堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます

澤谷弥(さわたに わたる)

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【第一部】堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます

29.任務完了です

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 グリフィン公爵とその部下を含む計五名が護送され、この廃倉庫にはジルベルトとダニエル、そしてエレオノーラとウェンディだけが残された。

「はぁあああああ。もう、疲れました」

 へろへろとその場に座り込むエレオノーラ。

「エレン、その恰好と行動が伴っていないから、少しは慎め」

「ところで、ウェンディ殿に打ったものはなんだ?」
 ジルベルトが腕を組んで尋ねた。

「気持ちよくなるお薬、ですか? 栄養剤です。ウェンディの名演技のおかげですね。グリフィン公爵が持っている薬の中身は全部入れ替えておきましたから」

「全部?」
 ダニエルが尋ねる。
「はい、全部です」

「では、第一が押収したものは?」

「あ」

 エレオノーラのそれでダニエルは察した。「で、本物はどこにある?」

「こっちです」
 とエレオノーラが立ち上がって場所を移動しようとすると、ふわりと上着をかけられた。それはジルベルトの騎士服の上着。

「エレン。お前の服装は、露出狂並みらしいぞ?」

「何を言っているんですか? 私はセクシー町娘に変装していたんです。露出狂ではございません」
 ジルベルトから渡された上着に袖を通しながらエレオノーラは答えた。

「セクシーな女性は、自分でセクシーとは言わないわね」
 笑いながら言うウェンディに、エレオノーラは頬を膨らませた。

「まあ、エレンが気付いているのか気付いていないかわからないけれど。あなた、さっき回し蹴りしたわよね? そのときにそのスリット、けっこういっちゃったと思うのだけれど?」
 さすが女性目線。鋭い。多分、ジルベルトも気付いていたのだろう。だから無言でそれをかけたのだ。身長の高いジルベルトの上着を着ると、エレオノーラの膝上まで丈がある。これでなんとか、けっこういっちゃったスリットを隠してくれるはずだ。
 エレオノーラが三人を案内したのは、廃倉庫の二回にあたる部分。ここは床が木の板でできている。

「この床板の下に隠しておきました」

 ジルベルトがじっと見つめると、一か所だけ不自然な板があった。一度剥がしてまたはめたのだろう。ジルベルトは膝をついてその不自然な板に手をかけた。

「ふん」

 メキッと板が剥がれた。

「おお、さすがリガウン団長」
 ダニエルが呟くと、ウェンディもなぜかパチパチと手を叩いている。

「これか?」

 ジルベルトが聞いてきたので、エレオノーラはそうです、と答えた。ジルベルトがわざわざこれか、と尋ねたのは、そのお目当てのものが変な壺の中に入っていたから。いや、ダニエルにはこの壺に見覚えがある。

「おい、エレン。これ、我が家の壺じゃないか」

「あ、バレましたか? 栄養剤をこの壺にいれて運んできて、しれっと入れ替えておきました」

「何がしれっとだ。今だってこれ毎運ばなければならないだろう。こんなの父上にバレたらなんて言われるか」

「あ、お父さまには内緒にしておいてください」

「もういい。リガウン団長、大変申し訳ないのだがレオンを屋敷まで送っていただけないのだろうか」

「ダニエル殿は?」

「私はウェンディと共に、これを総帥に届け出る」

「わかった」

 ダニエルは壺を抱えて、廃倉庫を出る。どうやら騎士団の馬車を残しておいたらしい。元々ダニエルは王宮の方へ戻るつもりだったのだろう。

 二人残される。エレオノーラは再びその場所に座り込んでしまった。

「あの、リガウン団長」

「どうした?」

「あの、終わったと思って安心しましたら、腰が抜けてしまいました。いや、あの、ホントに。今回の任務は毎回ヤバイって思っていたんですよね。その、グリフィン公爵とお会いする度に。バレたらどうしよう、みたいな感じでした」

 ジルベルトはエレオノーラの隣に腰をおろした。

「今日も、まさかグリフィン公爵がこちらの作戦にのってくれるとは思ってもいなくて。本当に一か八かみたいな感じでした」

 ジルベルトはそっとエレオノーラの背中に手を回す。

「リガウン団長やウェンディも巻き込んでしまって、本当にごめんなさい」

「グリフィン公爵の件は、我々も把握していたが証拠を掴むことができなかった。今回こうやって拘束できて、あの薬物を押さえることができたのも、エレンのおかげだ」

 エレオノーラは泣きそうな笑みを浮かべた。笑っているように見えるけれど、目尻が下がって今にも涙が溢れそうだ。

「ごめんなさい。あの、本当に怖かったんです」

「ああ」
 ずっと一人で敵陣に乗り込んでいたのだ。そのような気持ちになるのも仕方のないことだろう。騎士団は団ということもあり、集団で動くことが原則だ。基本的には単独行動はしない。だから、単独で騎士を動かす第零騎士団はそれだけ異質ということだ。

「冷えてきたな、戻ろう」
 ジルベルトは立ち上がり、エレオノーラに向かって手を差し出したが、エレオノーラはそれを取らない。

「あの、リガウン団長」

「ジル、だ。エレン。もう任務は終わった」

「あの、ジル様。立てません」

 ふっと、ジルベルトは笑った。
「わかった。だったら、前か後ろか、どちらがいい?」

「前か後ろ?」

「抱っこかおんぶだな。立てないのだろう?」

「でしたら、おんぶでお願いします」

 するとエレオノーラの目の前に広い背中が現れた。
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