53 / 68
15.初デート(4)
ただ街の中を歩いているだけなのに、アーネストが隣にいるだけで特別な出来事のように思える。他にもたくさんの人々が、街を行き交っているのだが、ここだけが夢の世界のようにも見えるのだ。
「二十歳の誕生日プレゼントを送っていなかったな」
きょろきょろと周囲を見回しながら歩いていたオレリアは、アーネストのその言葉で彼の顔を見上げた。
「プレゼントですか? 今までアーネストさまが買ってくださったものは、全部、受け取りましたよ」
あのとき、彼に突きつけた黒曜石の首飾りは、今は、オレリアの胸元を飾っている。
「だが、あれは九歳から十九歳までの誕生日プレゼントだ。十一個しかなかっただろ?」
九歳の誕生日プレゼントは、黒と赤がまだら模様になっているリボンだった。十歳の誕生日プレゼントは、小さなうさぎのぬいぐるみで、十一歳の誕生日プレゼントは手巾。十二歳になれば髪飾りで、十三歳は腕輪、十四歳は耳飾り、十五歳はショール、十六歳はエプロンドレス、十七歳が首飾りで、十八歳でナイトドレス、十九歳で下着だった。
それらをすべて一度にもらったオレリアだが、今は首飾りを身に付けている。恐ろしいことに、ドレス類はサイズがぴったりであった。それを問い詰めたら「ダスティンに聞いた」とのことで、そんなふうに気にかけてくれた事実にまた胸が熱くなった。ちなみに、十六歳で身体の著しい成長が止まったオレリアは、そこから服のサイズがかわっていない。かわったのは胸とお尻の大きさくらいで、下着だけは毎年新調していたが、それでも一年前に買ったと思われる下着のサイズは、今のオレリアにもぴったりだったので、ちょっとだけ驚いた。
「指輪を贈りたいのだが」
結婚の指輪はサイズが合わなくなって、鎖に通し首からかけていた。だから、男から言い寄られたときにはそれを見せたのだが、やはり効果は薄かった。むしろ、ないに等しく、結局あのようなことになったのである。
「嬉しいです」
「そうか」
穏やかな声で呟いたアーネストの手は、あたたかい。ふと、今になって気がついた。彼はずっと、歩調をオレリアに合わせている。足も長くて歩幅も違うのに、オレリアがいつものペースで歩いていたのは、アーネストが合わせてくれているから。
また一つ、アーネストのいいところを知ってしまった。
ふわっとやわらかな風が吹き、オレリアの帽子を持ち上げた。
「あっ」
帽子が浮いたところを、すぐにアーネストが捕らえたが、オレリアの髪は無造作に広がる。慌てて髪を押さえて、アーネストから帽子を預かった。
「この場所は、土地柄のせいかときどき強い風が吹くんだ」
ガイロの街全体が風が強いのではなく、今歩いている大通りだけとのこと。建物の並びもよくないらしいが、その風がさまざまな偶然を運んでくるため、妖精のいたずらとも呼ばれている。
今のように帽子を飛ばされた者と帽子を拾った者、飛ばされないようにとしっかりと手を握りしめる恋人同士、妖精のいたずらの洗礼を浴びた二人は、末永く幸せに暮らすとも言い伝えられている。
「素敵なお話ですね」
アーネストから「妖精のいたずら」の話を聞いたオレリアも、満面の笑みを浮かべた。
大通りにはさまざまな店が並んでいる。どうやら彼は、オレリアの誕生日プレゼントをこの通りの店でそろえていたらしい。そのたびに、今のような格好で街を歩いていた。だから、慣れているのだ。
「ここだ……」
大通りに通した入り口は、ステンドグラスが眩しく輝いている。扉を押し開けると、カランコロンとベルが鳴った。
「いらっしゃいませ」
黒いドレス姿の店員が、にこやかな笑顔で出迎えてくれた。
「今日は、何をお探しでしょうか」
慣れた口調で、声をかけてくる。
「妻に指輪を」
妻と呼ばれたことで、オレリアはかっと頬が熱くなった。結婚してからというもの、夫婦らしい生活は営んでいない。それでも彼は、オレリアを妻として認めてくれている。
目頭が熱くなり、下を向く。
「おい。どうした?」
困ったようなアーネストの声が上から注がれてきたが、今、顔をあげたら涙がこぼれてしまう。
「かわいらしい奥様ですね」
どうやら店員は、オレリアの気持ちをくみ取ったらしい。
「では、こちらでゆっくり選びましょう」
「はい……」
下を向いたまま、オレリアは返事をした。
「二十歳の誕生日プレゼントを送っていなかったな」
きょろきょろと周囲を見回しながら歩いていたオレリアは、アーネストのその言葉で彼の顔を見上げた。
「プレゼントですか? 今までアーネストさまが買ってくださったものは、全部、受け取りましたよ」
あのとき、彼に突きつけた黒曜石の首飾りは、今は、オレリアの胸元を飾っている。
「だが、あれは九歳から十九歳までの誕生日プレゼントだ。十一個しかなかっただろ?」
九歳の誕生日プレゼントは、黒と赤がまだら模様になっているリボンだった。十歳の誕生日プレゼントは、小さなうさぎのぬいぐるみで、十一歳の誕生日プレゼントは手巾。十二歳になれば髪飾りで、十三歳は腕輪、十四歳は耳飾り、十五歳はショール、十六歳はエプロンドレス、十七歳が首飾りで、十八歳でナイトドレス、十九歳で下着だった。
それらをすべて一度にもらったオレリアだが、今は首飾りを身に付けている。恐ろしいことに、ドレス類はサイズがぴったりであった。それを問い詰めたら「ダスティンに聞いた」とのことで、そんなふうに気にかけてくれた事実にまた胸が熱くなった。ちなみに、十六歳で身体の著しい成長が止まったオレリアは、そこから服のサイズがかわっていない。かわったのは胸とお尻の大きさくらいで、下着だけは毎年新調していたが、それでも一年前に買ったと思われる下着のサイズは、今のオレリアにもぴったりだったので、ちょっとだけ驚いた。
「指輪を贈りたいのだが」
結婚の指輪はサイズが合わなくなって、鎖に通し首からかけていた。だから、男から言い寄られたときにはそれを見せたのだが、やはり効果は薄かった。むしろ、ないに等しく、結局あのようなことになったのである。
「嬉しいです」
「そうか」
穏やかな声で呟いたアーネストの手は、あたたかい。ふと、今になって気がついた。彼はずっと、歩調をオレリアに合わせている。足も長くて歩幅も違うのに、オレリアがいつものペースで歩いていたのは、アーネストが合わせてくれているから。
また一つ、アーネストのいいところを知ってしまった。
ふわっとやわらかな風が吹き、オレリアの帽子を持ち上げた。
「あっ」
帽子が浮いたところを、すぐにアーネストが捕らえたが、オレリアの髪は無造作に広がる。慌てて髪を押さえて、アーネストから帽子を預かった。
「この場所は、土地柄のせいかときどき強い風が吹くんだ」
ガイロの街全体が風が強いのではなく、今歩いている大通りだけとのこと。建物の並びもよくないらしいが、その風がさまざまな偶然を運んでくるため、妖精のいたずらとも呼ばれている。
今のように帽子を飛ばされた者と帽子を拾った者、飛ばされないようにとしっかりと手を握りしめる恋人同士、妖精のいたずらの洗礼を浴びた二人は、末永く幸せに暮らすとも言い伝えられている。
「素敵なお話ですね」
アーネストから「妖精のいたずら」の話を聞いたオレリアも、満面の笑みを浮かべた。
大通りにはさまざまな店が並んでいる。どうやら彼は、オレリアの誕生日プレゼントをこの通りの店でそろえていたらしい。そのたびに、今のような格好で街を歩いていた。だから、慣れているのだ。
「ここだ……」
大通りに通した入り口は、ステンドグラスが眩しく輝いている。扉を押し開けると、カランコロンとベルが鳴った。
「いらっしゃいませ」
黒いドレス姿の店員が、にこやかな笑顔で出迎えてくれた。
「今日は、何をお探しでしょうか」
慣れた口調で、声をかけてくる。
「妻に指輪を」
妻と呼ばれたことで、オレリアはかっと頬が熱くなった。結婚してからというもの、夫婦らしい生活は営んでいない。それでも彼は、オレリアを妻として認めてくれている。
目頭が熱くなり、下を向く。
「おい。どうした?」
困ったようなアーネストの声が上から注がれてきたが、今、顔をあげたら涙がこぼれてしまう。
「かわいらしい奥様ですね」
どうやら店員は、オレリアの気持ちをくみ取ったらしい。
「では、こちらでゆっくり選びましょう」
「はい……」
下を向いたまま、オレリアは返事をした。
あなたにおすすめの小説
年下で可愛い旦那様は、実は独占欲強めでした
由香
恋愛
政略結婚で嫁いだ相手は――
年下で、可愛くて、なぜか距離が近すぎる旦那様でした。
「ねえ、奥さん。もうちょっと近く来て?」
人懐っこく甘えてくるくせに、他の男が話しかけただけで不機嫌になる彼。
最初は“かわいい弟みたい”と思っていたのに――
「俺、もう子供じゃないよ。……ちゃんと男として見て」
不意に見せる大人の顔と、独占欲に心が揺れていく。
これは、年下旦那様にじわじわ包囲されて、気づいたら溺愛されていた話。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
俺様上司に今宵も激しく求められる。
藤白ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
王太子に「戦友としか思えない」と言われたので、婚約を解消しました
明衣令央
恋愛
婚約者である王太子ヘンリーから「君のことは戦友としか思えない」と告げられた、公爵令嬢アリスティア。
十年以上の王妃教育を積んできた彼女は、静かに婚約解消を受け入れる。
一年後、幸せな結婚を迎えた彼女にとって、ヘンリーのその後は――もうどうでもいいことだった。
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。