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3:大好きなお姉さまに新しい出会いがありました(4)
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屋敷へとやってきたモリスは、まずは風呂に入って着替えた。その風呂もモリスが自分で水をためてお湯にしたが、すべて魔法によるもの。手際のよさに、エレノアでさえ感嘆の声を漏らすほど。
モリスが風呂で汚れと疲れを落としている間、着替えを準備したのはアニーだ。道ばたにバタッと倒れていた女性が賢者だと聞いて、そわそわしていた。
そんなモリスは侍女のお仕着せ姿で、食べ物がたくさん並んだテーブルについた。もちろん、そこにはエレノアとセシリアの姿もある。
「わたくしたちもこれから朝食でしたから」
「本当にありがとう。エレノア、セシリア。私、お腹がペコペコで……いただきます!」
出会ったときからお腹をぐぅぐぅと鳴らしていたのに、食事の場にふさわしい格好をしていないという理由で、きちんと湯を浴びて着替えたモリスを褒めてあげたい。
セシリアはあたたかいコーヒー牛乳をごくりと飲んだ。砂糖もいれてあって、甘くて香ばしくて美味しい。
「このパン。かわっているね?」
モリスが食パンを手にした。食パンもセシリアの謎の記憶をもとにジョゼフに作ってもらったパン。
セシリアの説明もとにエレノアが絵を描き、それを見たジョゼフが「こんな感じでしょうか?」と試作品を作って、それを何度か繰り返してできあがったのがこの食パンだ。
両面をこんがりと焼いて、バターやジャムをたっぷり塗ってもいいし、卵料理をのせて食べても絶品である。
それでもセシリアは食パンを食パンと呼んでいいか悩んだ。しかし謎の記憶が食パンだというから、セシリアの周辺では食パン呼びが浸透している。
「それに、何? この牛乳。牛乳なのに色がついているし、甘い」
モリスが大絶賛したのは、セシリアもお気に入りのコーヒー牛乳。
「それはコーヒー牛乳です」
自分の好物を褒められると嬉しくなるもの。
「牛乳にコーヒーを混ぜました」
「コーヒー?」
「はい。フェルトンの街で昔から飲んでいる、豆を炒って作った飲み物です。みんな苦いお茶と言っていたので、コーヒーという名前をつけました」
「へぇ~茶葉じゃなくて豆ね。それに……甘いのよ。この甘さが疲れた身体に染み渡るわ~」
セシリアが砂糖について説明しようとしたとき、エレノアが視線を向けてきた。こうやってセシリアが調子にのって喋りすぎると、エレノアが止める。
セシリアは、見た目は七歳の女の子。過去視や未来視によって得た知識をむやみやたら口にするなと、姉からは何度も注意されているのだが、調子にのって話してしまうこともしばしば。
「先ほど、モリスが倒れていたところの近くに、大きな草が生えていたでしょう?」
セシリアの言葉の続きをエレノアが奪った。そしていつまでたっても、さとうきびは大きな草扱い。
「あぁ……あったね、背の高い草だね」
「あの草から、砂糖と呼ばれる調味料を、ここで作っているのです。こちらのコーヒー牛乳にはその砂糖が入っています」
「甘い調味料? 砂糖? 初めてきいたわ。もうとにかく、ここの料理はどれも美味しい」
モリスの手も口も忙しなく動いていた。
だけどお腹がいっぱいになった頃、ぱたりとその手が止まる。
「あぁ、もう。最高! そういうわけでセシリア。あなた、私の弟子にならない? そうすれば私も、ここにいる口実ができる」
モリスはにやりと笑ってみせるが、セシリアはきょとんとする。思わず、手にしていたパンをぽとっと落としてしまったほど。
「モリス。弟子とはどういうことでしょうか?」
呆けているセシリアにかわって、エレノアが説明を求める。
「いや、言葉のそのまんまの意味なんだけど。今までは隣のロックウェルの子どもに魔法を教えていたのよ。だけどその子ももうひとり立ちできるようになったからね。それで私は精霊に導かれて、アッシュクロフに来たってわけ。本当は王都に向かうはずだったんだけど……まぁ、そこなら人もいっぱいいるし、学園もあるっていうのが理由なんだけど。だけど、その途中で道に迷ってここにいる。さらにここには面白い子がいて、弟子にしたいと思ったら、何も王都まで行く必要はない」
セシリアだって魔法を教えてもらいたいお年頃だ。以前は母親のシンシアに、そして次は学園を卒業したエレノアに教えてもらってはいたけれど、今では母親は本邸にいるし姉は領主代理の仕事で忙しい。
学園には十二歳から通えるものの、それだってあと四年もあるし、今となっては学園に通いたいとも思わない。理由はエレノアがいないから。そして王都にはジェラルドとイライザがいる。セシリアにとっても、できることなら顔を合わせたくない二人でもある。
エレノアは黙り込んで何やら考え込んでいるが、モリスはコーヒー牛乳をおかわりして、がぶがぶ飲んでいる。
「お姉さま。セシリアはモリスに魔法を教えてもらいたいです。だってモリスは賢者様ですよね?」
「……そうね」
そう呟くエレノアだが、それはあきらめと期待が混じるような微妙な声色だった。むしろエレノア自身に言い聞かせるような決意にもとれる。
「わかったわ。モリス、セシリアに魔法を教えていただけるかしら? セシリアはまだ特定の精霊とは契約をしていないのだけれど」
「まかせておきなさい」
モリスが胸を張って、とんと叩く。
「それから、モリスにはもう一つお願いしたいことがあるのですが」
「なに? もうエレノアのお願いごとならなんでもきいちゃう。あそこで君たちに出会わなかったら、私は野垂れ死ぬところだったよ。そういった意味では、エレノアたちは命の恩人だ」
おおげさね、と前置きをつけ、エレノアは凜とした声色で告げた。
「モリスにはさとうきび畑の管理をお願いしたいと思います」
モリスが風呂で汚れと疲れを落としている間、着替えを準備したのはアニーだ。道ばたにバタッと倒れていた女性が賢者だと聞いて、そわそわしていた。
そんなモリスは侍女のお仕着せ姿で、食べ物がたくさん並んだテーブルについた。もちろん、そこにはエレノアとセシリアの姿もある。
「わたくしたちもこれから朝食でしたから」
「本当にありがとう。エレノア、セシリア。私、お腹がペコペコで……いただきます!」
出会ったときからお腹をぐぅぐぅと鳴らしていたのに、食事の場にふさわしい格好をしていないという理由で、きちんと湯を浴びて着替えたモリスを褒めてあげたい。
セシリアはあたたかいコーヒー牛乳をごくりと飲んだ。砂糖もいれてあって、甘くて香ばしくて美味しい。
「このパン。かわっているね?」
モリスが食パンを手にした。食パンもセシリアの謎の記憶をもとにジョゼフに作ってもらったパン。
セシリアの説明もとにエレノアが絵を描き、それを見たジョゼフが「こんな感じでしょうか?」と試作品を作って、それを何度か繰り返してできあがったのがこの食パンだ。
両面をこんがりと焼いて、バターやジャムをたっぷり塗ってもいいし、卵料理をのせて食べても絶品である。
それでもセシリアは食パンを食パンと呼んでいいか悩んだ。しかし謎の記憶が食パンだというから、セシリアの周辺では食パン呼びが浸透している。
「それに、何? この牛乳。牛乳なのに色がついているし、甘い」
モリスが大絶賛したのは、セシリアもお気に入りのコーヒー牛乳。
「それはコーヒー牛乳です」
自分の好物を褒められると嬉しくなるもの。
「牛乳にコーヒーを混ぜました」
「コーヒー?」
「はい。フェルトンの街で昔から飲んでいる、豆を炒って作った飲み物です。みんな苦いお茶と言っていたので、コーヒーという名前をつけました」
「へぇ~茶葉じゃなくて豆ね。それに……甘いのよ。この甘さが疲れた身体に染み渡るわ~」
セシリアが砂糖について説明しようとしたとき、エレノアが視線を向けてきた。こうやってセシリアが調子にのって喋りすぎると、エレノアが止める。
セシリアは、見た目は七歳の女の子。過去視や未来視によって得た知識をむやみやたら口にするなと、姉からは何度も注意されているのだが、調子にのって話してしまうこともしばしば。
「先ほど、モリスが倒れていたところの近くに、大きな草が生えていたでしょう?」
セシリアの言葉の続きをエレノアが奪った。そしていつまでたっても、さとうきびは大きな草扱い。
「あぁ……あったね、背の高い草だね」
「あの草から、砂糖と呼ばれる調味料を、ここで作っているのです。こちらのコーヒー牛乳にはその砂糖が入っています」
「甘い調味料? 砂糖? 初めてきいたわ。もうとにかく、ここの料理はどれも美味しい」
モリスの手も口も忙しなく動いていた。
だけどお腹がいっぱいになった頃、ぱたりとその手が止まる。
「あぁ、もう。最高! そういうわけでセシリア。あなた、私の弟子にならない? そうすれば私も、ここにいる口実ができる」
モリスはにやりと笑ってみせるが、セシリアはきょとんとする。思わず、手にしていたパンをぽとっと落としてしまったほど。
「モリス。弟子とはどういうことでしょうか?」
呆けているセシリアにかわって、エレノアが説明を求める。
「いや、言葉のそのまんまの意味なんだけど。今までは隣のロックウェルの子どもに魔法を教えていたのよ。だけどその子ももうひとり立ちできるようになったからね。それで私は精霊に導かれて、アッシュクロフに来たってわけ。本当は王都に向かうはずだったんだけど……まぁ、そこなら人もいっぱいいるし、学園もあるっていうのが理由なんだけど。だけど、その途中で道に迷ってここにいる。さらにここには面白い子がいて、弟子にしたいと思ったら、何も王都まで行く必要はない」
セシリアだって魔法を教えてもらいたいお年頃だ。以前は母親のシンシアに、そして次は学園を卒業したエレノアに教えてもらってはいたけれど、今では母親は本邸にいるし姉は領主代理の仕事で忙しい。
学園には十二歳から通えるものの、それだってあと四年もあるし、今となっては学園に通いたいとも思わない。理由はエレノアがいないから。そして王都にはジェラルドとイライザがいる。セシリアにとっても、できることなら顔を合わせたくない二人でもある。
エレノアは黙り込んで何やら考え込んでいるが、モリスはコーヒー牛乳をおかわりして、がぶがぶ飲んでいる。
「お姉さま。セシリアはモリスに魔法を教えてもらいたいです。だってモリスは賢者様ですよね?」
「……そうね」
そう呟くエレノアだが、それはあきらめと期待が混じるような微妙な声色だった。むしろエレノア自身に言い聞かせるような決意にもとれる。
「わかったわ。モリス、セシリアに魔法を教えていただけるかしら? セシリアはまだ特定の精霊とは契約をしていないのだけれど」
「まかせておきなさい」
モリスが胸を張って、とんと叩く。
「それから、モリスにはもう一つお願いしたいことがあるのですが」
「なに? もうエレノアのお願いごとならなんでもきいちゃう。あそこで君たちに出会わなかったら、私は野垂れ死ぬところだったよ。そういった意味では、エレノアたちは命の恩人だ」
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