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第七章(8)
入浴を終えたディアナは、寝衣の上にガウンを羽織って、廊下を歩いていた。建物内は静まり返っており、使用人たちもすでに部屋で休んでいる時間帯だ。
廊下では足元を照らす魔導灯がわずかに光っているだけで薄暗い。
(わたし、もしかしてとんでもないことを言ってしまったのでは?)
ディアナの目的地はテオドールの部屋である。しゅるしゅると衣擦れの音が廊下に響き、それが緊張をより高めていた。
(勢いって怖い……)
今になって冷静になったディアナだが、たまに大胆になってしまうのが自分でもよくわからない。場の雰囲気に流されているだけかもしれないが。
彼の部屋の扉の前で歩を止める。扉を叩こうと拳を握ったところで、ピタリと静止した。なぜかノックができない。
恥ずかしさなのか緊張なのか、それとも期待なのかよくわからない感情がディアナを支配している。
だからってディアナがテオドールの部屋に現れなかったら、彼を傷つけてしまうだろう。テオドールはディアナを待ってくれているのだ。
少しだけ逃げ出したい気持ちもあった。しかしその気持ちを心の奥に沈めて扉を叩く。
コツ、コツ、コツ、コツ――。
静かな廊下にノック音が響いた。カチャリと扉が開き、シャツにゆったりしたズボン姿のテオドールが姿を見せた。
「入りなさい」
彼に見下ろされ、ディアナは小さく頷いてからその言葉に従った。
テオドールの私室に入ったのは初めてである。机の上に明かりが灯っていて、広げた書物を照らしている。室内の明かりはこれだけだった。
「本を読まれていたのですか?」
「あぁ……古文書の解読をすすめていた」
こんなときですら仕事をして待つとは、やはり根っからの仕事人間なのだろう。
「もしかしたら、君は来てくれないんじゃないかと思っていた」
「あっ……遅くなって申し訳ありません……」
「いや。そのときは私が君の部屋に行こうと思っていたから問題はない」
コホンと空咳をしてその場を誤魔化そうとするテオドールの顔は赤い。酔っ払っているわけでもなさそうだから、彼も緊張しているようだ。
「ディアナくん……君の言葉を借りるなら、私たちは両思いになった。つまり、お互いを想い合っている状態だと、そう解釈して間違いないだろうか。私が都合よく受け止めているとか、そういうことはないだろうか」
「ありません。だからわたしも……ここに来ました」
これから自分を抱いてくださいと言っているようなこの状況。それでも彼は不安になっているらしい。
「すまない。こんなとき、どうしたらいいかがまったくわからない。とにかく、ベッドでいいだろうか?」
「はい……」
ディアナだって経験豊富ではない。先ほどの口づけだってテオドールが初めての相手だし、これから先の行為も初めてである。
ただ、アヤル遺跡でやらかしてしまった実績はあるが、あれは俗に言う黒歴史に分類されるものだ。
「では、こちらに……」
テオドールがディアナの手をとって、ベッドへと誘導する。
「ここに座ってくれ」
「はい」
ディアナは言われるがまま、ベッドに腰掛けた。その隣にテオドールも座ったため、二人分の重みでベッドがギシリと軋む音をあげる。
「ディアナくん」
テオドールがディアナの両肩に手を置き、ついばむようなキスをする。それがどこかくすぐったくて、ディアナも「ふふっ」と笑みをこぼした。まだ、それだけの余裕がある。
「テオさん、くすぐったいです」
「そうか……では、さっきのような口づけをしてもいいだろうか?」
刺すような鋭い視線からは逃げられない。
「はい」
ディアナは、返事と同時にゴクリと喉を鳴らした。
再び唇が重なり、ついばむような軽いキスは、次第に深く濃厚になっていく。二人きりの薄暗い部屋に響く音ですら、ディアナの身体を興奮へと導く。
廊下では足元を照らす魔導灯がわずかに光っているだけで薄暗い。
(わたし、もしかしてとんでもないことを言ってしまったのでは?)
ディアナの目的地はテオドールの部屋である。しゅるしゅると衣擦れの音が廊下に響き、それが緊張をより高めていた。
(勢いって怖い……)
今になって冷静になったディアナだが、たまに大胆になってしまうのが自分でもよくわからない。場の雰囲気に流されているだけかもしれないが。
彼の部屋の扉の前で歩を止める。扉を叩こうと拳を握ったところで、ピタリと静止した。なぜかノックができない。
恥ずかしさなのか緊張なのか、それとも期待なのかよくわからない感情がディアナを支配している。
だからってディアナがテオドールの部屋に現れなかったら、彼を傷つけてしまうだろう。テオドールはディアナを待ってくれているのだ。
少しだけ逃げ出したい気持ちもあった。しかしその気持ちを心の奥に沈めて扉を叩く。
コツ、コツ、コツ、コツ――。
静かな廊下にノック音が響いた。カチャリと扉が開き、シャツにゆったりしたズボン姿のテオドールが姿を見せた。
「入りなさい」
彼に見下ろされ、ディアナは小さく頷いてからその言葉に従った。
テオドールの私室に入ったのは初めてである。机の上に明かりが灯っていて、広げた書物を照らしている。室内の明かりはこれだけだった。
「本を読まれていたのですか?」
「あぁ……古文書の解読をすすめていた」
こんなときですら仕事をして待つとは、やはり根っからの仕事人間なのだろう。
「もしかしたら、君は来てくれないんじゃないかと思っていた」
「あっ……遅くなって申し訳ありません……」
「いや。そのときは私が君の部屋に行こうと思っていたから問題はない」
コホンと空咳をしてその場を誤魔化そうとするテオドールの顔は赤い。酔っ払っているわけでもなさそうだから、彼も緊張しているようだ。
「ディアナくん……君の言葉を借りるなら、私たちは両思いになった。つまり、お互いを想い合っている状態だと、そう解釈して間違いないだろうか。私が都合よく受け止めているとか、そういうことはないだろうか」
「ありません。だからわたしも……ここに来ました」
これから自分を抱いてくださいと言っているようなこの状況。それでも彼は不安になっているらしい。
「すまない。こんなとき、どうしたらいいかがまったくわからない。とにかく、ベッドでいいだろうか?」
「はい……」
ディアナだって経験豊富ではない。先ほどの口づけだってテオドールが初めての相手だし、これから先の行為も初めてである。
ただ、アヤル遺跡でやらかしてしまった実績はあるが、あれは俗に言う黒歴史に分類されるものだ。
「では、こちらに……」
テオドールがディアナの手をとって、ベッドへと誘導する。
「ここに座ってくれ」
「はい」
ディアナは言われるがまま、ベッドに腰掛けた。その隣にテオドールも座ったため、二人分の重みでベッドがギシリと軋む音をあげる。
「ディアナくん」
テオドールがディアナの両肩に手を置き、ついばむようなキスをする。それがどこかくすぐったくて、ディアナも「ふふっ」と笑みをこぼした。まだ、それだけの余裕がある。
「テオさん、くすぐったいです」
「そうか……では、さっきのような口づけをしてもいいだろうか?」
刺すような鋭い視線からは逃げられない。
「はい」
ディアナは、返事と同時にゴクリと喉を鳴らした。
再び唇が重なり、ついばむような軽いキスは、次第に深く濃厚になっていく。二人きりの薄暗い部屋に響く音ですら、ディアナの身体を興奮へと導く。
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