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プロローグ(2)
「兄さんも、今のオレリアを見たら驚くわよ?」
「そうでしょうか?」
「そうよ。ここに来たときは、こんなに小さかったオレリアが」
マルガレットは両手で何かを包み込むような形を作ったが、その大きさはまるで生まれたての赤ん坊のよう。
「今では、こんなに大きくなっているんですもの」
八歳から二十歳。子どもから大人に。一日、一日、ゆるやかに変化していけば気づかないかもしれないが、十二年分の成長を一気に見たら、アーネストも驚くだろうか。
「もしかしたら、兄さんがこちらに戻ってくるという報告かもしれないわ。ダスティンが言っていたの。国境のほうもね、やっと落ち着いてきたって」
オレリアが嫁いできたときには、マルガレットとダスティンはすでに結婚しており、今では三人の子がいる。二人の関係はオレリアの理想でもあった。
そのマルガレットは、先ほどからオレリアを喜ばせるようなことしか口にしていない。
アーネストの手紙には、いったいどのような内容が書かれているのだろうか。
彼とは十二年前に別れたきり。オレリアは、ずっと彼を待ち続けていた。
結婚したから――
それだけが理由ではない。
確かにあのとき、彼を好いていた。それが、憧れなのか、尊敬なのか、愛情なのか。なんと呼ぶのが正しい感情であるかはわからない。ただアーネストと家族になれた喜びを、誰よりも強く噛みしめていたのだ。
だから彼がガイロの街へ行くと言ったときも、彼から与えられた言葉を信じて待てると思った。
――次にアーネストさまとお会いする日には、立派な淑女として振る舞えるよう、努力いたします。
そう言って見送ろうとしたとき、アーネストの大きな手はゆっくりとオレリアの頭をなでた。
――楽しみにしている。
彼の言葉を胸に刻み、ダスティンとマルガレットの側で、この国にとって必要なことを学んだ。
覚えることが多くて、根をあげそうになったときもあった。そんなときはアーネストに会える日を思い描き、けして弱音は口にしなかった。
彼の手紙にも『大変です』『辛いです』と書いたことはない。会える日を楽しみにしている、どのようなことを学んだかなどを書き連ねていたが、残念ながらこの十二年間、返事は一度もきていない。
それなのに、初めて彼からの言葉が届いたのである。
逸る気持ちを無理矢理おさえて、口から飛び出しそうなほど暴れている心臓もできるだけ落ち着けようと試みる。
「オレリアを見ていたら、私のほうが緊張してきたわ」
マルガレットは、口元に手をあて上品に微笑む。
ペーパーナイフを差し込むものの、手がふるえてうまく封蝋を開けられない。
「もう、じれったいわねぇ」
マルガレットもそわそわとし始め、封を開けようとするオレリアの手の動きを見守っている。
やっと封蝋が砕け、封筒から用紙を取り出すと二枚入っていた。
先ほどからドクドクと心臓がうるさくて、手足の先は少しだけしびれるような感覚すらある。
丁寧に手紙を開き、連なる文字を追っていく。
「……え?」
オレリアは、手紙に書かれている内容を信じられなかった。
唇が震え、マルガレットに助けを求めたいのに、言葉は出てこない。
「何が書いてあったの?」
声を出せば、涙もこぼれそうになる。唇をかみしめ、ただ呆然と手紙の文字を見るしかできない。じんわりと涙が浮かび、視界が滲み始める。
「オレリア……?」
マルガレットも、何も言わないオレリアに不安になったのだろう。ひょいっと手紙をのぞきこんできた。
「え? オレリア、ちょっとよく見せて」
彼女はオレリアの手の中にあった手紙一式を、ささっと奪い取る。
「……な、なに、これ。兄さんはいったい何を考えているの?」
その言葉で、手紙に書かれている内容が事実なのだろうと悟った。
「しかも、書類まで……」
マルガレットは慌てて部屋を出て行く。手紙も書類も、彼女は奪って出て行った。
それでも先ほど見た手紙の内容を忘れるなどできない。
一文字、一文字、丁寧に書かれていた。彼が何を思ってそう書いたのかはわからない。
――離縁してください。
オレリアは、その場で泣き崩れた。
「そうでしょうか?」
「そうよ。ここに来たときは、こんなに小さかったオレリアが」
マルガレットは両手で何かを包み込むような形を作ったが、その大きさはまるで生まれたての赤ん坊のよう。
「今では、こんなに大きくなっているんですもの」
八歳から二十歳。子どもから大人に。一日、一日、ゆるやかに変化していけば気づかないかもしれないが、十二年分の成長を一気に見たら、アーネストも驚くだろうか。
「もしかしたら、兄さんがこちらに戻ってくるという報告かもしれないわ。ダスティンが言っていたの。国境のほうもね、やっと落ち着いてきたって」
オレリアが嫁いできたときには、マルガレットとダスティンはすでに結婚しており、今では三人の子がいる。二人の関係はオレリアの理想でもあった。
そのマルガレットは、先ほどからオレリアを喜ばせるようなことしか口にしていない。
アーネストの手紙には、いったいどのような内容が書かれているのだろうか。
彼とは十二年前に別れたきり。オレリアは、ずっと彼を待ち続けていた。
結婚したから――
それだけが理由ではない。
確かにあのとき、彼を好いていた。それが、憧れなのか、尊敬なのか、愛情なのか。なんと呼ぶのが正しい感情であるかはわからない。ただアーネストと家族になれた喜びを、誰よりも強く噛みしめていたのだ。
だから彼がガイロの街へ行くと言ったときも、彼から与えられた言葉を信じて待てると思った。
――次にアーネストさまとお会いする日には、立派な淑女として振る舞えるよう、努力いたします。
そう言って見送ろうとしたとき、アーネストの大きな手はゆっくりとオレリアの頭をなでた。
――楽しみにしている。
彼の言葉を胸に刻み、ダスティンとマルガレットの側で、この国にとって必要なことを学んだ。
覚えることが多くて、根をあげそうになったときもあった。そんなときはアーネストに会える日を思い描き、けして弱音は口にしなかった。
彼の手紙にも『大変です』『辛いです』と書いたことはない。会える日を楽しみにしている、どのようなことを学んだかなどを書き連ねていたが、残念ながらこの十二年間、返事は一度もきていない。
それなのに、初めて彼からの言葉が届いたのである。
逸る気持ちを無理矢理おさえて、口から飛び出しそうなほど暴れている心臓もできるだけ落ち着けようと試みる。
「オレリアを見ていたら、私のほうが緊張してきたわ」
マルガレットは、口元に手をあて上品に微笑む。
ペーパーナイフを差し込むものの、手がふるえてうまく封蝋を開けられない。
「もう、じれったいわねぇ」
マルガレットもそわそわとし始め、封を開けようとするオレリアの手の動きを見守っている。
やっと封蝋が砕け、封筒から用紙を取り出すと二枚入っていた。
先ほどからドクドクと心臓がうるさくて、手足の先は少しだけしびれるような感覚すらある。
丁寧に手紙を開き、連なる文字を追っていく。
「……え?」
オレリアは、手紙に書かれている内容を信じられなかった。
唇が震え、マルガレットに助けを求めたいのに、言葉は出てこない。
「何が書いてあったの?」
声を出せば、涙もこぼれそうになる。唇をかみしめ、ただ呆然と手紙の文字を見るしかできない。じんわりと涙が浮かび、視界が滲み始める。
「オレリア……?」
マルガレットも、何も言わないオレリアに不安になったのだろう。ひょいっと手紙をのぞきこんできた。
「え? オレリア、ちょっとよく見せて」
彼女はオレリアの手の中にあった手紙一式を、ささっと奪い取る。
「……な、なに、これ。兄さんはいったい何を考えているの?」
その言葉で、手紙に書かれている内容が事実なのだろうと悟った。
「しかも、書類まで……」
マルガレットは慌てて部屋を出て行く。手紙も書類も、彼女は奪って出て行った。
それでも先ほど見た手紙の内容を忘れるなどできない。
一文字、一文字、丁寧に書かれていた。彼が何を思ってそう書いたのかはわからない。
――離縁してください。
オレリアは、その場で泣き崩れた。
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