33 / 68
11.大好きな人(1)
食堂での仕事を終えたオレリアは帰路についた。最近、変な男に絡まれることが多いなとは思っていたが、さほど気にしていなかった。誰かがやってくれば男たちはさっと逃げていくし、何かをされたわけではない。
ただ「付き合って」「恋人になって」「結婚して」と。そういった声をかけられるだけ。
アーネストに会いに来たオレリアにとって、アーネスト以外の男性など眼中にない。だけど、変に断って角が立つのも嫌だし、食堂の売り上げに影響が出るのも嫌だった。
『夫がおりますので』
にっこりと笑って、既婚の証の指輪を見せても男たちは引き下がらない。
たいてい困っていると、エミがひょっこりとどこから顔を出して「皿を洗っておくれ」「下準備をしておくれ」と仕事を頼むそぶりを見せつつ、助けてくれた。
だけど今日は、食堂から自宅までの帰り道に男たちとばったり出会った。
夜も遅いし人通りも少ない。だから逆に、こんな時間に彼らがいるとは思わなかったのだ。
『リリーちゃん』
へらへらと笑いながら、男たちが寄ってくる。
――いい? オレリア。変な男が寄ってきたら、すぐに逃げるのよ。
マルガレットはそう言っていた。目の前の男たちは見るからに変な男に分類される。
オレリアは逃げた。逃げたがこの辺の土地勘が全然ない。どの道をどこに抜けたらどこに出るのかなど、まったくわからない。わかるのは寝泊まりしている家と食堂の間の道くらい。
だからすぐに彼らに捕まった。
『……きゃっ』
壁に追いやられて、声を出せないようにと口を押さえられる。
『……やっ……んっ』
男たちの気持ち悪い手が、オレリアの身体中をなで回す。
『おぉ。ほんと、いい身体してやがる。俺、勃ってきちまった』
足のない虫が身体中を這い回っているような感じだった。ぞわぞわとした感覚は、プレール侯爵夫人から鞭で打たれたほうがマシだと思えるくらい。
ガクガクと足が震える。
怖い、怖い、怖い――。
『何をしている』
涙で視界がぼやけていても、声だけで誰が来てくれたかだなんてすぐにわかった。
ガイロに来てからは、数回しかやりとりをしたことがない。それも客と給仕という関係であるけれど。
身体に衝撃が走って、倒れそうになった。それを支えてくれたのがアーネストだ。
あの男たちを取り逃がしたと彼は悔しそうに口にしたが、あんな男を追いかけるのであれば側にいてほしかった。だけど、今のオレリアはオレリアでなく食堂で働くリリーである。
あの後、家まで送ると言われたときも、それを断った。
アーネストとリリーの関係は客人と給仕。
けれどもオレリアの身体には力が入らなかった。先ほどの恐怖心が心のどこかにあって、一人で歩くのもままならない。
ふわりと身体が浮いたと思えば、その身体はアーネストによって抱きかかえられていた。これはあのときと同じ。結婚式の食事会を終え、部屋に戻ろうとしたあのとき。
懐かしい思いに、胸が熱くなる。
会いたかった、話したかった。そして、触れたかった。
オレリアも彼の身体に腕を回して、力強く抱きしめた。
家に着き、彼の腕から解放されたとき、離れたくないと思った。おもわず上着の裾を掴み、本音をこぼした。それは、オレリアとしての気持ち。
とにかく、一人になるのが怖かった。
月明かりの下、彼の鉄紺の瞳を見上げると、自然と涙がこぼれてきた。
もう、気持ちがおさえられない。
ただ「付き合って」「恋人になって」「結婚して」と。そういった声をかけられるだけ。
アーネストに会いに来たオレリアにとって、アーネスト以外の男性など眼中にない。だけど、変に断って角が立つのも嫌だし、食堂の売り上げに影響が出るのも嫌だった。
『夫がおりますので』
にっこりと笑って、既婚の証の指輪を見せても男たちは引き下がらない。
たいてい困っていると、エミがひょっこりとどこから顔を出して「皿を洗っておくれ」「下準備をしておくれ」と仕事を頼むそぶりを見せつつ、助けてくれた。
だけど今日は、食堂から自宅までの帰り道に男たちとばったり出会った。
夜も遅いし人通りも少ない。だから逆に、こんな時間に彼らがいるとは思わなかったのだ。
『リリーちゃん』
へらへらと笑いながら、男たちが寄ってくる。
――いい? オレリア。変な男が寄ってきたら、すぐに逃げるのよ。
マルガレットはそう言っていた。目の前の男たちは見るからに変な男に分類される。
オレリアは逃げた。逃げたがこの辺の土地勘が全然ない。どの道をどこに抜けたらどこに出るのかなど、まったくわからない。わかるのは寝泊まりしている家と食堂の間の道くらい。
だからすぐに彼らに捕まった。
『……きゃっ』
壁に追いやられて、声を出せないようにと口を押さえられる。
『……やっ……んっ』
男たちの気持ち悪い手が、オレリアの身体中をなで回す。
『おぉ。ほんと、いい身体してやがる。俺、勃ってきちまった』
足のない虫が身体中を這い回っているような感じだった。ぞわぞわとした感覚は、プレール侯爵夫人から鞭で打たれたほうがマシだと思えるくらい。
ガクガクと足が震える。
怖い、怖い、怖い――。
『何をしている』
涙で視界がぼやけていても、声だけで誰が来てくれたかだなんてすぐにわかった。
ガイロに来てからは、数回しかやりとりをしたことがない。それも客と給仕という関係であるけれど。
身体に衝撃が走って、倒れそうになった。それを支えてくれたのがアーネストだ。
あの男たちを取り逃がしたと彼は悔しそうに口にしたが、あんな男を追いかけるのであれば側にいてほしかった。だけど、今のオレリアはオレリアでなく食堂で働くリリーである。
あの後、家まで送ると言われたときも、それを断った。
アーネストとリリーの関係は客人と給仕。
けれどもオレリアの身体には力が入らなかった。先ほどの恐怖心が心のどこかにあって、一人で歩くのもままならない。
ふわりと身体が浮いたと思えば、その身体はアーネストによって抱きかかえられていた。これはあのときと同じ。結婚式の食事会を終え、部屋に戻ろうとしたあのとき。
懐かしい思いに、胸が熱くなる。
会いたかった、話したかった。そして、触れたかった。
オレリアも彼の身体に腕を回して、力強く抱きしめた。
家に着き、彼の腕から解放されたとき、離れたくないと思った。おもわず上着の裾を掴み、本音をこぼした。それは、オレリアとしての気持ち。
とにかく、一人になるのが怖かった。
月明かりの下、彼の鉄紺の瞳を見上げると、自然と涙がこぼれてきた。
もう、気持ちがおさえられない。
あなたにおすすめの小説
年下で可愛い旦那様は、実は独占欲強めでした
由香
恋愛
政略結婚で嫁いだ相手は――
年下で、可愛くて、なぜか距離が近すぎる旦那様でした。
「ねえ、奥さん。もうちょっと近く来て?」
人懐っこく甘えてくるくせに、他の男が話しかけただけで不機嫌になる彼。
最初は“かわいい弟みたい”と思っていたのに――
「俺、もう子供じゃないよ。……ちゃんと男として見て」
不意に見せる大人の顔と、独占欲に心が揺れていく。
これは、年下旦那様にじわじわ包囲されて、気づいたら溺愛されていた話。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
俺様上司に今宵も激しく求められる。
藤白ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
王太子に「戦友としか思えない」と言われたので、婚約を解消しました
明衣令央
恋愛
婚約者である王太子ヘンリーから「君のことは戦友としか思えない」と告げられた、公爵令嬢アリスティア。
十年以上の王妃教育を積んできた彼女は、静かに婚約解消を受け入れる。
一年後、幸せな結婚を迎えた彼女にとって、ヘンリーのその後は――もうどうでもいいことだった。
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。