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14.新生活(4)
「荷物を片づけておりましたら、衣装部屋の奥から出てきました。どこからどう見ても、女性もののようですが?」
「え? 閣下……まだ、お渡ししてなかったんですか?」
どうやらジョアンもこの首飾りの存在を知っていたようだ。
オレリアはジョアンもギロリと睨んだ。
「やっぱり、アーネストさまには、他に思う女性がいらっしゃるのですね? わたしがこうやって押しかけてきたから、仕方なく……」
「ち、ちがう……」
そうやって詰め寄られて、「はい、そうです」なんて答える男がいるだろうか。
バンと机を両手で叩き、オレリアは身を乗り出す。
「ジョアンさんも共犯なんですか? アーネストさまには他に好きな女性がいらっしゃるんでしょ? それを知っていて、協力したんですよね?」
「え? は? あ、ちょ、ちょっと。どういうこと? え? 閣下、奥様に言ってないの?」
今度はジョアンまでもがあたふたし始める。だけどオレリアは、そんなことおかまいなしにまくし立てる。
「ですからこの首飾りは女性のものですよね!!」
バンと机を叩くと、ケースに入ったままの首飾りがほわんと浮く。
「奥様、誤解です。それは閣下が、奥様に……」
「そんなの。二人で口裏を合わせれば、いくらでも言い訳できますよね」
「閣下! 閣下からもなんとか言ってくださいよ。奥様、完全に誤解しているじゃないですか。それもこれも、閣下が……あ!」
ジョアンがいきなりアーネストの机の引き出しを開け、中身を取り出そうとしている。
「おい、ジョアン。お前、何をしてる」
「何をって。閣下が女々しく大事にしまっているアレを見せたら、奥様だって納得すると思うんですよ」
「やめろ、って。なんでお前がそれを知っている!」
ジョアンが引き出しを開け中身を取り出すのを、アーネストが阻止している。だけど、ジョアンのほうが行動が素早く、するっと引き出しから何かを取り出した。
そこにアーネストの手が伸びて、奪い返そうとするものだから、手にしたものが机の上に散乱する。
「……え?」
「な! お、おい!」
アーネストが慌てて散らかった手紙をかき集めるものの、オレリアは二通、手にした。
「え? これって、わたしが……」
これは確か、オレリアが十年前に書いた手紙だ。当時、十歳のオレリアがアーネストに向けて書いたもの。宛名と日付がそれを示している。
「ね? このおっさん。若奥様からの手紙を、後生大事にとっておいたわけですよ」
「お前は黙ってろ。それよりも、ここから出ていけ」
アーネストがジョアンの背を押して、部屋から追い出した。すかさず扉に鍵をかける。
オレリアは手にした手紙のうちのもう一通に素早く視線を走らせた。
『オレリアへ
十歳の誕生日おめでとう
こちらはまだ慌ただしく、当分、そちらへ戻れそうにない――』
トクンと胸が音を立てた。
「アーネストさま?」
いつの間にかアーネストはオレリアの背後に立ち、後ろから手紙をのぞき込んでいた。
「それは、オレリアの十歳の誕生日のときに書いた返事だ」
「お返事? わたし、お返事は一通ももらっておりません」
「そうだな。出してないからな」
そのようなことを自信満々で言われても。
アーネストは上からひょいっとオレリアの手の中の手紙を奪い取った。
「あ、返してください」
「これは俺のものだ」
アーネストはささっと手紙を机の中にしまい込み、鍵をかけた。
「それは……お前に買ったものだ」
机の上の首飾りを指さす。
「十七歳の誕生日に贈ろうとしたものだな」
執務席の椅子に座ったアーネストは、何事もなかったかのように淡々と言葉を続けた。
「え?」
「他にもまだあっただろう? 九歳から十九歳まで、十一個のプレゼントがあったはずだが?」
「あ」
あったかもしれない。とにかく、女性もののアクセサリーとかリボンとか下着とか。
「あれも全部、お前に贈ろうとしたものだ」
「だったら、どうして贈ってくださらなかったのですか?」
「それは……今となっては、俺にもわからん」
「え? 閣下……まだ、お渡ししてなかったんですか?」
どうやらジョアンもこの首飾りの存在を知っていたようだ。
オレリアはジョアンもギロリと睨んだ。
「やっぱり、アーネストさまには、他に思う女性がいらっしゃるのですね? わたしがこうやって押しかけてきたから、仕方なく……」
「ち、ちがう……」
そうやって詰め寄られて、「はい、そうです」なんて答える男がいるだろうか。
バンと机を両手で叩き、オレリアは身を乗り出す。
「ジョアンさんも共犯なんですか? アーネストさまには他に好きな女性がいらっしゃるんでしょ? それを知っていて、協力したんですよね?」
「え? は? あ、ちょ、ちょっと。どういうこと? え? 閣下、奥様に言ってないの?」
今度はジョアンまでもがあたふたし始める。だけどオレリアは、そんなことおかまいなしにまくし立てる。
「ですからこの首飾りは女性のものですよね!!」
バンと机を叩くと、ケースに入ったままの首飾りがほわんと浮く。
「奥様、誤解です。それは閣下が、奥様に……」
「そんなの。二人で口裏を合わせれば、いくらでも言い訳できますよね」
「閣下! 閣下からもなんとか言ってくださいよ。奥様、完全に誤解しているじゃないですか。それもこれも、閣下が……あ!」
ジョアンがいきなりアーネストの机の引き出しを開け、中身を取り出そうとしている。
「おい、ジョアン。お前、何をしてる」
「何をって。閣下が女々しく大事にしまっているアレを見せたら、奥様だって納得すると思うんですよ」
「やめろ、って。なんでお前がそれを知っている!」
ジョアンが引き出しを開け中身を取り出すのを、アーネストが阻止している。だけど、ジョアンのほうが行動が素早く、するっと引き出しから何かを取り出した。
そこにアーネストの手が伸びて、奪い返そうとするものだから、手にしたものが机の上に散乱する。
「……え?」
「な! お、おい!」
アーネストが慌てて散らかった手紙をかき集めるものの、オレリアは二通、手にした。
「え? これって、わたしが……」
これは確か、オレリアが十年前に書いた手紙だ。当時、十歳のオレリアがアーネストに向けて書いたもの。宛名と日付がそれを示している。
「ね? このおっさん。若奥様からの手紙を、後生大事にとっておいたわけですよ」
「お前は黙ってろ。それよりも、ここから出ていけ」
アーネストがジョアンの背を押して、部屋から追い出した。すかさず扉に鍵をかける。
オレリアは手にした手紙のうちのもう一通に素早く視線を走らせた。
『オレリアへ
十歳の誕生日おめでとう
こちらはまだ慌ただしく、当分、そちらへ戻れそうにない――』
トクンと胸が音を立てた。
「アーネストさま?」
いつの間にかアーネストはオレリアの背後に立ち、後ろから手紙をのぞき込んでいた。
「それは、オレリアの十歳の誕生日のときに書いた返事だ」
「お返事? わたし、お返事は一通ももらっておりません」
「そうだな。出してないからな」
そのようなことを自信満々で言われても。
アーネストは上からひょいっとオレリアの手の中の手紙を奪い取った。
「あ、返してください」
「これは俺のものだ」
アーネストはささっと手紙を机の中にしまい込み、鍵をかけた。
「それは……お前に買ったものだ」
机の上の首飾りを指さす。
「十七歳の誕生日に贈ろうとしたものだな」
執務席の椅子に座ったアーネストは、何事もなかったかのように淡々と言葉を続けた。
「え?」
「他にもまだあっただろう? 九歳から十九歳まで、十一個のプレゼントがあったはずだが?」
「あ」
あったかもしれない。とにかく、女性もののアクセサリーとかリボンとか下着とか。
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