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15.初デート(2)

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「お待たせしました」

 オレリアは淡い黄色のワンピースを選んだ。髪は大きな帽子の中に入れ込んだ。オレリアの髪の色は、ハバリー国内では珍しいため目立ってしまう。アーネストと顔を合わせたときに、黒に染めていた髪を元の色に戻してしまったため、また黒髪にするというのはそれなりに時間と手間がかかる。

「では、いくか」

 アーネストは綿のシャツにパンツ姿である。色合いも地味な朽葉色。それに濃い茶色の上着を羽織って、軍人には見えない。酒場で管を巻いているような、どこにでもいるような男性なのだが、それでもオレリアにとっては特別に見えた。

「はい」

 オレリアはアーネストの手を取った。剣だこのあるごつごつとした手がオレリアの手を大きく包み込む。

 人目を避けるようにして、裏口を使って軍敷地から出た。

 空がすっきりと青く、薄い雲がところどころ散っている。太陽は金色に輝いて、やさしい光を地上に届けていた。暑くもない、穏やかな天気である。

「あ、あそこが食堂ですね」

 目の前に現れた、茶色の外壁の大きな建物。数日前までオレリアが働いていた食堂であるが、見る角度がかわるだけで、雰囲気が異なって見える。煙突からは白い煙がもくもくと切れ間なくあがっていた。

「そうだ。支部棟と食堂はつながっているからな」
「わたしはいつも食堂の裏口から出入りしていたので、実は正面から出入りしたことがなくて」
「正面から右側に行けば、広場に出る。以前、お前と待ち合わせをした場所だ」

 あのときは、夜遅くまで働いていてアーネストが家まで送ってくれると言ったのだ。

「広場に行きたいです」

 アーネストを見上げ、はっきりとした口調でそう言えば、彼は少しだけ口元をゆるめる。
 オレリアにとって、広場はアーネストとの思い出の場所でもあるのだ。

「……アーネストさまは、どうしてあのとき、リリーを送ってくれたのですか?」

 つないだ手から、アーネストの動揺が伝わってきた。だけど、表情からそれを読み取ることはできない。

「あんな夜遅くに、女性を一人、外を歩くのは危険だと思ったからだ。現に、お前は襲われたじゃないか」

 そう言われてしまえば言い訳はできない。

「だが、あのとき。一度、お前を送ったことがあったから、すぐに助けられた」

 偶然であったとしても、あの場にアーネストが駆けつけてくれてよかったのだ。やっぱりこの手は離したくないと、オレリアはきゅっと力を込める。

 アーネストも何か思ったのか、少しだけ鉄紺の瞳をオレリアに向けたが、すぐに広場のほうを見る。

「お、今日は道化師がいるみたいだな。屋台も出てる」

 オレリアも広場に顔を向け、噴水の前でなにやら芸をしている道化師に心を躍らせる。

「アーネストさま。わたし、あれを見たいです」

 首都サランは、人が多くごちゃごちゃとしている街であるため、外で芸をすることは禁じられている。
 トラゴス国にいたときは、住んでいた小屋の周辺しか足を延ばしたことがないため、あそこの王都がどのよう街並みみであるかなど、まったくわからない。

「ああ、行ってみよう。だが、オレリア……」
「はい」
「俺のことをアーネストと呼べ。せっかく、変装してきているのに、お前がそうやって俺を呼んだら他の者に知られてしまう」

 今日のアーネストは軍のクワイン将軍ではなく、ただの男アーネストとして街を歩いている。もちろんオレリアも、クワイン将軍の妻ではなく、ただのオレリアなのだ。

「あっ……はい。アーネスト……?」

 呼び方一つであるのに、心臓が飛び跳ねるくらいに気恥ずかしい。だけど、一気に二人の距離が近づいた感じもした。

「きゃっ」

 そのとき、オレリアの隣を元気な子どもたちが勢いよく駆けていった。彼らの目的地も広場のようだ。後ろから、母親と思われる女性が追いかけている。

「大丈夫か? 危ないな」
「大丈夫です。あの子たちの声に驚いただけですから」

 子どもたちとぶつかったわけでもない。ぼんやりとアーネストとのことを考えていたから、彼らの元気な声で現実に引き戻されただけ。それをアーネストには知られたくなくて、少しだけ戸惑った。

「そうか。子どもは元気だな」

 アーネストの口が「子ども」と言っただけで、オレリアは強く意識してしまう。

 いつかはアーネストとの子を望んでもいいのだろうか――
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