【R18】旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!

澤谷弥(さわたに わたる)

文字の大きさ
48 / 68

14.新生活(5)

 そう言ったアーネストは、目の前のオレリアをじっくりと見つめた。
 八歳だった女の子が、すっかりと成熟した二十歳の女性へと変化した。

「アーネストさま」

 机の向こう側にいる彼女は、艶やかな唇を震わせながらその名を口にする。

「アーネストさまは、わたしのことを好いてくださっているのですか?」

 少しだけ眉間にしわを寄せたアーネストは、こっちへ来いと手を振った。

「そんなところじゃなくて、もっと近くに来なさい」

 オレリアも不安げに眉根を寄せてから、机をぐるりと回ってアーネストの横に立つ。すぐさま彼はくるっと椅子の向きを変え、オレリアの腰を引き寄せてから自身の膝の上に彼女を座らせた。アーネストが後ろより抱きかかえるような形である。

「え?」
「俺も自分の気持ちを伝えるのが得意ではないが。少なくともお前との結婚生活は続けていきたいと、今ではそう思っている」

 そっと耳元でささやくと、細い身体がふるりと揺れた。

「お前が二十歳になって離縁届を送ったのは、お前には俺よりも相応しい相手がいると思ったからだ」

 ずっとそう思っていた。
 守ると約束しておきながらも、側にいてやることすらできなかった。側におけば逆に危険にさらされるのではとも思っていた。だから、突き放す。

 そうするつもりだったのに、最後の最後でそれすらできなかったのは、やはり心のどこかで彼女を手放したくないと願っているから。

 約束も守れないような枯れ始めた男に、彼女は眩しかった。

 アーネストだってなんだかんだと心の中で言い訳を考えながらも、彼女の側にいたいのだ。
 それを認めるのに、ずいぶんと回り道をして時間がかかっただけ。

「わたしが一番助けて欲しかったときに、手を差し伸べてくださったのがアーネストさまです」

 彼女の腹部を支えるようにして抱きしめていたアーネストの手に、オレリアの手が重なる。

「だけど、俺は十二年間もお前を放っておいた」
「あのとき、アーネストさまがわたしに寄り添ってくださったから、十二年間、待ち続けることができました。十二年前のあの日、わたしはアーネストさまに救われたのです」

 彼女だって望んだ結婚であったわけではないだろうに。

「そうか……そう思ってもらえたのであれば、何よりだな」

 今となっては、穏やかな気持ちでそう思えるから不思議だった。
 あのときは、彼女を危険な目に遭わせないように、すくすくと育ってほしいと、そう願っていた。

「お前から送られてくる手紙が、俺にとっては、とても楽しみなものになっていたよ」

 抱きしめている彼女の身体が、ふるりと震えた。

「ガイロの情勢だってよくないときも続いた。俺も剣を握り、この国を守るために、何人も人を斬った。仲間を失った。だけど、お前から送られてきた手紙を読み直すたびに、冷えた心を暖めてくれるような、そんな気持ちになったんだ」

 仲間を失ったのだって一人や二人ではない。
 冷え冷えとした風が心を凍り付かせた。それでも血が通うような気持ちを次第に思い出させてくれたのが、オレリアの手紙なのだ。オレリアの手紙で、アーネストは人としていられた。
 内容としては、特別なことが書かれているわけではない。アーネストを思う言葉と、オレリアの近況。たったそれだけなのに、心が救われたのは事実。

「オレリア。俺の側にいてくれてありがとう」
「それって……どういう意味ですか?」

 彼女は別の言葉を待っている。アーネストもそれをわかっていて、わざとそう言った。少しだけ、恥ずかしいという気持ちもあったから。

 彼女の淡雪のような白い顎をとらえ、こちらを向かせる。吸い込まれるほどの碧眼に魅入られながらも「愛している」と呟く。

 庇護欲がいつ愛情へと変化したのかはわからない。それに気づかぬふりをしていたのも間違いない。年の差、立場、罪、すべてを言い訳にして、彼女に相応しくないと勝手に評価をつけていた。

 そんなアーネストを受け入れてくれたのがオレリアだ。ひたむきに十二年間も待ってくれた。

 静かに唇を合わせる。
 花のような甘い香りが、アーネストを魅了する。わけのわからない酩酊感に襲われ、自我すら手放しそうになる。

感想 49

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】女当主は義弟の手で花開く

はるみさ
恋愛
シャノンは若干25歳でありながら、プレスコット伯爵家の女当主。男勝りな彼女は、由緒ある伯爵家の当主として男性と互角に渡り合っていた。しかし、そんな彼女には結婚という大きな悩みが。伯爵家の血筋を残すためにも結婚しなくてはと思うが、全く相手が見つからない。途方に暮れていたその時……「義姉さん、それ僕でいいんじゃない?」昔拾ってあげた血の繋がりのない美しく成長した義弟からまさかの提案……!? 恋に臆病な姉と、一途に義姉を想い続けてきた義弟の大人の恋物語。 ※他サイトにも掲載しています。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【4話完結】 君を愛することはないと、こっちから言ってみた

紬あおい
恋愛
皇女にべったりな護衛騎士の夫。 流行りの「君を愛することはない」と先に言ってやった。 ザマアミロ!はあ、スッキリした。 と思っていたら、夫が溺愛されたがってる…何で!?

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。