結婚当日に夫が愛人を紹介してきたから、ヤケで愛人募集したら王弟殿下が志願してきた件。

澤谷弥(さわたに わたる)

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第一章(8)

 生徒会の改選により、副会長と庶務だったアーヴィンと私は会長と書記になり、三年生は引退した。その代わり選ばれた一年生が生徒会役員の一員となった。ちなみにここにクラス委員長が混ざって、中央委員と呼ばれていた。

「俺としてはイレーヌのほうが会長にふさわしいと思うのだが?」

 生徒会役員が主催する大きなイベントは年に三つある。入学式直後の新入生歓迎パーティー、文化祭、そして卒業パーティー。文化祭が終わった後に三年生が引退するため、改選はこの時期になる。

 となれば、新生徒会で初めての大きなイベントが卒業パーティーとなるわけで、失敗はできないと気合いが入っていて、今もその卒業パーティーについての予算を計算していたところだった。

「どうしたの? 突然……」
「いや、君のほうが成績はいいし……。他の生徒も何かあればすぐに君を頼るだろう? となれば、やはり会長にふさわしいのはイレーヌだったのでは? と」

 しゅんと肩を丸めるアーヴィンは、そのまま頭を抱えくしゃりと髪を掴んだ。指の隙間からは、銀青の髪がはみ出た。

 彼は、自信を失っている。やらなければならない案件が山積みになっていて、余裕がなければ誰だって弱気になってしまう。

「何を言ってるのよ。あなたには私にないカリスマ性があるのよ」

 他国の言葉を使って励ますと、アーヴィンもその意味を理解したらしい。

「君は、人をおだてるのがうまい」
「えぇ、そうね。おだってもらわないと、この仕事が終わらないもの」

 隣に座るアーヴィンの前に卒業パーティーの計画書をトンと置けば、彼も顔をしかめる。

「急に、現実を突きつけられた気分だ」
「気分ではなくて、突きつけたの。準備物の手配に、それにかかる費用。ここは早めにやっておかないと、後で泣く羽目になるわよ?」
「そのときは、イレーヌに励ましてもらう」

 窓から差し込む夕日がアーヴィンの髪を橙色に染め、私の鼓動は少しだけ乱れる。

「もう」

 笑いながら彼に視線を向ければ、目が合った。彼の紫眼は私を真っすぐに見ていて、その熱い眼差しから逃れられない。

「……イレーヌ」

 鼓膜を震わせるような彼の声は、私の心臓をうるさくする。

「……いや、なんでもない。とにかく、これを確認すればいいんだな?」

 ピリッと張り詰めた空気を一気にやわらげるように、アーヴィンは明るい声を張り上げてから資料を手にした。

 その様子を見て、彼に悟られぬようにほっと息をつく。
 最近、アーヴィンの表情で心が揺さぶられるようになり、それを強く意識するようになった。彼が困っていたら力になりたいし、喜んでいたら私も嬉しくなる。

 こうやって共に生徒会の仕事をこなしたり勉強をしたりする時間は、互いに互いの能力を高め合える貴重な時間でもあり、だからいつまでもこの時間が続けばいいと、恐れ多くも思っている。

 それでも学園を卒業してしまえば、彼は王族として国王陛下を支える立場にあり、私は家の利益になるような男性と結婚をするのだろう。まだ、結婚相手は決まっていないけれど、それは両親がどこかで話をしているはず。

 幼い時から婚約者が決まっている者もいるが、それは家同士で仲が良かったとか、特別な事情がある。また学園で出会って意気投合して婚約まで至ったという場合もある。

 残念ながら私には、そういった特別仲の良い異性は、学園に入学するまではいなかった。そのため私にとっての仲の良い異性となればアーヴィンになってしまう。

 異性に免疫がないからこそ、アーヴィンを特別視してしまうのかもしれない。彼は気さくではあるけれど王族であるし、他人と程よい距離感を保ちつつも絶大なる信頼を得ている。今は学園にいて「平等」という教えの下にいるから、私もアーヴィンと気軽に話ができるけれど、卒業したらどうなるのだろう。

 となれば、やはりこのときが永遠に続けばいいと、叶わない夢をみてしまうのだ。

 それでも時とは無情であり、私も三年に進級し、生徒会も引退し、卒業する日を数日後に迎える日となった。
 図書室から本を借りるのもこれで最後だと、返却の手続きをして図書室から出たとき、アーヴィンが廊下に立っていた。

「あなたも本を返しにきたの?」
「ちがう、君を待っていた。少し、話せないか? 確認したいことがあるんだ」

 廊下を進み、人けのない踊り場へと向かう。採光用の窓からは、太陽の光が降り注ぎ、まるでスポットライトを浴びるような場所だ。

「それで、確認したいことって何?」
「イレーヌ……」

 私の名を呼ぶ彼の唇は震えていた。

「シオドア・ポーレットと婚約したというのは、本当なのか?」

 心臓がぎゅっとわしづかみにされたくらい、苦しくなった。
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