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5:大好きなお姉さまと隣国へいきます(2)
さとうきびは、植え付けから収穫までに一年から一年半ほどかかる。
収穫時期は、冬の三、四か月ほど。冬といってもフェルトンには雪が降らず、気温が下がって、空気が乾燥するだけ。
となれば、砂糖作りも収穫期の冬場が忙しくなるはず。
しかし、それは原料糖を作ることで、収穫期と生産時期の差をなくすことができるのだ。つまり冬場に一気に砂糖を作るのではなく、原料糖にしておくことで、一年中、砂糖の生産が可能となる。
その事業計画を立てたところで、エレノアも気がついた。
砂糖の需要が増えつつあるなか、フェルトンの者による作業だけでは追い付かない。だから父、ケアード公爵が言ったように隣国のロックウェル王国の力を借りるのが妥当であると判断した。
フェルトンで原料糖を作り、ロックウェル王国にまで運ぶ。そしてロックウェル王国で白い砂糖を作ればいい。
それによって、フェルトンではさとうきびの栽培、管理に力を入れることができる。
また今までは収穫期のさとうきびにモリスが魔法をかけ、その状態を維持していた。
しかし、味のよい砂糖を作るには、魔法は使わないほうがいいと、モリスは言う。今はまだ、砂糖事業も立ち上げ段階だから精霊たちも力を貸してくれるが、儲けに走り出したら精霊たちが逃げ、一気に魔法の効果もなくなってしまうだろうと。
エレノアとしては、もちろんフェルトンのためには稼ぎはあったほうがいいとは思いつつも、砂糖を必要とする人に届けたいという気持ちのほうが強かった。
だからそのためにも、さとうきびの栽培においては、極力魔法を使いたくない。
「そういうわけで、ロックウェルに行くことにしたわ。予定では十日後に出るわ」
エレノアがそう言ったのは、教会で彼女の誕生日を祝って一か月が経ち、ちょうど彼女が学園を卒業して一年が過ぎた頃。姉妹二人で仲良く、朝食をとっていたときだった。
「んぐっ」
唐突な話に、パンを食べていたセシリアは思わず喉に詰まらせそうになった。慌てて牛乳を飲む。
「ふぅ。お姉さま、どうしてそんなに急に?」
「急ではないでしょう? ロックウェルの人も、こちらの工場で受け入れているし。やはりわたくしがロックウェルに行くことで、ロックウェルとの信頼関係が築けると思うの」
以前から、ロックウェル王国に行く行くと言っていたエレノアだ。それが十日後に決まっただけだというのに、セシリアの気持ちは複雑だった。
「向こうに滞在するのは、以前も言っていたように一か月ね。セシリアはどうする?」
エレノアはこうやってセシリアの意見を尊重してくれる。だが、セシリアの答えは決まっていた。
「もちろん行きます!」
「セシリアならそう言うと思っていたわ。早速、準備にとりかかりましょうね」
エレノアもほっと安心したのか、口元がゆるむ。
「お姉さま。モリスにも伝えておきますね」
「そうね。でも無理強いをしてはいけないわ」
「でも今なら、モリスがここにいなくても大丈夫なときです。収穫時期が過ぎてしまえば、さとうきびの品質も劣化してしまうので、モリスの魔法が必要ですけど」
「ま、あとはモリスの気分次第ね」
モリスは気分屋でもあるため、むしろそれが問題だった。
朝食を終え、エレノアは執務室へと引き上げる。それもさとうきび事業のためだ。
さとうきびの収穫量を確認し、そこから原料糖と原料糖にはせずに黒糖にする量を算出。また、砂糖の売り上げから、次のさとうきびの作付けなども考える。
毎日上がってくる報告をまとめるのがエレノアの仕事でもあるが、一か月不在にするため、この仕事を誰かに引き継がねばならない。
セシリアはさとうきびを用いて何かを作るという案を出すのは得意だが、数字はあまり好きではなかった。
だからエレノアが執務室にこもって数字でにらめっこしている間、セシリアは厨房で新しい砂糖菓子を考えたり、モリスと一緒にさとうきび畑に行ったり、教会や工場に足を運んだりしている。
しかし今日は、十日後に備えて計画を練っておきたい。
ロックウェル王国で砂糖事業に出資してくれるのはコンスタッドだ。そしてコンスタッドはエレノアに求婚した。いや、結婚前提のお付き合いを前提としたデートのお誘いをしている。
セシリアがエレノアに同行するのは、ロックウェル王国での砂糖製造が気になるのはもちろんのことだが、むしろエレノアとコンスタッドの仲が気になるからでもある。
エレノアの相手としてコンスタッドは申し分ない。だが、いかんせん隣国の人間だ。
そしてセシリアはエレノアと一緒にいたい。そんな複雑な想いがあった。
だからエレノアがロックウェル王国を訪れたことで、二人の仲が一気に進展して結婚しますという流れが怖い。
セシリアは、エレノアとコンスタッドが結婚して一緒にいられる方法はあるのだろうかと悩んでいるのだが、今のところ、いい案は思い浮かんでいない。
収穫時期は、冬の三、四か月ほど。冬といってもフェルトンには雪が降らず、気温が下がって、空気が乾燥するだけ。
となれば、砂糖作りも収穫期の冬場が忙しくなるはず。
しかし、それは原料糖を作ることで、収穫期と生産時期の差をなくすことができるのだ。つまり冬場に一気に砂糖を作るのではなく、原料糖にしておくことで、一年中、砂糖の生産が可能となる。
その事業計画を立てたところで、エレノアも気がついた。
砂糖の需要が増えつつあるなか、フェルトンの者による作業だけでは追い付かない。だから父、ケアード公爵が言ったように隣国のロックウェル王国の力を借りるのが妥当であると判断した。
フェルトンで原料糖を作り、ロックウェル王国にまで運ぶ。そしてロックウェル王国で白い砂糖を作ればいい。
それによって、フェルトンではさとうきびの栽培、管理に力を入れることができる。
また今までは収穫期のさとうきびにモリスが魔法をかけ、その状態を維持していた。
しかし、味のよい砂糖を作るには、魔法は使わないほうがいいと、モリスは言う。今はまだ、砂糖事業も立ち上げ段階だから精霊たちも力を貸してくれるが、儲けに走り出したら精霊たちが逃げ、一気に魔法の効果もなくなってしまうだろうと。
エレノアとしては、もちろんフェルトンのためには稼ぎはあったほうがいいとは思いつつも、砂糖を必要とする人に届けたいという気持ちのほうが強かった。
だからそのためにも、さとうきびの栽培においては、極力魔法を使いたくない。
「そういうわけで、ロックウェルに行くことにしたわ。予定では十日後に出るわ」
エレノアがそう言ったのは、教会で彼女の誕生日を祝って一か月が経ち、ちょうど彼女が学園を卒業して一年が過ぎた頃。姉妹二人で仲良く、朝食をとっていたときだった。
「んぐっ」
唐突な話に、パンを食べていたセシリアは思わず喉に詰まらせそうになった。慌てて牛乳を飲む。
「ふぅ。お姉さま、どうしてそんなに急に?」
「急ではないでしょう? ロックウェルの人も、こちらの工場で受け入れているし。やはりわたくしがロックウェルに行くことで、ロックウェルとの信頼関係が築けると思うの」
以前から、ロックウェル王国に行く行くと言っていたエレノアだ。それが十日後に決まっただけだというのに、セシリアの気持ちは複雑だった。
「向こうに滞在するのは、以前も言っていたように一か月ね。セシリアはどうする?」
エレノアはこうやってセシリアの意見を尊重してくれる。だが、セシリアの答えは決まっていた。
「もちろん行きます!」
「セシリアならそう言うと思っていたわ。早速、準備にとりかかりましょうね」
エレノアもほっと安心したのか、口元がゆるむ。
「お姉さま。モリスにも伝えておきますね」
「そうね。でも無理強いをしてはいけないわ」
「でも今なら、モリスがここにいなくても大丈夫なときです。収穫時期が過ぎてしまえば、さとうきびの品質も劣化してしまうので、モリスの魔法が必要ですけど」
「ま、あとはモリスの気分次第ね」
モリスは気分屋でもあるため、むしろそれが問題だった。
朝食を終え、エレノアは執務室へと引き上げる。それもさとうきび事業のためだ。
さとうきびの収穫量を確認し、そこから原料糖と原料糖にはせずに黒糖にする量を算出。また、砂糖の売り上げから、次のさとうきびの作付けなども考える。
毎日上がってくる報告をまとめるのがエレノアの仕事でもあるが、一か月不在にするため、この仕事を誰かに引き継がねばならない。
セシリアはさとうきびを用いて何かを作るという案を出すのは得意だが、数字はあまり好きではなかった。
だからエレノアが執務室にこもって数字でにらめっこしている間、セシリアは厨房で新しい砂糖菓子を考えたり、モリスと一緒にさとうきび畑に行ったり、教会や工場に足を運んだりしている。
しかし今日は、十日後に備えて計画を練っておきたい。
ロックウェル王国で砂糖事業に出資してくれるのはコンスタッドだ。そしてコンスタッドはエレノアに求婚した。いや、結婚前提のお付き合いを前提としたデートのお誘いをしている。
セシリアがエレノアに同行するのは、ロックウェル王国での砂糖製造が気になるのはもちろんのことだが、むしろエレノアとコンスタッドの仲が気になるからでもある。
エレノアの相手としてコンスタッドは申し分ない。だが、いかんせん隣国の人間だ。
そしてセシリアはエレノアと一緒にいたい。そんな複雑な想いがあった。
だからエレノアがロックウェル王国を訪れたことで、二人の仲が一気に進展して結婚しますという流れが怖い。
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