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1.不本意な縁談(2)
ダスティンの父親は、古城の三階の奥の部屋にいる。もしくは、厩舎にいることが多い。
古城の三階は、国王関係者の私的な部屋が並んでいるプライベートゾーンになっており、この時間帯であれば、族長は部屋にいるだろう。朝方から昼前にかけては、厩舎にいる。
アーネストが、ゆっくりと扉の叩き鐘を叩き付けると「アーネストか? 入ってこい」と声があった。名乗ったわけでもないのに、叩き方だけでアーネストであると判断したのだ。
「失礼します」
「どうした? とうとうボクちゃんのお守りに、嫌気がさしたか? だが、ダスティン一人では、まだまだ不安なところがある。隙を見せれば、大国は攻めてくるだろうし、内部からやられることも」
「親父!」
「なんだ、ボクちゃんもいたのか」
隠居爺と呼ばれている族長であるが、ダスティンにとっては頭の上がらない人物でもある。
「二人そろってどうした」
座れ、とソファを顎でしゃくって促す。アーネストとダスティンは、族長の向かい側に並んで座った。
「母さんは?」
「外に出てる」
族長時代の生活が抜けきらない二人は、まさしく自由人である。
「親父に相談したいことがある」
「ほぅほぅ。一国の主が、こんな爺に相談とはな」
口調は軽いのに視線が鋭いのは、この先の話を読んでいるからだろう。
「まずは、これを見てくれ……」
ダスティンは、先ほどの手紙を族長に手渡す。
族長は目を細くしてその手紙を睨みつけてから、渋々と広げた。
すべてを読み終えたタイミングを見計らって「どうしたらいい?」とダスティンがこぼした。
「受けるしかないだろう。王女を人質としてやるから、仲良く手を繋ぎましょうね、よちよち、という話だ。断ったら、わかってんだろうな? という思惑がひしひしと感じられる」
「だけどハバリー国は一夫多妻を認めていない。そして私はすでに結婚しているし、マルガレットと別れるつもりはない」
マルガレットはアーネストの妹であり、幼いころからマルガレットはダスティンを慕っていて、その逆も然り。二人の結婚は政略的ななんちゃらではなく、相思相愛、互いの気持ちが実ったうえでの結婚なのだ。
「何も、別れろとは言わんよ」
「では、やはりこの話を断る?」
いんや、と族長は首を横に振った。
「まず、この国では一夫多妻を認めていないため、側妃は受け入れられないと説明する。その後、国王に次ぐ他の者が王女を娶る」
そう言った族長の視線の先にいるのはアーネストであった。
「なるほど」
ダスティンも納得して、アーネストを見やる。
「なんだ?」
親子の不穏な視線に、アーネストもたじろいだ。
「頼むぞ、アーネスト。ダスティンが駄目ならお前しかあるまい」
「いや……他の者のほうがいいのでは?」
「いや、お前でなければ駄目だ。この国の中心にいるのは、ダスティンとアーネスト、お前だ。お前なら、相手も文句は言うまい。独身であるし、婚約もしていない。闘神のクワイン将軍と呼ばれているお前だからこそ、ダスティンの代わりとして不足はない」
ダスティンが隣から暑苦しい視線を向けてくる。
「頼む、アーネスト。お前が受けてくれないなら、私はマルガレットと別れねばならぬ」
マルガレットとダスティンの仲はそれなりに良好である。妹夫婦の仲を引き裂くほど、アーネストだって非情な男ではない。
小さく舌打ちをした。
アーネストとしてはもちろん断りたい縁談だ。ダスティンも言っていたが、嫁の押し売りなど勘弁願いたい。
しかし妹のマルガレットのこと、そして何よりもこの国のことを考えると、断れないというのも理解している。
「……わかった」
アーネストは押し売りに屈した。
きっと相手も夫婦であればよいのであって、仲の良い夫婦を望んでいるわけではないだろう。ようは、形だけの結婚。
「よし。そうと決まれば、早速返事を書くとしよう」
嬉々としたダスティンに、アーネストは恨めしそうに視線を向けた。
古城の三階は、国王関係者の私的な部屋が並んでいるプライベートゾーンになっており、この時間帯であれば、族長は部屋にいるだろう。朝方から昼前にかけては、厩舎にいる。
アーネストが、ゆっくりと扉の叩き鐘を叩き付けると「アーネストか? 入ってこい」と声があった。名乗ったわけでもないのに、叩き方だけでアーネストであると判断したのだ。
「失礼します」
「どうした? とうとうボクちゃんのお守りに、嫌気がさしたか? だが、ダスティン一人では、まだまだ不安なところがある。隙を見せれば、大国は攻めてくるだろうし、内部からやられることも」
「親父!」
「なんだ、ボクちゃんもいたのか」
隠居爺と呼ばれている族長であるが、ダスティンにとっては頭の上がらない人物でもある。
「二人そろってどうした」
座れ、とソファを顎でしゃくって促す。アーネストとダスティンは、族長の向かい側に並んで座った。
「母さんは?」
「外に出てる」
族長時代の生活が抜けきらない二人は、まさしく自由人である。
「親父に相談したいことがある」
「ほぅほぅ。一国の主が、こんな爺に相談とはな」
口調は軽いのに視線が鋭いのは、この先の話を読んでいるからだろう。
「まずは、これを見てくれ……」
ダスティンは、先ほどの手紙を族長に手渡す。
族長は目を細くしてその手紙を睨みつけてから、渋々と広げた。
すべてを読み終えたタイミングを見計らって「どうしたらいい?」とダスティンがこぼした。
「受けるしかないだろう。王女を人質としてやるから、仲良く手を繋ぎましょうね、よちよち、という話だ。断ったら、わかってんだろうな? という思惑がひしひしと感じられる」
「だけどハバリー国は一夫多妻を認めていない。そして私はすでに結婚しているし、マルガレットと別れるつもりはない」
マルガレットはアーネストの妹であり、幼いころからマルガレットはダスティンを慕っていて、その逆も然り。二人の結婚は政略的ななんちゃらではなく、相思相愛、互いの気持ちが実ったうえでの結婚なのだ。
「何も、別れろとは言わんよ」
「では、やはりこの話を断る?」
いんや、と族長は首を横に振った。
「まず、この国では一夫多妻を認めていないため、側妃は受け入れられないと説明する。その後、国王に次ぐ他の者が王女を娶る」
そう言った族長の視線の先にいるのはアーネストであった。
「なるほど」
ダスティンも納得して、アーネストを見やる。
「なんだ?」
親子の不穏な視線に、アーネストもたじろいだ。
「頼むぞ、アーネスト。ダスティンが駄目ならお前しかあるまい」
「いや……他の者のほうがいいのでは?」
「いや、お前でなければ駄目だ。この国の中心にいるのは、ダスティンとアーネスト、お前だ。お前なら、相手も文句は言うまい。独身であるし、婚約もしていない。闘神のクワイン将軍と呼ばれているお前だからこそ、ダスティンの代わりとして不足はない」
ダスティンが隣から暑苦しい視線を向けてくる。
「頼む、アーネスト。お前が受けてくれないなら、私はマルガレットと別れねばならぬ」
マルガレットとダスティンの仲はそれなりに良好である。妹夫婦の仲を引き裂くほど、アーネストだって非情な男ではない。
小さく舌打ちをした。
アーネストとしてはもちろん断りたい縁談だ。ダスティンも言っていたが、嫁の押し売りなど勘弁願いたい。
しかし妹のマルガレットのこと、そして何よりもこの国のことを考えると、断れないというのも理解している。
「……わかった」
アーネストは押し売りに屈した。
きっと相手も夫婦であればよいのであって、仲の良い夫婦を望んでいるわけではないだろう。ようは、形だけの結婚。
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嬉々としたダスティンに、アーネストは恨めしそうに視線を向けた。
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