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聖女(2)
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というところまでは覚えている。全身を強く打ち、頭も背中も手足も痛かった。
痛い、痛いと思って目を覚ましたら、見慣れぬ部屋の豪華なベッドで眠っていたわけである。天蓋つきのベッドなんて見たのは、そのときが初めてだ。
その後、聖なる力がどうのこうの、聖女さまがどうのこうのとなり、今に至る。
「私は、自分で言うのもあれですけども。一応、聖女です。娼婦とは異なりますので、そういった内容は、そういった方にお願いするのが筋かと思うのですが」
土下座している男はまだ顔をあげない。
「もちろん、プロにも頼みにいきました。ですが、相手があの団長だと知ると、いくら金を積まれても駄目だと」
まるで出禁になっているような言い草だ。
土下座している男が口にする団長とは、間違いなく魔導士団長のニール・アンヒムだろう。アズサの記憶が正しければ、そろそろ四十路に手が届く年齢であり、癖のある焦げ茶の長い髪をなびかせながら、毒を吐く。この場合の「毒を吐く」は比喩的表現であり、本当に口から毒を吐くわけではない。彼の言い方が問題なのだ。
「プロにまで断られるって。よっぽど性格が悪いのですね」
はっきりいって、アズサはニールが苦手であった。彼が嫌味たらたら上司に似ているからだ。だが、悔しいことに彼の言っている内容は正論であり事実であるからこそ、アズサは何も言い返せない。だけど、世の中には言い方というものがあると思っている。
「そうではなく、魔力が問題でして」
魔導士団の団長という立場にあるから、彼の魔力はそれなりのものだろう。
土下座の男は顔をあげずに、まだまだ言葉を続ける。
「魔力の強い人間の相手にも、それなりの魔力の強さが求められます」
「それって、性交渉の話ですよね?」
「はい、そうです。男性は射精すると同時に魔力も放出されますので、相手にそれを受け止めるだけの魔力がないと、体調を崩してしまうのです。場合によっては、最悪、死に至ることも」
この世界で性交渉するのは、なかなか大変なようだ。だが、なぜに今、アズサはニールの性交渉の相手として、土下座されているのだろうか。
「アンヒム団長には、今までそういった相手はいらっしゃらないのでしょうか? その方に頼んだほうがよいのでは? その、恋人とか、奥様とか」
「団長は独身、彼女なし歴は年の数です。立派な童貞です」
ぶふぉッとアズサは噴き出した。あのニールが、恋人なしの独身で立派な童貞とは、じわる。
「今まで、賢者のような生活を送ってきたのであれば、何も今さら」
「それでは、団長が死んでしまうのです。ですから、どうか、聖女さま。団長とまぐわっていただけないでしょうか」
そう言って顔をあげた男は、涙を流していた。
痛い、痛いと思って目を覚ましたら、見慣れぬ部屋の豪華なベッドで眠っていたわけである。天蓋つきのベッドなんて見たのは、そのときが初めてだ。
その後、聖なる力がどうのこうの、聖女さまがどうのこうのとなり、今に至る。
「私は、自分で言うのもあれですけども。一応、聖女です。娼婦とは異なりますので、そういった内容は、そういった方にお願いするのが筋かと思うのですが」
土下座している男はまだ顔をあげない。
「もちろん、プロにも頼みにいきました。ですが、相手があの団長だと知ると、いくら金を積まれても駄目だと」
まるで出禁になっているような言い草だ。
土下座している男が口にする団長とは、間違いなく魔導士団長のニール・アンヒムだろう。アズサの記憶が正しければ、そろそろ四十路に手が届く年齢であり、癖のある焦げ茶の長い髪をなびかせながら、毒を吐く。この場合の「毒を吐く」は比喩的表現であり、本当に口から毒を吐くわけではない。彼の言い方が問題なのだ。
「プロにまで断られるって。よっぽど性格が悪いのですね」
はっきりいって、アズサはニールが苦手であった。彼が嫌味たらたら上司に似ているからだ。だが、悔しいことに彼の言っている内容は正論であり事実であるからこそ、アズサは何も言い返せない。だけど、世の中には言い方というものがあると思っている。
「そうではなく、魔力が問題でして」
魔導士団の団長という立場にあるから、彼の魔力はそれなりのものだろう。
土下座の男は顔をあげずに、まだまだ言葉を続ける。
「魔力の強い人間の相手にも、それなりの魔力の強さが求められます」
「それって、性交渉の話ですよね?」
「はい、そうです。男性は射精すると同時に魔力も放出されますので、相手にそれを受け止めるだけの魔力がないと、体調を崩してしまうのです。場合によっては、最悪、死に至ることも」
この世界で性交渉するのは、なかなか大変なようだ。だが、なぜに今、アズサはニールの性交渉の相手として、土下座されているのだろうか。
「アンヒム団長には、今までそういった相手はいらっしゃらないのでしょうか? その方に頼んだほうがよいのでは? その、恋人とか、奥様とか」
「団長は独身、彼女なし歴は年の数です。立派な童貞です」
ぶふぉッとアズサは噴き出した。あのニールが、恋人なしの独身で立派な童貞とは、じわる。
「今まで、賢者のような生活を送ってきたのであれば、何も今さら」
「それでは、団長が死んでしまうのです。ですから、どうか、聖女さま。団長とまぐわっていただけないでしょうか」
そう言って顔をあげた男は、涙を流していた。
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