【R18】旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!

澤谷弥(さわたに わたる)

文字の大きさ
20 / 68

7.届いた手紙(2)

「だったら、なぜ兄さんはオレリアとの離縁を……?」

 マルガレットが顎に手を当てて、う~んと考え込んだ。

「それは……私も知らん。ただ、アーネストのことだからな。何を考えているかさっぱりわからん」
「まあ、兄さんって。ああ見えて朴念仁なところもあるし」
「まあ、見るからに朴念仁だろ」

 身内から朴念仁、朴念仁と言われているアーネストだが、オレリアはそうは思っていなかった。とはいえ、彼と共に過ごした時間は、ほんの少しの時間。

 夫であるアーネストと過ごした時間よりも、ダスティンやデンスと一緒にいる時間のほうがはるかに長い。

「……まさか、他に女ができた、とか。いやいや、あのアーネストだ。そんなことはあり得ないだろう」

 ダスティンがすかさず否定したのは、マルガレットとシャトランがものすごい形相で睨んだためである。デンスですら、こめかみをひくひくとさせた。

 だけど、ダスティンの言葉もあり得ない話ではないだろう。
 結婚したと言っても、その相手が当時は八歳の子どもだったオレリアなのだ。そこからずっと離ればなれで、名ばかりの夫婦。

 健全な男であれば、女性を求めることだってあるかもしれない。その女性に本気になるかもしれない。そういうこともあるかもしれない。
 そんな『かもしれない』ことばかりを考えていると、胸がズキズキと痛み始めた。

「アーネストさまと会って話がしたいです……」

 痛む胸を押さえるかのようにして、オレリアは心の底から気持ちを吐き出した。
 仮にアーネストが他に好きな女性ができたとしても、一方的に手紙で別れを告げられただけでは納得できない。

 はっきりと彼の口から、その事実を聞きたい。

「わかったわ、オレリア。ガイロの街にいきましょう!」

 マルガレットの明るい声に、みんなの注目が集まった。

「え?」

 驚きのあまり、オレリアの涙がピタリと止まる。

「だが、あのアーネストだぞ? オレリアが行ったところで、素直に会うと思うか? 会いたくないから、こうやって手紙を一方的に送ってきたのだろ?」
「そうね。兄さんのことだから、正攻法でいけば絶対に逃げる。会わずにオレリアと別れるつもりよ。それってね、ようは会ったら別れられないと思っているからでしょ?」

 マルガレットの言葉は、オレリアにとっても意外なものであった。
 会ったら別れられない。だから、会わない。

「オレリアがオレリアだと気づかれないようにして、兄さんの様子を見に行けばいいわ」
「そんなこと、できるわけ……あ、できるか?」

 ダスティンにもその案に心当たりがあるようだ。まさかオレリアに斥候の真似事をしろとでも言うのだろうか。

「オレリア。ガイロにはね、兵士や街の人たちが利用できる大きな食堂があるの」

 たったそれだけで、デンスもシャトランもマルガレットの言いたいことを理解したようだ。

「そこの食堂で給仕として働いたら、兄さんの様子が探れるんじゃない?」
「儂は反対だ。オレリアをそんな危険な場所に……」
「あら、あなた。ガイロの食堂は危険な場所なんかではないわよ。ダスティンの目も届く場所ですし」
「違う。儂の目の届かぬ場所にオレリアが行くのが危険なんだ……」

 過保護、とダスティンがぼそりと呟く。

「過保護? そうではない。アーネストがオレリアを放っておくから、オレリアをアーネストと別れさせて他の者と結婚させろという話が出ているのを、お前だって知っているだろう? その話を必死で食い止めていたのは、儂じゃ」

 オレリアの身体はピクリと震えた。知ってはいたが、こうやって実際に聞いてしまうと、アーネストとの仲を認められていないような気がしてくる。

「お義父様。だから、オレリアがオレリアとバレないようにすればいいのですよ。名前を変えて髪の色も変えて、ちょちょいと……。食堂の働き手として潜り込ませることくらい、あなたなら容易いでしょう?」
「まあ、な。……ふむ。その手でいこう。オレリアをガイロの食堂で働かせて、アーネストの様子を探る。アーネストに不審な動きがあったら、オレリア。きっぱりと諦めてアーネストと別れろ。むしろそんな男は、オレリアの夫としてふさわしくない。私がそう判断する」

 話が変な方向に流れてきた。オレリアとしてはアーネストと別れるつもりは毛頭ない。今まで一緒にいられなかった時間を取り戻すように、濃厚な時間を過ごしたいとそう思っているのに。

 だけど、ガイロの街の食堂で働きながら、アーネストの様子を確認できるのはちょっと面白いかもしれない。

 アーネストはオレリアに気づいてくれるだろうか。そしてアーネストは、どんなふうにかわっているだろう。

 少しだけ、オレリアに笑顔が戻った。
感想 49

あなたにおすすめの小説

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

死ぬまでに叶えたい十の願い

木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」 三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。 離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する—— 二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。

全てを奪われてしまいそうなので、ざまぁします!!

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
義母に全てを奪われたジュディ。何とかメイドの仕事を見つけるも義母がお金の無心にやって来ます。 私、もう我慢の限界なんですっ!!

【完結】私は義兄に嫌われている

春野オカリナ
恋愛
 私が5才の時に彼はやって来た。  十歳の義兄、アーネストはクラウディア公爵家の跡継ぎになるべく引き取られた子供。  黒曜石の髪にルビーの瞳の強力な魔力持ちの麗しい男の子。  でも、両親の前では猫を被っていて私の事は「出来損ないの公爵令嬢」と馬鹿にする。  意地悪ばかりする義兄に私は嫌われている。