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第七章(2)
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カリノはまっすぐにシリウル公爵を見つめたまま、何も言わない。
「言いたくないことは言わなくても問題ありません。ですが、事実と異なることがあるのならば、はっきりと陳述するように」
「……はい」
裁判はシリウル公爵によって進行される。
「では、カリノさん。本件について何か言いたいことは?」
法廷内はしんと静まり返り、誰もがカリノの言葉を待っているように見えた。
フィアナは、騎士団の人間でありながらもカリノについて証言するため、大聖堂側の人間と共に座っていた。だからフィアナが前を見れば、騎士団総帥たちの顔がある。その顔は「なぜお前はそこにいる」と言っているように見えた。
この場にはナシオンやタミオスの姿はない。つまり騎士団の人間でフィアナの味方になってくれるような者はいないのだ。
「……わたし」
小さな身体が凛とした声色を発する。
「聖女ラクリーア様を殺していません」
どよどよとざわめきが生まれる。
「静粛に」
カツーンと木槌の音が響き、また静まり返る。
フィアナは傍聴席に座るアルテールにチラリと視線を向けた。彼は唇をまっすぐに結んで、カリノの後ろ姿を睨みつけている。
「カリノさん。それはどういう意味ですか?」
「言葉のとおりです。わたしは聖女様を殺していません。ただ、聖女様の首を切断したことだけは認めます」
またざわざわと傍聴席がどよめいた。
「つまり、聖女ラクリーアを殺した犯人は別にいるわけですね?」
「はい」
「あなたは、その犯人を知っていますか?」
「それは……」
シリウル公爵の追求にカリノは言い淀む。アルテールの名前をここで出していいかどうかを考えているのだろう。
「裁判長」
フィアナが手を挙げれば、その場にいる者たちの視線が一斉にフィアナに向いた。
「なぜカリノさんを移送したのか、それを彼らに聞くのが先ではないでしょうか」
フィアナは堂々と騎士団総帥を見据えた。
「なるほど。では、カリノさんを移送した理由を教えてください」
シリウル公爵の顔が騎士団側に向いたことで、フィアナはほっと胸をなでおろす。
「はい」
野太い声を発したのは、第一騎士団の団長である。
「本人の自供によるものです。彼女は、聖女を殺したと自首してきました。その後の取り調べでもその主張を貫きとおしたため、移送した次第です」
彼が言っていることは間違いではないし、移送の理由としても合っている。なによりも、あの場ではカリノ以外の犯人像が浮かび上がってこなかったのだから。
だがそれが巧みに隠されたものだとしたら。
あの場でそれを暴いたとしても、もみ消されるのが目に見えているのだとしたら。
むしろ真実を明らかにする勝負は、この場しかない。
高位貴族の中には、改革派の人間もいる。そんな彼らにとって、王族の失態は喉から手が出るほどほしい話題だ。
仮にここでアルテールが聖女殺しの犯人だとしたら、改革派の人間は一気に動き、国王から立法権を取り上げるだろう。
それを考えれば、貴族の中でも改革派の人間はこちらの味方となる。
「カリノさん。あなたは、自分が聖女を殺したと、伝えたのですね?」
シリウル公爵を見上げるカリノは、「はい」と首を縦に振る。
「どうして、その場で本当のこと――聖女を殺していないと伝えなかったのですか?」
この場にいる誰もがそう思っているだろう。なぜ最初に「殺していない」と言わなかったのか。
もちろんフィアナはその理由を知っているから、カリノの行動も理解できるのだが。
「……それは……そう、言われた、から……です」
カリノの歯切れが悪い。
「そう言われた?」
シリウル公爵も目をすがめる。
「はい……そう言わないと、わたしの大事な人を傷つけると……」
傍聴席が騒がしくなった。もちろん、この言葉に動揺を見せているのは騎士団の人間だろう。
「静粛に、静粛に」
「言いたくないことは言わなくても問題ありません。ですが、事実と異なることがあるのならば、はっきりと陳述するように」
「……はい」
裁判はシリウル公爵によって進行される。
「では、カリノさん。本件について何か言いたいことは?」
法廷内はしんと静まり返り、誰もがカリノの言葉を待っているように見えた。
フィアナは、騎士団の人間でありながらもカリノについて証言するため、大聖堂側の人間と共に座っていた。だからフィアナが前を見れば、騎士団総帥たちの顔がある。その顔は「なぜお前はそこにいる」と言っているように見えた。
この場にはナシオンやタミオスの姿はない。つまり騎士団の人間でフィアナの味方になってくれるような者はいないのだ。
「……わたし」
小さな身体が凛とした声色を発する。
「聖女ラクリーア様を殺していません」
どよどよとざわめきが生まれる。
「静粛に」
カツーンと木槌の音が響き、また静まり返る。
フィアナは傍聴席に座るアルテールにチラリと視線を向けた。彼は唇をまっすぐに結んで、カリノの後ろ姿を睨みつけている。
「カリノさん。それはどういう意味ですか?」
「言葉のとおりです。わたしは聖女様を殺していません。ただ、聖女様の首を切断したことだけは認めます」
またざわざわと傍聴席がどよめいた。
「つまり、聖女ラクリーアを殺した犯人は別にいるわけですね?」
「はい」
「あなたは、その犯人を知っていますか?」
「それは……」
シリウル公爵の追求にカリノは言い淀む。アルテールの名前をここで出していいかどうかを考えているのだろう。
「裁判長」
フィアナが手を挙げれば、その場にいる者たちの視線が一斉にフィアナに向いた。
「なぜカリノさんを移送したのか、それを彼らに聞くのが先ではないでしょうか」
フィアナは堂々と騎士団総帥を見据えた。
「なるほど。では、カリノさんを移送した理由を教えてください」
シリウル公爵の顔が騎士団側に向いたことで、フィアナはほっと胸をなでおろす。
「はい」
野太い声を発したのは、第一騎士団の団長である。
「本人の自供によるものです。彼女は、聖女を殺したと自首してきました。その後の取り調べでもその主張を貫きとおしたため、移送した次第です」
彼が言っていることは間違いではないし、移送の理由としても合っている。なによりも、あの場ではカリノ以外の犯人像が浮かび上がってこなかったのだから。
だがそれが巧みに隠されたものだとしたら。
あの場でそれを暴いたとしても、もみ消されるのが目に見えているのだとしたら。
むしろ真実を明らかにする勝負は、この場しかない。
高位貴族の中には、改革派の人間もいる。そんな彼らにとって、王族の失態は喉から手が出るほどほしい話題だ。
仮にここでアルテールが聖女殺しの犯人だとしたら、改革派の人間は一気に動き、国王から立法権を取り上げるだろう。
それを考えれば、貴族の中でも改革派の人間はこちらの味方となる。
「カリノさん。あなたは、自分が聖女を殺したと、伝えたのですね?」
シリウル公爵を見上げるカリノは、「はい」と首を縦に振る。
「どうして、その場で本当のこと――聖女を殺していないと伝えなかったのですか?」
この場にいる誰もがそう思っているだろう。なぜ最初に「殺していない」と言わなかったのか。
もちろんフィアナはその理由を知っているから、カリノの行動も理解できるのだが。
「……それは……そう、言われた、から……です」
カリノの歯切れが悪い。
「そう言われた?」
シリウル公爵も目をすがめる。
「はい……そう言わないと、わたしの大事な人を傷つけると……」
傍聴席が騒がしくなった。もちろん、この言葉に動揺を見せているのは騎士団の人間だろう。
「静粛に、静粛に」
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