1 / 68
プロローグ(1)
大きな窓から差し込む陽光が、薔薇色の絨毯を明るく照らす。窓が少しだけ開けられており、室内に流れ込んでくる風が心地よい。
パサリパサリと紙をさばく音が響くなか、「あ」と声をあげたのは、マルガレットである。彼女がこのような声をあげるのは、珍しい。
「マルガレットさま、どうかされましたか?」
オレリアも自然とそう尋ねていた。
「この手紙は、オレリア宛てよ? しかも兄さんから」
「えっ?」
マルガレットの兄アーネストは、オレリアの夫でもある。だからマルガレットはオレリアの義妹になるのだが、年は彼女のほうが一回りも上であった。
そのアーネストは、オレリアたちが暮らしている首都サランから、馬車で五日ほどの距離にある国境の街ガイロにいる。
二人の結婚式を挙げた次の日、彼はオレリアを首都において、ガイロの町へと向かった。
「アーネストさまから?」
オレリアは信じられないとでも言うかのように、首を左右に振る。
結婚後、離れて暮らすようになってから、彼より手紙が届いたのはこれが初めてである。彼女は毎月のように手紙を書いていたのに、今まで一度も返事はこなかった。
誕生日がこようと、結婚記念日がこようと、贈り物すら届かなかった。
だからといってオレリアは何かの贈り物が欲しいわけではない。ただアーネストが元気であれば、それでいい。
遠い場所にいるのだから仕方ない。仕事も慌ただしいのだろう。
そう思いつつも、手紙の一通も書けないほど忙しいのだろうかと、心の片隅では考えていた。
だけどアーネストは、定期的にガイロの街の様子を報告してくる。その相手はもちろん、この国――ハバリー国の国王ダスティン。
ハバリー国はダスティンとアーネストが中心となって建国された新しい国である。
王となったダスティンが首都を中心に国をまとめ、アーネストは国境を守っていた。さまざまな民族が集まった多民族国家であるため、国内の統治が行き届いているとはまだまだ言いがたい。
だからアーネストは、オレリアをガイロの街へ連れていくのは危険であると言い、彼女をダスティンとマルガレットに預けて、部下と共にガイロの街に滞在しているのだ。
アーネストは、ガイロを拠点とし国内のあらゆる場所へと足を向けているようだが、いつ、どこへ、何をしに行っているのか。オレリアにはさっぱりとわからなかった。それゆえ、いつ、彼が首都に戻ってくるのかも。
「オレリアも二十歳になったから、兄さんからのお祝いの言葉ではないのかしら?」
ハバリー国では十八歳で成人とみなされる。だけど年齢の十の位が一つ上がるのは、特別感があふれる年齢でもある。
「そうだといいのですが……」
呟いたオレリアであるが、彼女もそうであってほしいと願っていた。
アーネストが誕生日と年齢を覚えていた事実だけで、胸が張り裂けそうなほどの喜びに包まれる。
「オレリアが二十歳になったのであれば、兄さんも四十ね」
ふふっと、マルガレットはいたずらっこのように笑った。やはり、年齢の十の位が一つ上がるのは、別格のようだ。
「はやいものね。オレリアがここに来て、もう十二年も経つのね」
マルガレットの言うように、オレリアがトラゴス大国からハバリー国に嫁いで、十二年になる。
当時はまるでままごとのようだとか、トラゴス大国に騙されているとか、そういった心ない言葉を口にされたオレリアとアーネストの結婚であったが、彼女も今ではすっかりと成熟した女性になった。
パサリパサリと紙をさばく音が響くなか、「あ」と声をあげたのは、マルガレットである。彼女がこのような声をあげるのは、珍しい。
「マルガレットさま、どうかされましたか?」
オレリアも自然とそう尋ねていた。
「この手紙は、オレリア宛てよ? しかも兄さんから」
「えっ?」
マルガレットの兄アーネストは、オレリアの夫でもある。だからマルガレットはオレリアの義妹になるのだが、年は彼女のほうが一回りも上であった。
そのアーネストは、オレリアたちが暮らしている首都サランから、馬車で五日ほどの距離にある国境の街ガイロにいる。
二人の結婚式を挙げた次の日、彼はオレリアを首都において、ガイロの町へと向かった。
「アーネストさまから?」
オレリアは信じられないとでも言うかのように、首を左右に振る。
結婚後、離れて暮らすようになってから、彼より手紙が届いたのはこれが初めてである。彼女は毎月のように手紙を書いていたのに、今まで一度も返事はこなかった。
誕生日がこようと、結婚記念日がこようと、贈り物すら届かなかった。
だからといってオレリアは何かの贈り物が欲しいわけではない。ただアーネストが元気であれば、それでいい。
遠い場所にいるのだから仕方ない。仕事も慌ただしいのだろう。
そう思いつつも、手紙の一通も書けないほど忙しいのだろうかと、心の片隅では考えていた。
だけどアーネストは、定期的にガイロの街の様子を報告してくる。その相手はもちろん、この国――ハバリー国の国王ダスティン。
ハバリー国はダスティンとアーネストが中心となって建国された新しい国である。
王となったダスティンが首都を中心に国をまとめ、アーネストは国境を守っていた。さまざまな民族が集まった多民族国家であるため、国内の統治が行き届いているとはまだまだ言いがたい。
だからアーネストは、オレリアをガイロの街へ連れていくのは危険であると言い、彼女をダスティンとマルガレットに預けて、部下と共にガイロの街に滞在しているのだ。
アーネストは、ガイロを拠点とし国内のあらゆる場所へと足を向けているようだが、いつ、どこへ、何をしに行っているのか。オレリアにはさっぱりとわからなかった。それゆえ、いつ、彼が首都に戻ってくるのかも。
「オレリアも二十歳になったから、兄さんからのお祝いの言葉ではないのかしら?」
ハバリー国では十八歳で成人とみなされる。だけど年齢の十の位が一つ上がるのは、特別感があふれる年齢でもある。
「そうだといいのですが……」
呟いたオレリアであるが、彼女もそうであってほしいと願っていた。
アーネストが誕生日と年齢を覚えていた事実だけで、胸が張り裂けそうなほどの喜びに包まれる。
「オレリアが二十歳になったのであれば、兄さんも四十ね」
ふふっと、マルガレットはいたずらっこのように笑った。やはり、年齢の十の位が一つ上がるのは、別格のようだ。
「はやいものね。オレリアがここに来て、もう十二年も経つのね」
マルガレットの言うように、オレリアがトラゴス大国からハバリー国に嫁いで、十二年になる。
当時はまるでままごとのようだとか、トラゴス大国に騙されているとか、そういった心ない言葉を口にされたオレリアとアーネストの結婚であったが、彼女も今ではすっかりと成熟した女性になった。
あなたにおすすめの小説
年下で可愛い旦那様は、実は独占欲強めでした
由香
恋愛
政略結婚で嫁いだ相手は――
年下で、可愛くて、なぜか距離が近すぎる旦那様でした。
「ねえ、奥さん。もうちょっと近く来て?」
人懐っこく甘えてくるくせに、他の男が話しかけただけで不機嫌になる彼。
最初は“かわいい弟みたい”と思っていたのに――
「俺、もう子供じゃないよ。……ちゃんと男として見て」
不意に見せる大人の顔と、独占欲に心が揺れていく。
これは、年下旦那様にじわじわ包囲されて、気づいたら溺愛されていた話。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
俺様上司に今宵も激しく求められる。
藤白ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
王太子に「戦友としか思えない」と言われたので、婚約を解消しました
明衣令央
恋愛
婚約者である王太子ヘンリーから「君のことは戦友としか思えない」と告げられた、公爵令嬢アリスティア。
十年以上の王妃教育を積んできた彼女は、静かに婚約解消を受け入れる。
一年後、幸せな結婚を迎えた彼女にとって、ヘンリーのその後は――もうどうでもいいことだった。
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。