見下ろすと、優しく頬に触れる。
「オリビア……。口づけしてもいいか?」
「はい」
彼女が返事をすると、彼は悦びに満ちた笑みを浮かべてから、その唇を奪った。
「ふっ……、ん」
唇を啄まれているだけなのに、かっと全身に熱が走り、力が抜けていく。彼の指は、柔らかく彼女の頬を撫で上げた。
だが、その口づけも次第に深いものへと変わっていく。角度を変え、何度もクラークがその唇を貪る。
「オリビア、口を開けて……」
ワインの酔いと、彼からもたらされる快楽によって、オリビアは素直にその言葉に従った。
彼女が少しだけ口を開けると、すぐさま彼の舌がオリビアの舌を絡めとった。
結婚式のときは、頬に触れるだけの口づけ。
それ以来、彼に唇を寄せられたことはなかった。
だが今、唇が触れるだけの口づけを飛び越して、濃厚で蕩けるような熱い口づけを交わしている。
「鼻で息をしろ」
ふっとクラークは笑う。初めての濃厚な口づけによって、オリビアは呼吸の仕方を忘れそうになっていた。それをクラークは言葉にしたのだ。
「だが、俺はここにも口づけたい」
「ひゃっ」
クラークは、彼女の耳朶にも舌を這わせる。
すぐ側から、くちゅくちゅと彼が舐め上げる音が聞こえてきて、ざわわとした感覚が背中に走る。
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