わたしが聖女様を殺しました

澤谷弥(さわたに わたる)

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第二章(5)

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 冷たい水が喉をゆっくりと通り過ぎていく。フィアナが感じていたよりも、身体は水を欲していたようだ。一口、二口だけ飲むつもりだったのに、途中でやめることができずにすべてを飲み干してしまった。

「……ふぅ」
「だけど、さすがフィアナだな。かなり情報を聞き出せただろう」

 少なくとも、第一騎士団が話を聞いた昨日よりは、貴重な話を聞けたはず。

「そうですね。ここに来て、もう一人の人物が浮上しましたからね」
「聖騎士キアロか?」

 ナシオンの言葉にフィアナは首肯する。

 話を聞いたかぎりでは、ラクリーアは少なくともキアロに好意を寄せている。その好意がどういった種類のものであるかはわからないが、たびたび二人でいるところを目撃されているのだ。それに、専属護衛の話が出るくらいなのだから、二人の間には信頼関係も成り立っていたはずだろう。

 巫女たちから話を聞き終えたフィアナとナシオンは、大聖堂を後にする。案内してくれた名も知れぬ聖騎士には感謝の気持ちを示した。

「また、お話を伺うこともあるかもしれませんが……」

 フィアナの言葉に、聖騎士は「あなたが来てくださるなら、問題ありませんよ」と、意味ありげに微笑んだ。
 ナシオンと並んで、本部へと足を向ける。

「なんなんだ? あいつ。フィアナの知り合いなのか?」

 ナシオンの言う「あいつ」とは、先ほど大聖堂内を案内してくれたあの聖騎士のことだろう。そもそも最初に顔を合わせたときから、ナシオンは彼に対して不快感を示していた。

「知り合いと言いますか、一応、同じ騎士ですから。仕事で顔を合わせた程度です。ですから、名前は知りません」
 むしろナシオンだって、顔を合わせたことがあるのではないかと思うのだが、どうやら彼にとっては初対面の相手だったようだ。

 ナシオンと一緒に大聖堂関係者の捜査にあたるのは初めてのこと。フィアナがあの聖騎士と会ったのは、彼がここの本部をたまたま訪れたときに、たまたま案内しただけ。

 あのとき、彼がなんのために本部へ来たのかはわからない。ただ、彼も聖騎士でフィアナも女性騎士となれば、自然と話が弾んだ。

「ふん」

 フィアナの答えに納得がいったのかいかないのか、ナシオンは鼻息荒く返事をした。

「ナシオンさんは、どう思いましたか?」
「何がだ? あのいけ好かない聖騎士ヤローか?」
「ではなく、巫女たちのことです」
「ああ」

 納得したようにナシオンが頷く。

「嘘をついているようには思えなかった。だけど、何かを隠しているような感じがした」
「なるほど。さすが、ナシオンさんですね。話を聞いてはいたものの、違和感があって……それがきっと、隠し事を隠そうとしているからなのでしょうね……」

 それは、カリノも同じだ。何かを隠している。
 騎士団本部に戻ったフィアナは、すぐに報告書の作成に取りかかった。もちろん、夕方の会議で報告もしなければならないが、報告書としてタミオスにも提出しなければならない。

 カリノと同室だったメッサの話をまとめて、神聖力の表れる時期、その後、神託がおりる時期について記載する。
 それから巫女と上巫女の話、巫女たちの結婚観や、カリノの兄、キアロの居場所について。

 最後に、カリノが聖女を殺す動機について思い当たる巫女はいなかった。むしろ、巫女たちはカリノに聖女は殺せないのではと感じているようだ、と。

(巫女たちの起床時間は、朝の四時半。朝食は六時から。そしてカリノが東分所に出頭したのも朝の六時。メッサさんの証言と時間は合っている……)

 報告書を、もう一度読み直す。

(この時期の日の出は五時半ごろ。暗闇のなか、聖女様を殺して切り刻む。それをカリノさん一人で可能なのかしら?)

 時系列で考えたとしても、カリノがラクリーアを殺したのは真夜中だろう。メッサの話と出頭時間が考えれば、前日の夜の十時から朝の五時までが犯行時間にちがいあるまい。

(死亡推定時刻……何時だった?)
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