63 / 68
18.二度目の初夜(1)
アーネストと共に暮らしてもずっと寝室を分けていたのは、アーネスト自身の気持ちの問題であった。
オレリアはそれをなんとなく感じ取ってはいたが、長い間離れて暮らし、あのような形で再会を果たしたのであれば、その気持ちもわからないでもない。
なんとか互いの気持ちをはっきりと口にしたおかげで、二人を分かつ理由などもう何もない。
しかし、それまでに二人の仲がなかなか進展しなかったので、オレリアはマルガレットにも手紙で相談はしていた。
毎年、アーネストが誕生日プレゼントだけは買ってあって、それを十一年分まとめて贈ってもらった、と報告したところ、「我が兄ながら、わけがわからない」と返事がきた。そのプレゼントの内容を目録のようにして書いてみたら「リボンとかアクセサリーはわかる。だけど、ドレスに下着って、欲望がダダ漏れよね? こういうのをむっつりっていうのよ」とまで書いてあった。
マルガレットから見たアーネストはむっつりらしいが、オレリアから見ればアーネストの不器用な気持ちをぶつけられて、少しだけ心がくすぐったかった。
ガイロにある邸宅。オレリアに与えられた部屋は、一人で使う分には十分に広い。寝台だって一人で寝るには広すぎるほどであるし、ソファも机も必要なものは置いてある。隣には衣装部屋があるけれど、そこを埋めるだけの衣装は持ち合わせていない。
白い壁紙には小ぶりの花柄が描かれていて、汎用性のある模様でもある。この部屋は、オレリアのためだけに用意された部屋ではない。空いていて、使い勝手のいい部屋を与えられただけ。
だからアーネストの部屋と扉一枚でつながっているわけでもない。
それなのに今夜、彼はここに来ると言う。それが何を意味するのか、わからないほどの子どもの時期はとうに過ぎた。
控え目に扉が叩かれる。
邸宅にはオレリアとアーネストの二人しかいないのだから、誰がやってきたのかだなんて名乗らなくてもわかる。
「俺だ。入ってもいいか?」
「は、はい」
ソファに座って身を固くしていたオレリアは、ひどく緊張して口の中がカラカラだった。
彼は銀トレイの上にグラスと何か液体の入った瓶をのせている。
「喉が渇いていないか?」
「はい。実は、緊張して喉が渇いておりました」
「まるで借りてきた猫のようだな。いつもは、みゃあみゃあ鳴いてかみつくような勢いなのに」
アーネストが隣に座ったので、二人分の重みでふかふかのソファがぎしりと沈んだ。ガウン姿のアーネストからは、石けんのよい香りがふわりと漂う。
「わたし、そんなにうるさいですか?」
「いや、子猫のようにかわいいから、かまいたくなる」
瓶からグラスに何かを注ぎながら、アーネストは答えた。
「果実酒だ。少しは、飲めるんだろ?」
「わたしだって、もう子どもではありません。お酒を飲んでもいい年になりました」
「そうだな」
くすりと笑うアーネストが余裕じみていて、オレリアは少しだけ唇を尖らせた。
「ほら」
透明なグラスに注がれた液体は、薄い紅色をしていながらも、向こう側が見えるほど透けている。
二人でグラスを軽く合わせてから、オレリアは一口だけ飲んだ。
口の中にふわっと甘い香りが広がり、後から酸味がきいてくる。喉を少しだけ刺激しながら、すとんと胃の中に落ちた。
「どうだ?」
「ちょっとだけ、口の中がピリピリしました」
お腹の中がじんわりとあたたまってきて、頬も火照り始める。
「なるほど。お酒は飲めるが、強くはないようだな」
アーネストの指が、朱に染まったオレリアの頬をなでながらも、視線は違うところを追っていた。
「……その服」
「アーネストさまからの贈り物にあったものです」
「そうか……」
「アーネストさまは、こういった服が好みなのですか?」
襟にも袖にも、フリルがたくさんついた白のナイトドレスは、胸元をリボンで結ぶ形になっていた。
「お前に似合いそうかなと想っただけだ。不満か?」
「いえ……ですが。子どもっぽくないですか?」
「やっぱり、不満なんだな。他のを買ってやるから、今日はそれで我慢しろ」
アーネストはグラスの残りを一気に飲み干した。
オレリアはそれをなんとなく感じ取ってはいたが、長い間離れて暮らし、あのような形で再会を果たしたのであれば、その気持ちもわからないでもない。
なんとか互いの気持ちをはっきりと口にしたおかげで、二人を分かつ理由などもう何もない。
しかし、それまでに二人の仲がなかなか進展しなかったので、オレリアはマルガレットにも手紙で相談はしていた。
毎年、アーネストが誕生日プレゼントだけは買ってあって、それを十一年分まとめて贈ってもらった、と報告したところ、「我が兄ながら、わけがわからない」と返事がきた。そのプレゼントの内容を目録のようにして書いてみたら「リボンとかアクセサリーはわかる。だけど、ドレスに下着って、欲望がダダ漏れよね? こういうのをむっつりっていうのよ」とまで書いてあった。
マルガレットから見たアーネストはむっつりらしいが、オレリアから見ればアーネストの不器用な気持ちをぶつけられて、少しだけ心がくすぐったかった。
ガイロにある邸宅。オレリアに与えられた部屋は、一人で使う分には十分に広い。寝台だって一人で寝るには広すぎるほどであるし、ソファも机も必要なものは置いてある。隣には衣装部屋があるけれど、そこを埋めるだけの衣装は持ち合わせていない。
白い壁紙には小ぶりの花柄が描かれていて、汎用性のある模様でもある。この部屋は、オレリアのためだけに用意された部屋ではない。空いていて、使い勝手のいい部屋を与えられただけ。
だからアーネストの部屋と扉一枚でつながっているわけでもない。
それなのに今夜、彼はここに来ると言う。それが何を意味するのか、わからないほどの子どもの時期はとうに過ぎた。
控え目に扉が叩かれる。
邸宅にはオレリアとアーネストの二人しかいないのだから、誰がやってきたのかだなんて名乗らなくてもわかる。
「俺だ。入ってもいいか?」
「は、はい」
ソファに座って身を固くしていたオレリアは、ひどく緊張して口の中がカラカラだった。
彼は銀トレイの上にグラスと何か液体の入った瓶をのせている。
「喉が渇いていないか?」
「はい。実は、緊張して喉が渇いておりました」
「まるで借りてきた猫のようだな。いつもは、みゃあみゃあ鳴いてかみつくような勢いなのに」
アーネストが隣に座ったので、二人分の重みでふかふかのソファがぎしりと沈んだ。ガウン姿のアーネストからは、石けんのよい香りがふわりと漂う。
「わたし、そんなにうるさいですか?」
「いや、子猫のようにかわいいから、かまいたくなる」
瓶からグラスに何かを注ぎながら、アーネストは答えた。
「果実酒だ。少しは、飲めるんだろ?」
「わたしだって、もう子どもではありません。お酒を飲んでもいい年になりました」
「そうだな」
くすりと笑うアーネストが余裕じみていて、オレリアは少しだけ唇を尖らせた。
「ほら」
透明なグラスに注がれた液体は、薄い紅色をしていながらも、向こう側が見えるほど透けている。
二人でグラスを軽く合わせてから、オレリアは一口だけ飲んだ。
口の中にふわっと甘い香りが広がり、後から酸味がきいてくる。喉を少しだけ刺激しながら、すとんと胃の中に落ちた。
「どうだ?」
「ちょっとだけ、口の中がピリピリしました」
お腹の中がじんわりとあたたまってきて、頬も火照り始める。
「なるほど。お酒は飲めるが、強くはないようだな」
アーネストの指が、朱に染まったオレリアの頬をなでながらも、視線は違うところを追っていた。
「……その服」
「アーネストさまからの贈り物にあったものです」
「そうか……」
「アーネストさまは、こういった服が好みなのですか?」
襟にも袖にも、フリルがたくさんついた白のナイトドレスは、胸元をリボンで結ぶ形になっていた。
「お前に似合いそうかなと想っただけだ。不満か?」
「いえ……ですが。子どもっぽくないですか?」
「やっぱり、不満なんだな。他のを買ってやるから、今日はそれで我慢しろ」
アーネストはグラスの残りを一気に飲み干した。
あなたにおすすめの小説
年下で可愛い旦那様は、実は独占欲強めでした
由香
恋愛
政略結婚で嫁いだ相手は――
年下で、可愛くて、なぜか距離が近すぎる旦那様でした。
「ねえ、奥さん。もうちょっと近く来て?」
人懐っこく甘えてくるくせに、他の男が話しかけただけで不機嫌になる彼。
最初は“かわいい弟みたい”と思っていたのに――
「俺、もう子供じゃないよ。……ちゃんと男として見て」
不意に見せる大人の顔と、独占欲に心が揺れていく。
これは、年下旦那様にじわじわ包囲されて、気づいたら溺愛されていた話。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
俺様上司に今宵も激しく求められる。
藤白ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
王太子に「戦友としか思えない」と言われたので、婚約を解消しました
明衣令央
恋愛
婚約者である王太子ヘンリーから「君のことは戦友としか思えない」と告げられた、公爵令嬢アリスティア。
十年以上の王妃教育を積んできた彼女は、静かに婚約解消を受け入れる。
一年後、幸せな結婚を迎えた彼女にとって、ヘンリーのその後は――もうどうでもいいことだった。
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。