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12.後悔と真実(2)
「誰だ? 名前は聞いたのか?」
「えぇ……聞いたのですが、名乗らなくてですね。名前を言ったら、絶対に閣下が会ってくれないからだと、彼女は言ってました」
彼女とジョアンが口にした時点で、客人が女性であるのはわかった。
名前を聞いたら逃げたくなるような女性――心当たりは二人。マルガレットかシャトランだろう。アーネストはあの二人に頭があがらない。十二年間、会っていなくても、本質がかわるわけでもないので、やはり頭はあがらないままである。
彼女たちであれば、先触れなく訪れるのもわかる。だって、知っていたらアーネストは間違いなく逃げていた。
「……わかった。通せ……」
はぁと大きくため息をついたところで、ジョアンが目を細くして睨んできた。
彼女たちがここに来たのは、間違いなくオレリアとのことだろう。別れる気持ちに変わりはないことを、強く言わなければならない。最悪、他に好きな女性ができたとかなんとか言って、その彼女と恋仲であると匂わせればいい。そうなると、間違いなくリリーを巻き込むだろうから、やはりリリーには会って話をしておきたかった。
――コンコンコンコン。
扉を叩く音が、部屋中に響いた気がした。
「失礼します。閣下、お客様です」
対外用の顔を作ったジョアンが、一人の女性を連れてきた。
鮮やかな黄色のドレスをまとい、帽子を深くかぶっている。顔と髪を隠しているのは、すぐさまアーネストに素性を知られないようにとしているからだろう。
「案内、ありがとう」
女性の明るい声で、ジョアンは黙って下がる。
(誰だ――)
その声に聞き覚えがあるかもしれないが、それがピンとこない。
それに、彼女から敵意は感じなかった。ジョアンがここまで連れてきた時点で彼女は敵ではないのだが――
マルガレットでもシャトランでもない。長い時間を共に過ごした彼女たちだから、こうやって顔を隠されても雰囲気でわかる。
彼女が帽子をとると、パサリと隠されていた髪が流れた。それは、夜明けの空を表す明るい黄色かかった赤色の曙色。
アーネストは息を呑んだ。
「旦那さま、お会いできて光栄です――」
スカートの裾をつまんで挨拶をした姿は、十二年前に初めて顔を合わせたときを思い出す。
「オレリア……か?」
「はい、オレリア・クワインでございます」
アーネストはまじまじと彼女を見つめた。背は、当たり前だが高くなっている。碧眼の目はぱっちりと二重で、艶やかな唇は蠱惑的に微笑んでいた。体つきもぐっと魅力的になっており、ドレスの胸元は大きくあいてはいないものの、その豊満な胸を隠しきれていない。腰のくびれも、伸びた背筋も、おもわず目を奪われてしまうほど美しい。
何か喋らなければならないのに、言葉が出てこない。
二人の間に沈黙が落ちた。
外からは兵士たちの訓練の号令が聞こえてくる。
「旦那さま?」
呆然とオレリアを見つめるアーネストを怪訝に思ったのか、彼女はコテンと首を傾げた。
「どうされました?」
「すまない……まさかお前がここに来るとは思っていなかったから、驚いた」
それは偽りのない本心である。まさかオレリアがガイロの街に来るとは思っていなかったし、ダスティンやデンスがそれを許すとも思えなかったのだ。それよりも先に、マルガレットやシャトランを送りつけると思っていた。
「先触れも出さずに申し訳ありません。ですが、陛下がおっしゃっていたのです。わたしがアーネストさまに会いに行くと知ったら、アーネストさまは間違いなく逃げるって」
さすがダスティンである。アーネストのことをよくわかっている。
「今日、こちらへ来たのは、この件です」
つかつかと彼女がアーネストの執務席に寄ってきて、バンと机の上に書面をたたき付けた。机の上の書類が、ザザーッと崩れ落ちるが、オレリアはそれを気にする様子はない。
「えぇ……聞いたのですが、名乗らなくてですね。名前を言ったら、絶対に閣下が会ってくれないからだと、彼女は言ってました」
彼女とジョアンが口にした時点で、客人が女性であるのはわかった。
名前を聞いたら逃げたくなるような女性――心当たりは二人。マルガレットかシャトランだろう。アーネストはあの二人に頭があがらない。十二年間、会っていなくても、本質がかわるわけでもないので、やはり頭はあがらないままである。
彼女たちであれば、先触れなく訪れるのもわかる。だって、知っていたらアーネストは間違いなく逃げていた。
「……わかった。通せ……」
はぁと大きくため息をついたところで、ジョアンが目を細くして睨んできた。
彼女たちがここに来たのは、間違いなくオレリアとのことだろう。別れる気持ちに変わりはないことを、強く言わなければならない。最悪、他に好きな女性ができたとかなんとか言って、その彼女と恋仲であると匂わせればいい。そうなると、間違いなくリリーを巻き込むだろうから、やはりリリーには会って話をしておきたかった。
――コンコンコンコン。
扉を叩く音が、部屋中に響いた気がした。
「失礼します。閣下、お客様です」
対外用の顔を作ったジョアンが、一人の女性を連れてきた。
鮮やかな黄色のドレスをまとい、帽子を深くかぶっている。顔と髪を隠しているのは、すぐさまアーネストに素性を知られないようにとしているからだろう。
「案内、ありがとう」
女性の明るい声で、ジョアンは黙って下がる。
(誰だ――)
その声に聞き覚えがあるかもしれないが、それがピンとこない。
それに、彼女から敵意は感じなかった。ジョアンがここまで連れてきた時点で彼女は敵ではないのだが――
マルガレットでもシャトランでもない。長い時間を共に過ごした彼女たちだから、こうやって顔を隠されても雰囲気でわかる。
彼女が帽子をとると、パサリと隠されていた髪が流れた。それは、夜明けの空を表す明るい黄色かかった赤色の曙色。
アーネストは息を呑んだ。
「旦那さま、お会いできて光栄です――」
スカートの裾をつまんで挨拶をした姿は、十二年前に初めて顔を合わせたときを思い出す。
「オレリア……か?」
「はい、オレリア・クワインでございます」
アーネストはまじまじと彼女を見つめた。背は、当たり前だが高くなっている。碧眼の目はぱっちりと二重で、艶やかな唇は蠱惑的に微笑んでいた。体つきもぐっと魅力的になっており、ドレスの胸元は大きくあいてはいないものの、その豊満な胸を隠しきれていない。腰のくびれも、伸びた背筋も、おもわず目を奪われてしまうほど美しい。
何か喋らなければならないのに、言葉が出てこない。
二人の間に沈黙が落ちた。
外からは兵士たちの訓練の号令が聞こえてくる。
「旦那さま?」
呆然とオレリアを見つめるアーネストを怪訝に思ったのか、彼女はコテンと首を傾げた。
「どうされました?」
「すまない……まさかお前がここに来るとは思っていなかったから、驚いた」
それは偽りのない本心である。まさかオレリアがガイロの街に来るとは思っていなかったし、ダスティンやデンスがそれを許すとも思えなかったのだ。それよりも先に、マルガレットやシャトランを送りつけると思っていた。
「先触れも出さずに申し訳ありません。ですが、陛下がおっしゃっていたのです。わたしがアーネストさまに会いに行くと知ったら、アーネストさまは間違いなく逃げるって」
さすがダスティンである。アーネストのことをよくわかっている。
「今日、こちらへ来たのは、この件です」
つかつかと彼女がアーネストの執務席に寄ってきて、バンと机の上に書面をたたき付けた。机の上の書類が、ザザーッと崩れ落ちるが、オレリアはそれを気にする様子はない。
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