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8.夫の葛藤(3)
オレリアは八歳というわりには大人びている少女だった。
結婚式の準備が慌ただしくすすむなか、トラゴス国に不審な動きがあるという情報が入った。さらにガイロに多く住んでいるスワン族がトラゴス国と接触しそうという情報も。
アーネストがガイロに行かねばならないと判断したのは、結婚式後の食事会を終え、部屋に戻る途中に聞いた情報がきっかけだった。
――わたしには人質としての価値はないかもしれません。
そう言ったオレリアの言葉を実感するような、そんな情報であった。
気は急いたが、時間も時間。オレリアのことも気になっていたし、夜が明けてから出立した。
アーネストの動きが早かったせいか、ガイロに攻め入ろうとしていたトラゴス国は撤退したらしい。
トラゴス国内だってごたごたしているのに、ガイロを狙ったのは、やはりオレリアを嫁がせたのが理由だろう。彼女をハバリー国に捧げ、隙を作る。ハバリー国を味方にするのではなく、潰す選択をしたようだ。
だが、これでアーネストはガイロから動けなくなった。
いつ攻め入ってくるかわからないトラゴス国と、そちらへ寝返ろうとしているスワン族。二つの動きから、このガイロの街を守らなければならない。
そんななか、オレリアからの手紙が届いた。幼いながらも丁寧に書かれた手紙を読むだけで、緊迫した気持ちが緩んでいく。
返事を書こうと思った。だけど、やめた。
彼女を守ると言っておきながら、側にいることができない。守れないのであれば、突き放すのも一つ。
いや、アーネストがオレリアを大事にしていると周囲に思われてはならない。そうすれば、彼女が狙われるからだ。家族や恋人を狙うのは、彼らの常套手段でもある。
だから彼女を守るために突き放すしかない。けれども返事だけは書いてみた。出せない手紙を彼女に宛てて書く。
そうこうしているうちに、彼女から二通目の手紙が届いた。そして、三通、四通と、アーネストが返事を出さなくても届く。
いつしかそれが当たり前となり、彼女からの手紙がアーネストの楽しみにもなった。
しかし絶対に返事は出さない。書くけど、出さない。
アーネストがオレリアを大事にしている想いを、周囲に悟られてはならないからだ。
その想いが家族愛だとしたら、なおのこと。その気持ちを周囲に悟られたとき、オレリアはアーネストの弱点になり、オレリアが危険に晒される。
その代わり、ダスティンに送る報告書には、オレリアの近況を尋ねる文言をいれた。
すると彼は、面白おかしくオレリアのことを教えてくれるのだ。
オレリアが九歳になったのを知ったのは、ダスティンの報告書に書かれていたから。そのとき、彼女の誕生日を知った。彼女に合いそうなリボンを買ってみたが、やはり贈るのをためらった。
それから毎年、オレリアの誕生日が近づくと、彼女に合いそうな服だったり、アクセサリーだったりを買ってみる。だけど、やはり贈れない。
そうやってオレリアの誕生日をやり過ごしていたが、彼女の十四歳の誕生日。ダスティンから届いた報告書には、オレリアがたくさんの人から誕生日を祝ってもらい、抱えきれないほどのプレゼントをもらって喜んでいたと書かれていた。
それを読んだとき、アーネストの中で何かが音を立てて切れた。まぎれもなく嫉妬。大人げなく嫉妬した。
それ以降、ダスティンはアーネストを煽るような報告しかしてこない。そのたびにムキになってみるが、その気持ちをどうぶつけたらいいかわからなかった。
出せなかった手紙。渡せなかったプレゼント。それらは今、アーネストの机の中で眠っている。
結婚式の準備が慌ただしくすすむなか、トラゴス国に不審な動きがあるという情報が入った。さらにガイロに多く住んでいるスワン族がトラゴス国と接触しそうという情報も。
アーネストがガイロに行かねばならないと判断したのは、結婚式後の食事会を終え、部屋に戻る途中に聞いた情報がきっかけだった。
――わたしには人質としての価値はないかもしれません。
そう言ったオレリアの言葉を実感するような、そんな情報であった。
気は急いたが、時間も時間。オレリアのことも気になっていたし、夜が明けてから出立した。
アーネストの動きが早かったせいか、ガイロに攻め入ろうとしていたトラゴス国は撤退したらしい。
トラゴス国内だってごたごたしているのに、ガイロを狙ったのは、やはりオレリアを嫁がせたのが理由だろう。彼女をハバリー国に捧げ、隙を作る。ハバリー国を味方にするのではなく、潰す選択をしたようだ。
だが、これでアーネストはガイロから動けなくなった。
いつ攻め入ってくるかわからないトラゴス国と、そちらへ寝返ろうとしているスワン族。二つの動きから、このガイロの街を守らなければならない。
そんななか、オレリアからの手紙が届いた。幼いながらも丁寧に書かれた手紙を読むだけで、緊迫した気持ちが緩んでいく。
返事を書こうと思った。だけど、やめた。
彼女を守ると言っておきながら、側にいることができない。守れないのであれば、突き放すのも一つ。
いや、アーネストがオレリアを大事にしていると周囲に思われてはならない。そうすれば、彼女が狙われるからだ。家族や恋人を狙うのは、彼らの常套手段でもある。
だから彼女を守るために突き放すしかない。けれども返事だけは書いてみた。出せない手紙を彼女に宛てて書く。
そうこうしているうちに、彼女から二通目の手紙が届いた。そして、三通、四通と、アーネストが返事を出さなくても届く。
いつしかそれが当たり前となり、彼女からの手紙がアーネストの楽しみにもなった。
しかし絶対に返事は出さない。書くけど、出さない。
アーネストがオレリアを大事にしている想いを、周囲に悟られてはならないからだ。
その想いが家族愛だとしたら、なおのこと。その気持ちを周囲に悟られたとき、オレリアはアーネストの弱点になり、オレリアが危険に晒される。
その代わり、ダスティンに送る報告書には、オレリアの近況を尋ねる文言をいれた。
すると彼は、面白おかしくオレリアのことを教えてくれるのだ。
オレリアが九歳になったのを知ったのは、ダスティンの報告書に書かれていたから。そのとき、彼女の誕生日を知った。彼女に合いそうなリボンを買ってみたが、やはり贈るのをためらった。
それから毎年、オレリアの誕生日が近づくと、彼女に合いそうな服だったり、アクセサリーだったりを買ってみる。だけど、やはり贈れない。
そうやってオレリアの誕生日をやり過ごしていたが、彼女の十四歳の誕生日。ダスティンから届いた報告書には、オレリアがたくさんの人から誕生日を祝ってもらい、抱えきれないほどのプレゼントをもらって喜んでいたと書かれていた。
それを読んだとき、アーネストの中で何かが音を立てて切れた。まぎれもなく嫉妬。大人げなく嫉妬した。
それ以降、ダスティンはアーネストを煽るような報告しかしてこない。そのたびにムキになってみるが、その気持ちをどうぶつけたらいいかわからなかった。
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