【R18】旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!

澤谷弥(さわたに わたる)

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2.突然の縁談(2)

 近頃、城内がなんとなくピリピリしているのを、幼いながらオレリアも感じ取っていた。兵士の数が多いとか文官が慌ただしく行き交っているとか。

 プレール侯爵夫人も、蛮族がどうのこうのと、授業の合間にぼやく。

 大陸には大小合わせて六つの国があり、その中でももっとも権力が強いのがトラゴス大国である。そして二年前、この大陸に七つ目の国ができた。どこの国にも属していなかった部族が手を結び、一つの国を形成したのだ。それがハバリー国である。
 それらが少数の部族のままであれば、トラゴス大国だってこれほどまでに反応しなかった。だが、小さなものが集まって大きくなれば、それなりに驚異となる。

 トラゴス大国以外の五つの国は、いつの間にかハバリー国と友好的な協定を取り付けていた。十以上の部族からなるあの国はまだ統一性がないものの、さまざまな文化をまとめた国は非常に興味深く、大陸にとっても新しい風を吹かせる国となるだろう。というのが、諸国の考えだった。

 ハバリー国はこれ幸いに、協定を結んだ諸国に教えを乞い、日に日に成長を見せている。

 しかし、所詮は野蛮の塊である。大陸の中でもっとも歴史の長いトラゴス大国から見れば、嫌悪の対象ともなる。それでも諸国がハバリー国を認めている以上、トラゴス大国も歩み寄らなければならない。
 と、プレール侯爵夫人が、忌々しそうに教えてくれたのだ。

 近頃、プレール侯爵夫人の機嫌が悪いのは、このハバリー国に原因があるようだ。

 授業の合間にぼそぼそとこぼすプレール侯爵夫人の言葉を要約すると、ハバリー国をトラゴス大国に取り込むためには、人質として誰かを嫁がせるとか。その誰かが誰になるのかで、国の偉い人たちは頭を抱えているとか。
 第一候補は、王女であるミレイアだろう。

 だがミレイアはそれを拒絶している。となれば、マッシマ公爵令嬢ではどうかという意見もあるようだ。マッシマ公爵は、現国王の弟にあたるため、マッシマ公爵令嬢とミレイアは従姉妹同士。その従姉妹たちが、互いに互いを譲らないらしい。身分的にはミレイアのほうが上であるが、マッシマ公爵令嬢もなかなか負けていない。

 だからミレイアの機嫌はよくなく、周囲に当たり散らす。それはマッシマ公爵令嬢も同じで、それらの被害に合うのは彼女たちよりも下の身分のもの。

 どうやらプレール侯爵夫人もその一人のようだった。そうなれば、プレール侯爵夫人にも鬱憤はたまり、そのはけ口がオレリアとなる。

 最近、彼女の鞭捌きが激しいのはそれが理由であった。

 ――トントントン

 珍しく扉が叩かれた。
 オレリアがこの部屋にいるときに、誰かが訪れたことなど今まで一度もない。プレール侯爵夫人は忌々しく顔をゆがませてから、扉を開けた。

 オレリアは扉に背を向けて書き取りをしているため、誰がやってきたのかはわからない。ただ、ぼそぼそとした話し声が聞こえてくる。

「オレリア様」

 プレール侯爵夫人が、オレリアをこのように呼ぶのは珍しい。まさしく晴天の霹靂ともいえるような状況である。

「陛下がお呼びとのことです。お待たせしないように、準備をなさってください」

 準備も何もない。

「いいですね? 陛下にお会いになられたら、わたくしが教えた通りご挨拶をなさるのですよ?」
 オレリアが失敗したら、その責任は教育係のプレール侯爵夫人にのしかかる。だから、鋭い視線で威嚇してくる。
「……はい」

 感情を押し殺した声で、返事をする。

 迎えに来た兵士とプレール侯爵夫人に連れられ、付属棟から本棟へとうつる。円天井の大広間を抜けてゆるやかにカーブを描く螺旋階段をあがる。ギャラリーを通り抜けた先にある扉を超えるとそこに国王の執務室があった。

 オレリアたちをここまで案内してきた兵士が扉を叩き、幾言か告げてから中に入る。
 部屋に入った途端、プレール侯爵夫人に小突かれた。ここで挨拶をしろという意味らしい。

 すっと片足を引いて腰を下げる。

 壁面は書棚で埋め尽くされた部屋。その前にある黒檀の執務用の席には誰もいなかった。
 藍白の天井には小さいシャンデリアが二つ、ぶら下がっている。

「悪くはないわね」

 顔をあげ、声がしたほうに視線を向けると、血のような色合いの椅子に四人の人物が座っている。
 国王、王妃、そして彼らの子の王太子と王女。オレリアから見たら、父親と義母。そして腹違いの兄、姉となる。オレリアは、このトラゴス大国の第二王女になるが、王妃が産んだ子ではない。

「お前たちは下がれ」

 国王は、オレリアをここまで案内した兵士とプレール侯爵夫人に下がるようにと命じた。プレール侯爵夫人は、どことなく不満そうな表情を浮かべていたものの、国王の命令には逆らえない。
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