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第三章(5)
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「シェリル。すまない。完全に僕の確認不足だった。先ほどの乾杯酒は、イチゴを使ったお酒だったんだよ。最近、クローディア殿下とワルリス公爵子息のマクシム殿との縁談が持ち上がっていて。どうやら今日の酒は、ワルリス公爵領の特産品、イチゴを使ったものだったんだ」
「え?」
さぁっとシェリルの背筋に悪寒が走る。
「シェリルはイチゴが食べられなくなったと言っていたよな?」
イライアスにも察するものがあったのだろう。
「殿下もシェリルの体質についてはご存知でしたか。それを知っていて、望んでくださったのですね?」
「いや、詳しいことはわからない。イチゴを食べられなくなったとしか聞いていない」
「食べられなくなったんじゃなくて、食べてはいけないのです。イチゴそのままも食べてはいけないのですが、加工品もダメなんです」
ルークが右手を振ってイライアスを呼び寄せる。王太子相手に失礼な態度であるが、ルークとイライアスの仲だから許される。
「シェリルは、イチゴを食べると――」
ルークがイライアスに何を伝えたのか、シェリルには聞こえなかった。ただ、身体が熱くて胸が苦しい。
「……わかった。では、俺が責任を持ってシェリルを預かる。幸いにも必要なことはやり終えたからな。俺たちが姿を消したところで、ただ仲の良さを見せつけるだけだ。あとのことはフランシスたちに任せてあるから、何も問題ない」
「イライアス殿下、頼みます。兄としてはものすごく複雑ですが、それでもシェリルが苦しむ様子はみていられません。私にとっては大事な妹なので」
イライアスとルークの言葉は、頭がぼぅっとするシェリルの耳にも届いていた。だけど、それに意見するような、そんな気力は残っていない。
「……シェリル」
イライアスに名前を呼ばれただけで、ぐずりと身体の奥が熱くなる。くすぶっていた熾火に火がついたかのよう。
「殿下……?」
潤んだ瞳で、彼を見上げる。
イライアスはせつなそうな表情を見せて、シェリルの身体を抱き上げた。
「そんな表情、他の男に見せるわけにはいかないだろ?」
そう言われても、シェリルは身体が火照ってしかたなかった。これがイチゴのせいなのはわかっている。だから絶対に食べてはならないと、ルークからも両親からも強く言われていたというのに、祝いの場というのもあって完全に油断していた。
むしろその中心に自分がいるとなればなおのこと、気がまわらなかった。
飲む前に、なんのお酒であるかを確認する必要があったのに、それを怠った。まさかイチゴのお酒があるだなんて、知らなかった。
「シェリル、大丈夫か?」
「あっ……え、えぇ……」
イライアスに抱かれたまま移動するのは、いつものシェリルであったら恥ずかしくて仕方なかっただろう。場所がバルコニーでよかった。大勢の人がいる会場に戻ることなく部屋へと戻れるからだ。
ほっと胸をなでおろすものの、だけど今はもっとイライアスと触れ合っていたい。
シェリルからも腕を伸ばして彼の首にそれを絡める。
「シェリル?」
「……殿下。ごめ……なさい……身体が、熱くて……」
呼吸をするたびに漏れ出てくるのは、熱い吐息。
「ああ。すぐにここから離れる」
ホールから聞こえてくる音楽や人の声が気になりながらも、バルコニーから回廊へと向かう。
イライアスに抱かれながら回廊を進むと、夜風が火照った身体に触れて気持ちはよい。しかし敏感になった肌には、それすら刺激となる。
「……あっ……ンっ……」
こんなあられもない声をあげてしまって、恥ずかしいと思うものの制御できないのだから仕方あるまい。
パーティーのおかげで回廊に人の気配がしないのが幸いだった。この姿をほかの者には見られたくない。
「……シェリル。辛いのか?」
「だ、大丈夫、です……時間が経てば、治りますから……」
身体の火照りは、ある一定の時間後にピークを迎えるが、それさえ過ぎてしまえばあとは和らいでいく。
それを和らげる特効薬があればいいのだが、残念ながらそんなものは存在しないらしい。ただ、静かに耐えしのぐだけ。
「え?」
さぁっとシェリルの背筋に悪寒が走る。
「シェリルはイチゴが食べられなくなったと言っていたよな?」
イライアスにも察するものがあったのだろう。
「殿下もシェリルの体質についてはご存知でしたか。それを知っていて、望んでくださったのですね?」
「いや、詳しいことはわからない。イチゴを食べられなくなったとしか聞いていない」
「食べられなくなったんじゃなくて、食べてはいけないのです。イチゴそのままも食べてはいけないのですが、加工品もダメなんです」
ルークが右手を振ってイライアスを呼び寄せる。王太子相手に失礼な態度であるが、ルークとイライアスの仲だから許される。
「シェリルは、イチゴを食べると――」
ルークがイライアスに何を伝えたのか、シェリルには聞こえなかった。ただ、身体が熱くて胸が苦しい。
「……わかった。では、俺が責任を持ってシェリルを預かる。幸いにも必要なことはやり終えたからな。俺たちが姿を消したところで、ただ仲の良さを見せつけるだけだ。あとのことはフランシスたちに任せてあるから、何も問題ない」
「イライアス殿下、頼みます。兄としてはものすごく複雑ですが、それでもシェリルが苦しむ様子はみていられません。私にとっては大事な妹なので」
イライアスとルークの言葉は、頭がぼぅっとするシェリルの耳にも届いていた。だけど、それに意見するような、そんな気力は残っていない。
「……シェリル」
イライアスに名前を呼ばれただけで、ぐずりと身体の奥が熱くなる。くすぶっていた熾火に火がついたかのよう。
「殿下……?」
潤んだ瞳で、彼を見上げる。
イライアスはせつなそうな表情を見せて、シェリルの身体を抱き上げた。
「そんな表情、他の男に見せるわけにはいかないだろ?」
そう言われても、シェリルは身体が火照ってしかたなかった。これがイチゴのせいなのはわかっている。だから絶対に食べてはならないと、ルークからも両親からも強く言われていたというのに、祝いの場というのもあって完全に油断していた。
むしろその中心に自分がいるとなればなおのこと、気がまわらなかった。
飲む前に、なんのお酒であるかを確認する必要があったのに、それを怠った。まさかイチゴのお酒があるだなんて、知らなかった。
「シェリル、大丈夫か?」
「あっ……え、えぇ……」
イライアスに抱かれたまま移動するのは、いつものシェリルであったら恥ずかしくて仕方なかっただろう。場所がバルコニーでよかった。大勢の人がいる会場に戻ることなく部屋へと戻れるからだ。
ほっと胸をなでおろすものの、だけど今はもっとイライアスと触れ合っていたい。
シェリルからも腕を伸ばして彼の首にそれを絡める。
「シェリル?」
「……殿下。ごめ……なさい……身体が、熱くて……」
呼吸をするたびに漏れ出てくるのは、熱い吐息。
「ああ。すぐにここから離れる」
ホールから聞こえてくる音楽や人の声が気になりながらも、バルコニーから回廊へと向かう。
イライアスに抱かれながら回廊を進むと、夜風が火照った身体に触れて気持ちはよい。しかし敏感になった肌には、それすら刺激となる。
「……あっ……ンっ……」
こんなあられもない声をあげてしまって、恥ずかしいと思うものの制御できないのだから仕方あるまい。
パーティーのおかげで回廊に人の気配がしないのが幸いだった。この姿をほかの者には見られたくない。
「……シェリル。辛いのか?」
「だ、大丈夫、です……時間が経てば、治りますから……」
身体の火照りは、ある一定の時間後にピークを迎えるが、それさえ過ぎてしまえばあとは和らいでいく。
それを和らげる特効薬があればいいのだが、残念ながらそんなものは存在しないらしい。ただ、静かに耐えしのぐだけ。
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