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6.夫不在の新婚生活(1)
ハバリー国の闘神とも呼ばれる男、アーネストの妻となったオレリアであるが、結婚したからといっていきなり大人になるわけではない。次の誕生日がくるまでは八歳のままであるし、やはり胸もお尻もぺったんこのままで、急激に育つわけでもない。
そんなオレリアの後見人として族長、つまり国王の父親であるデンスが名乗りあげたとのこと。それは、結婚式を挙げる前日に決まったのだとか。
未成年で不安定な子どもには、ハバリー国内での後見人をつけたほうがいいと、デンス自ら提案したそうだ。アーネストの妻という立場はあるのだが、それでも子どもは子ども。夫の他にも必要だろうと思ったようだ。
しかし、それが今となっては功を奏している。なによりも、夫のアーネストが不在になってしまったからだ。
デンスがいなかったら、オレリアを守ってくれる人物はいなかっただろう。いくらダスティンとマルガレットがオレリアの味方だとしても。
「族長?」
後見人となったデンスをなんて呼んだらいいか、それがオレリアの最大の悩みであった。彼はミルコ族の族長だった。
今ではミルコ族の代表であるダスティンがハバリー国の国王でもあるため、ミルコ族に族長はいない。だけど、アーネストは彼を族長と呼んでいたし、他のミルコ族もデンスを族長と呼ぶ。ダスティンを国王と呼んで、区別しているようだ。
だから、オレリアもデンスを族長と呼んでみたのだが、彼は初めて顔を合わせたときのように難しい顔をしている。鼻の上にまで縦筋を刻んだ。
「族長さま?」
余計に縦筋が深くなる。
「オレリア。多分、お義父様は、他の呼び方を期待しているのよ」
隣に座っているマルガレットは上品に笑う。
「他の呼び方、ですか?」
オレリアは困って、首をコテンと横に傾げた。他の呼び方。名前で呼ぶしか思い浮かばない。
「名前で呼んでもよろしいのですか?」
そう尋ねると、ちょっとだけデンスの縦筋がやわらいだものの、難しい顔から変化はない。ということは、名前で呼ぶは不正解。
「親父。オレリア相手に大人げない。そうやって彼女をいじめるのはやめてくれ。私がアーネストに叱られる」
「いじめてはいない。これはクイズだ」
「クイズ?」
デンスはオレリアからなんと呼ばれたいのでしょうか?
そういうクイズだろうか。
「だったら、ヒントを出してやれよ。もしくは、親父がどう呼ばれたいか、さっさと答えを言えばいいだろう?」
「すぐに答えを言ったら面白くない。これは、儂とオレリアの仲を深めるための儀式だ」
「あらあら、あなたったら」
シャトランも楽しそうに目を細める。
「わかった。オレリアにヒントを出そう。アーネストから聞いたか? アーネストは、儂が育てたようなものだ。あいつの父親は、あいつが生まれてすぐに部族間のいざこざに巻き込まれて亡くなってしまったからな。あれの母親には悪いことをした。だから、アーネストをこちらで責任を持って育てたいと、そう申し出たのだ」
「つまり、アーネストさまの父親代わりであったと?」
「そうだ。そして、そのアーネストと結婚したお前から見たら、アーネストの父親代わりの儂は何になる?」
ダスティンもマルガレットもシャトランも、必死に笑いをこらえている。
「えぇと……義理のお父さま?」
そこでやっとデンスの縦筋が消えた。
「そうだ。儂はお前から見たら、義理の父親になる」
「ちょっと、苦しい言い訳じゃないかしら?」
シャトランがぼそりと呟くと、他の二人もうんうんと頷く。
「だからオレリア。今日から儂のことを義父と呼ぶことを許す」
「お爺さまの間違いではないのか?」
ダスティンが低い声で言えば、デンスが小さく舌打ちをする。
「そんな……恐れ多いです」
オレリアは肩を縮こめて恐縮する。
「恐れ多くはない。儂はお前の後見人となった。その関係をはっきりと他の者にも知らせるために、呼び方は大事だ」
「後見人であって、娘にしたわけではないのにな」
ダスティンの言葉を、デンスはギロリと睨みつける。
「ダスティンの言うことは聞くな。いいか? 今日からお前は儂のことを義父と呼ぶように。特に、他の者がいる前では堂々とそう呼べ」
「やぁねぇ。この人、本当に素直じゃないの。ごめんなさいね、オレリア」
いえ、とオレリアは小さく首を振る。だけど、心には花が咲いたようにぽっとあたたかくなった。
それから、オレリアはデンスを『お義父さま』と呼ぶのだが、オレリアがそう呼ぶたびにデンスの顔が気持ち悪いくらいに崩れると、ダスティンは言っていた。
そしてオレリアは、ガイロの街へいるアーネストに手紙を書いた。会えないのであれば、やはり手紙くらいで近況を知らせたい。
後見人となったデンスが、オレリアから「お義父さま」と呼ばれたがっていたことを書いてみた。だけど、これでは自惚れになってしまうだろうかと思い、メーラに相談する。
「気にする必要はないと思いますよ。オレリア様がどう思ったかを素直に書けば、閣下も喜ばれると思います」
「そうなの?」
考えてみたら誰かに手紙を書くのも初めてのこと。うまく書けたかどうかはわからない。だけど、メーラの言葉を信じて、オレリアが思ったことを素直に書いた。
だけど、いつまで待ってもアーネストからの返事はこなかった。
そんなオレリアの後見人として族長、つまり国王の父親であるデンスが名乗りあげたとのこと。それは、結婚式を挙げる前日に決まったのだとか。
未成年で不安定な子どもには、ハバリー国内での後見人をつけたほうがいいと、デンス自ら提案したそうだ。アーネストの妻という立場はあるのだが、それでも子どもは子ども。夫の他にも必要だろうと思ったようだ。
しかし、それが今となっては功を奏している。なによりも、夫のアーネストが不在になってしまったからだ。
デンスがいなかったら、オレリアを守ってくれる人物はいなかっただろう。いくらダスティンとマルガレットがオレリアの味方だとしても。
「族長?」
後見人となったデンスをなんて呼んだらいいか、それがオレリアの最大の悩みであった。彼はミルコ族の族長だった。
今ではミルコ族の代表であるダスティンがハバリー国の国王でもあるため、ミルコ族に族長はいない。だけど、アーネストは彼を族長と呼んでいたし、他のミルコ族もデンスを族長と呼ぶ。ダスティンを国王と呼んで、区別しているようだ。
だから、オレリアもデンスを族長と呼んでみたのだが、彼は初めて顔を合わせたときのように難しい顔をしている。鼻の上にまで縦筋を刻んだ。
「族長さま?」
余計に縦筋が深くなる。
「オレリア。多分、お義父様は、他の呼び方を期待しているのよ」
隣に座っているマルガレットは上品に笑う。
「他の呼び方、ですか?」
オレリアは困って、首をコテンと横に傾げた。他の呼び方。名前で呼ぶしか思い浮かばない。
「名前で呼んでもよろしいのですか?」
そう尋ねると、ちょっとだけデンスの縦筋がやわらいだものの、難しい顔から変化はない。ということは、名前で呼ぶは不正解。
「親父。オレリア相手に大人げない。そうやって彼女をいじめるのはやめてくれ。私がアーネストに叱られる」
「いじめてはいない。これはクイズだ」
「クイズ?」
デンスはオレリアからなんと呼ばれたいのでしょうか?
そういうクイズだろうか。
「だったら、ヒントを出してやれよ。もしくは、親父がどう呼ばれたいか、さっさと答えを言えばいいだろう?」
「すぐに答えを言ったら面白くない。これは、儂とオレリアの仲を深めるための儀式だ」
「あらあら、あなたったら」
シャトランも楽しそうに目を細める。
「わかった。オレリアにヒントを出そう。アーネストから聞いたか? アーネストは、儂が育てたようなものだ。あいつの父親は、あいつが生まれてすぐに部族間のいざこざに巻き込まれて亡くなってしまったからな。あれの母親には悪いことをした。だから、アーネストをこちらで責任を持って育てたいと、そう申し出たのだ」
「つまり、アーネストさまの父親代わりであったと?」
「そうだ。そして、そのアーネストと結婚したお前から見たら、アーネストの父親代わりの儂は何になる?」
ダスティンもマルガレットもシャトランも、必死に笑いをこらえている。
「えぇと……義理のお父さま?」
そこでやっとデンスの縦筋が消えた。
「そうだ。儂はお前から見たら、義理の父親になる」
「ちょっと、苦しい言い訳じゃないかしら?」
シャトランがぼそりと呟くと、他の二人もうんうんと頷く。
「だからオレリア。今日から儂のことを義父と呼ぶことを許す」
「お爺さまの間違いではないのか?」
ダスティンが低い声で言えば、デンスが小さく舌打ちをする。
「そんな……恐れ多いです」
オレリアは肩を縮こめて恐縮する。
「恐れ多くはない。儂はお前の後見人となった。その関係をはっきりと他の者にも知らせるために、呼び方は大事だ」
「後見人であって、娘にしたわけではないのにな」
ダスティンの言葉を、デンスはギロリと睨みつける。
「ダスティンの言うことは聞くな。いいか? 今日からお前は儂のことを義父と呼ぶように。特に、他の者がいる前では堂々とそう呼べ」
「やぁねぇ。この人、本当に素直じゃないの。ごめんなさいね、オレリア」
いえ、とオレリアは小さく首を振る。だけど、心には花が咲いたようにぽっとあたたかくなった。
それから、オレリアはデンスを『お義父さま』と呼ぶのだが、オレリアがそう呼ぶたびにデンスの顔が気持ち悪いくらいに崩れると、ダスティンは言っていた。
そしてオレリアは、ガイロの街へいるアーネストに手紙を書いた。会えないのであれば、やはり手紙くらいで近況を知らせたい。
後見人となったデンスが、オレリアから「お義父さま」と呼ばれたがっていたことを書いてみた。だけど、これでは自惚れになってしまうだろうかと思い、メーラに相談する。
「気にする必要はないと思いますよ。オレリア様がどう思ったかを素直に書けば、閣下も喜ばれると思います」
「そうなの?」
考えてみたら誰かに手紙を書くのも初めてのこと。うまく書けたかどうかはわからない。だけど、メーラの言葉を信じて、オレリアが思ったことを素直に書いた。
だけど、いつまで待ってもアーネストからの返事はこなかった。
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