7 / 7
7.
しおりを挟む
「あ、すみません。メルリラさん。こちら、僕の養父であるイドリス公爵、フェイビアンです」
「養父、イドリス公爵……って、フェイ。あなた、公爵様だったの? しかも子持ち?」
私の声に、フェイビアンは深くうなだれた。
「というわけで、邪魔者は消えますので、あとはお二人でどうぞ。あ、そうそう、メルリラさん。勘違いしていると思うので、言っておきますが。僕はメルリラさんと家族になりたいと言っただけで、結婚したいとは言ってませんので」
――騙された!
いや、違う。私が勝手に勘違いしただけだ。
でも、あの状況で家族になりたいと言われたら、求婚だって思うじゃない。
年の差もばっちり確認されたし。って、それはもしかして、親子としての年の差だったのだろうか。
いや、でも――。
「ハリソン様!」
二人きりにしないでと思って助けを呼んだが、ハリソンの姿はもう見えなかった。子どもはすばしっこい。
困って目の前に立つフェイビアンを見上げると、また目が合った。
「座っても……いいだろうか?」
「あ、はい……」
「まぁ、あれ、だ。その……ハリソンが世話になった」
「い、いえ……」
「ハリソンは姉の子だ。姉夫婦が北部へ視察に向かったときに、魔獣の群れに襲われて、それで姉夫婦は命を失った」
聖女の力だって万能ではない。魔獣を防ぐための結界を定期的に張ってはいるが、その結界にほころびがあれば、魔獣が襲ってくる。フェイビアンの姉夫婦は、その結界のほころびから入り込んだ魔獣に襲われてしまったのだ。
「だから、残されたハリソンを俺が引き取った。俺が聖騎士になろうと思ったのもそれがきっかけだ」
いきなりフェイビアンの身の上話が始まった。
「あれ? フェイはもしかして……聖力があったのに、隠していたタイプ?」
たまにいる。聖力が出現しても、神殿に入りたくないからという理由で隠す人が。特に、彼のようにお貴族様だとその傾向が強い。私やサアラのように身分が低い者としては、貴族の仲間入りができるから、それだけでうま味があるのだが。
それでも結婚についてこれほど障害があるのは盲点だった。すべては今までの慣例のせいだ。
「そうだ。それで、その……おまえの婚活はうまくいっていないのか?」
「そうですねぇ? 元聖女っていうだけで、傷もの扱いですよ。失礼だと思いません?」
「傷もの……なのか?」
「そんなわけないでしょう? 今までの慣例がそうさせているんです。聖女は聖騎士のものだって。お務めが終わったら、幸せな結婚を夢見ていたのに、私の希望は全部パァですよ」
こうやって彼に愚痴を言うのは半年ぶりだ。悪い気はしない。
だが、一度口にしてしまったら、箍が外れたかのようにどどっと次から次へと愚痴が出てくる。それはすべて婚活失敗談。
「悪かったな。俺のせいで」
元聖女が結婚できないのは、専属聖騎士が側にいすぎたせいだ。いや、それでも私たちは適度な距離を保っていた。
聖力回復のために身体を重ねることもなかったし、粘膜接触とされる口づけすらしていない。
何よりも私の聖力回復方法は、寝ること。文字通りに眠ること。
フェイビアンは、私の聖力が回復するまで手を繋いでくれた。それは私が眠りこけてしまった後も。フェイビアンも私と手を繋いだまま眠ることもあった。そうやって繋いだところから互いに聖力を高め合うのだ。
「そうですよ。悪かったと思っているなら、責任を取ってくれませんかね?」
「いや、だが……俺と結婚すればすぐに母親になってしまう」
彼は間違いなくハリソンのことを言っている。
「でも、ハリソン様は言っていましたよね? ハリソン様の存在がフェイの気持ちを邪魔するなら、息子を辞めるって……それでもいいんですか?」
「それは、困る。だが、しかし――」
意外とフェイビアンは優柔不断だった。もしかして、魔獣がいるときといないとき、いや魔獣に関する内容とそうでないときでは、人格が変わるのだろうか。
「私は、ハリソン様から家族になってほしいと言われ、それを承諾しております。って、意味、わかりますぅ?」
サアラのように語尾を伸ばして、上目遣いで問いかけてみると、フェイビアンは観念したように唸る。
「わかった……ここは腹をくくるところだな」
さぁっと心地よい風が庭の花を揺らし、彼の低音の声も風に乗る。
冷酷な彼だと思っていたのに、姉夫婦の息子を引き取っていた。それに今だって、黙って私の愚痴を聞いてくれた。
魔獣討伐においての相性は最悪だった。いや、互いの命に関わる場所だからこそ、厳しくなっていたのだ。魔獣によって家族を失った経験がある彼だからこそ、なおのこと。
だけど、それ以外は意外とうまくいっていたと思う。言い合いは多かった。それもあって周囲からは仲の悪い二人と思われていた。
言い合いができるのも彼を信頼しているからだと気づいたのは、聖女を辞めてからだった。
近くにいるときには気づかなかったのに、離れてからわかることはたくさんあった。
私は、フェイビアンに好意を寄せていたのだ。
それに気づいた私は、彼の言葉に対して「はい」とうつむいて答えていた。
【完】
「養父、イドリス公爵……って、フェイ。あなた、公爵様だったの? しかも子持ち?」
私の声に、フェイビアンは深くうなだれた。
「というわけで、邪魔者は消えますので、あとはお二人でどうぞ。あ、そうそう、メルリラさん。勘違いしていると思うので、言っておきますが。僕はメルリラさんと家族になりたいと言っただけで、結婚したいとは言ってませんので」
――騙された!
いや、違う。私が勝手に勘違いしただけだ。
でも、あの状況で家族になりたいと言われたら、求婚だって思うじゃない。
年の差もばっちり確認されたし。って、それはもしかして、親子としての年の差だったのだろうか。
いや、でも――。
「ハリソン様!」
二人きりにしないでと思って助けを呼んだが、ハリソンの姿はもう見えなかった。子どもはすばしっこい。
困って目の前に立つフェイビアンを見上げると、また目が合った。
「座っても……いいだろうか?」
「あ、はい……」
「まぁ、あれ、だ。その……ハリソンが世話になった」
「い、いえ……」
「ハリソンは姉の子だ。姉夫婦が北部へ視察に向かったときに、魔獣の群れに襲われて、それで姉夫婦は命を失った」
聖女の力だって万能ではない。魔獣を防ぐための結界を定期的に張ってはいるが、その結界にほころびがあれば、魔獣が襲ってくる。フェイビアンの姉夫婦は、その結界のほころびから入り込んだ魔獣に襲われてしまったのだ。
「だから、残されたハリソンを俺が引き取った。俺が聖騎士になろうと思ったのもそれがきっかけだ」
いきなりフェイビアンの身の上話が始まった。
「あれ? フェイはもしかして……聖力があったのに、隠していたタイプ?」
たまにいる。聖力が出現しても、神殿に入りたくないからという理由で隠す人が。特に、彼のようにお貴族様だとその傾向が強い。私やサアラのように身分が低い者としては、貴族の仲間入りができるから、それだけでうま味があるのだが。
それでも結婚についてこれほど障害があるのは盲点だった。すべては今までの慣例のせいだ。
「そうだ。それで、その……おまえの婚活はうまくいっていないのか?」
「そうですねぇ? 元聖女っていうだけで、傷もの扱いですよ。失礼だと思いません?」
「傷もの……なのか?」
「そんなわけないでしょう? 今までの慣例がそうさせているんです。聖女は聖騎士のものだって。お務めが終わったら、幸せな結婚を夢見ていたのに、私の希望は全部パァですよ」
こうやって彼に愚痴を言うのは半年ぶりだ。悪い気はしない。
だが、一度口にしてしまったら、箍が外れたかのようにどどっと次から次へと愚痴が出てくる。それはすべて婚活失敗談。
「悪かったな。俺のせいで」
元聖女が結婚できないのは、専属聖騎士が側にいすぎたせいだ。いや、それでも私たちは適度な距離を保っていた。
聖力回復のために身体を重ねることもなかったし、粘膜接触とされる口づけすらしていない。
何よりも私の聖力回復方法は、寝ること。文字通りに眠ること。
フェイビアンは、私の聖力が回復するまで手を繋いでくれた。それは私が眠りこけてしまった後も。フェイビアンも私と手を繋いだまま眠ることもあった。そうやって繋いだところから互いに聖力を高め合うのだ。
「そうですよ。悪かったと思っているなら、責任を取ってくれませんかね?」
「いや、だが……俺と結婚すればすぐに母親になってしまう」
彼は間違いなくハリソンのことを言っている。
「でも、ハリソン様は言っていましたよね? ハリソン様の存在がフェイの気持ちを邪魔するなら、息子を辞めるって……それでもいいんですか?」
「それは、困る。だが、しかし――」
意外とフェイビアンは優柔不断だった。もしかして、魔獣がいるときといないとき、いや魔獣に関する内容とそうでないときでは、人格が変わるのだろうか。
「私は、ハリソン様から家族になってほしいと言われ、それを承諾しております。って、意味、わかりますぅ?」
サアラのように語尾を伸ばして、上目遣いで問いかけてみると、フェイビアンは観念したように唸る。
「わかった……ここは腹をくくるところだな」
さぁっと心地よい風が庭の花を揺らし、彼の低音の声も風に乗る。
冷酷な彼だと思っていたのに、姉夫婦の息子を引き取っていた。それに今だって、黙って私の愚痴を聞いてくれた。
魔獣討伐においての相性は最悪だった。いや、互いの命に関わる場所だからこそ、厳しくなっていたのだ。魔獣によって家族を失った経験がある彼だからこそ、なおのこと。
だけど、それ以外は意外とうまくいっていたと思う。言い合いは多かった。それもあって周囲からは仲の悪い二人と思われていた。
言い合いができるのも彼を信頼しているからだと気づいたのは、聖女を辞めてからだった。
近くにいるときには気づかなかったのに、離れてからわかることはたくさんあった。
私は、フェイビアンに好意を寄せていたのだ。
それに気づいた私は、彼の言葉に対して「はい」とうつむいて答えていた。
【完】
951
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(6件)
あなたにおすすめの小説
【完結】余命半年の元聖女ですが、最期くらい騎士団長に恋をしてもいいですか?
金森しのぶ
恋愛
神の声を聞く奇跡を失い、命の灯が消えかけた元・聖女エルフィア。
余命半年の宣告を受け、静かに神殿を去った彼女が望んだのは、誰にも知られず、人のために最後の時間を使うこと――。
しかし運命は、彼女を再び戦場へと導く。
かつて命を賭して彼女を守った騎士団長、レオン・アルヴァースとの再会。
偽名で身を隠しながら、彼のそばで治療師見習いとして働く日々。
笑顔と優しさ、そして少しずつ重なる想い。
だけど彼女には、もう未来がない。
「これは、人生で最初で最後の恋でした。――でもそれは、永遠になりました。」
静かな余生を願った元聖女と、彼女を愛した騎士団長が紡ぐ、切なくて、温かくて、泣ける恋物語。
余命×再会×片恋から始まる、ほっこりじんわり異世界ラブストーリー。
初恋をこじらせたやさぐれメイドは、振られたはずの騎士さまに求婚されました。
石河 翠
恋愛
騎士団の寮でメイドとして働いている主人公。彼女にちょっかいをかけてくる騎士がいるものの、彼女は彼をあっさりといなしていた。それというのも、彼女は5年前に彼に振られてしまっていたからだ。ところが、彼女を振ったはずの騎士から突然求婚されてしまう。しかも彼は、「振ったつもりはなかった」のだと言い始めて……。
色気たっぷりのイケメンのくせに、大事な部分がポンコツなダメンズ騎士と、初恋をこじらせたあげくやさぐれてしまったメイドの恋物語。
*この作品のヒーローはダメンズ、ヒロインはダメンズ好きです。苦手な方はご注意ください
この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです
石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。
聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。
やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。
女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。
素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。
【完結】兄様が果てしなくアレなのですけど、伯爵家の将来は大丈夫でしょうか?
まりぃべる
恋愛
サンクレバドラー伯爵家は、果てしなくアレな兄と、私レフィア、それから大変可愛らしくて聡明な妹がおります。
果てしなくアレな兄は、最近家で見かけないのです。
お母様は心配されてますよ。
遊び歩いている兄様…伯爵家は大丈夫なのでしょうか?
☆この作品での世界観です。現実と違う場合もありますが、それをお考えいただきましてお読み下さると嬉しいです。
聖女の力に目覚めた私の、八年越しのただいま
藤 ゆみ子
恋愛
ある日、聖女の力に目覚めたローズは、勇者パーティーの一員として魔王討伐に行くことが決まる。
婚約者のエリオットからお守りにとペンダントを貰い、待っているからと言われるが、出発の前日に婚約を破棄するという書簡が届く。
エリオットへの想いに蓋をして魔王討伐へ行くが、ペンダントには秘密があった。
「醜い」と婚約破棄された銀鱗の令嬢、氷の悪竜辺境伯に嫁いだら、呪いを癒やす聖女として溺愛されました
黒崎隼人
恋愛
「醜い銀の鱗を持つ呪われた女など、王妃にはふさわしくない!」
衆人環視の夜会で、婚約者の王太子にそう罵られ、アナベルは捨てられた。
実家である公爵家からも疎まれ、孤独に生きてきた彼女に下されたのは、「氷の悪竜」と恐れられる辺境伯・レオニールのもとへ嫁げという非情な王命だった。
彼の体に触れた者は黒い呪いに蝕まれ、死に至るという。それは事実上の死刑宣告。
全てを諦め、死に場所を求めて辺境の地へと赴いたアナベルだったが、そこで待っていたのは冷徹な魔王――ではなく、不器用で誠実な、ひとりの青年だった。
さらに、アナベルが忌み嫌っていた「銀の鱗」には、レオニールの呪いを癒やす聖なる力が秘められていて……?
殿下、私の身体だけが目当てなんですね!
石河 翠
恋愛
「片付け」の加護を持つ聖女アンネマリーは、出来損ないの聖女として蔑まれつつ、毎日楽しく過ごしている。「治癒」「結界」「武運」など、利益の大きい加護持ちの聖女たちに辛く当たられたところで、一切気にしていない。
それどころか彼女は毎日嬉々として、王太子にファンサを求める始末。王太子にポンコツ扱いされても、王太子と会話を交わせるだけでアンネマリーは満足なのだ。そんなある日、お城でアンネマリー以外の聖女たちが決闘騒ぎを引き起こして……。
ちゃらんぽらんで何も考えていないように見えて、実は意外と真面目なヒロインと、おバカな言動と行動に頭を痛めているはずなのに、どうしてもヒロインから目を離すことができないヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID29505542)をお借りしております。
婚約者から悪役令嬢と呼ばれた自称天使に、いつの間にか外堀を埋められた。
石河 翠
恋愛
王都で商人をしているカルロの前に、自称天使の美少女が現れた。彼女はどうやら高位貴族のご令嬢らしいのだが、かたくなに家の名前を口に出そうとはしない。その上、勝手に居候生活を始めてしまった。
カルロとともに過ごすうちに、なぜ家出をしたのかを話し始める少女。なんと婚約者に「お前を愛することはない」と言われてしまい、悪役令嬢扱いされたあげく、婚約解消もできずに絶望したのだという。
諦めた様子の彼女に、なぜか腹が立つカルロ。彼は協力を申し出るが、カルロもまた王族から脅しを受けていて……。
実は一途で可愛らしいヒロインと、したたかに見えて結構お人好しなヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:3761606)をお借りしております。
こちらは、『婚約者から悪役令嬢と呼ばれた公爵令嬢は、初恋相手を手に入れるために完璧な淑女を目指した。』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/572212123/582918342)のヒーロー視点のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
ご感想ありがとうございます。
6歳児が活躍してくれました!!
ご感想ありがとうございます。
こちらの作品にまで、嬉しいです。
これも長編にしたいネタなので、今、大事に温めてます。
ご感想ありがとうございます。
思い付きの勢いだけのお話に、ここまで思っていただけて嬉しいです。
R18にするかどうか、今はそれが一番の悩みかもしれません……(笑)